蔵の奥
内容としては前前作「蔵の夢」前作「蔵の外」の続きになっています。
「柚、先行けよ」
「やだよ。祥が赤飯持ってんだから祥が先行きなよ」
「母さんが無理矢理俺に持たせただけだし。ほら、扉開けろって」
「はいはい。あー早くしないと時間が」
「何の時間?」
「逢魔が時」
「そーいうのやめろって。冗談にならん」
「本当は時代劇の再放送」
「え、お前あんなん見てんの? しっぶー」
「勧善懲悪の時代劇は日本の伝統だ。見て何が悪い」
「悪者倒して印籠突き付けてこの紋所が目に入らぬかーってワンパターン、飽きねぇ?」
「飽きんよ。ほら祥、ゴー」
「……行きゃいいんだろ。柚、しっかり照らせよ」
「もち。北の壁って一番奥?」
「そ。階段裏」
「へー。おかがみさま、かぁ……聞いたことある?」
「全然。文献でも絵でも見たこともなし」
「だよなぁ。局所発生型妖怪とか?」
「なんだそれ。ほら、あそこ」
「あ、あれ。確かに神棚っぽいね」
「置いて帰ればいいんだよな?」
「たぶん。燭台には脇に行ってもらって……ほら、祥」
「これでいっか。じゃ、さっさと出よーぜ」
「だね。婆ちゃんには悪いけど、捜索は延期で」
「お赤飯なんて幾年ぶりでしょうか」
「「うわぁっ!」」
「まぁ、そのように魂消ないで下さいな。先刻は私が悪かったのですけれが」
「でっ、でたっ!」
「あの、私の話、聞いてらっしゃいます?」
「狐の面かぶってらっしゃる……」
「男子でしょう、静かになさい。あまり口喧しいと祟りますよ」
「ひぇっ」
「あっあの、おかがみさま、ですか?」
「おかがみさま……ああ、久しく呼ばれていなくてすっかり忘れてました。此処の方達はそのように呼ばれますね」
「……えっと、神様、ですか?」
「神なんて大層なものではありませんよ」
「妖怪って祟れるっけ?」
「妖怪ではありませんよ。祟りは口から出任せです」
「「……」」
「嗚呼、此処のお赤飯はやはり格別ですね」
「……マイ箸で食べてるし」
題:祟り、時間、絵
20090503:初出(三題噺参加作品) 20111101:移植 20111123:編集