蔵の外
内容としては前作「蔵の夢」の続きになっています。
「はぁっ、はぁっ」
「はぁっ……はぁ、も、だい、じょぶ、だよな」
「と、思う、よ」
「柚、お前、なんで、間違ったんだよ」
「だって……見た目、祥と一緒、だったんだもん」
「だからって普通、従兄弟とお化け、間違えるか?」
「足があったんだよ。声も同じだったし」
「……お化けって、足あるんだ」
「そもそもお化けじゃなくて、狐狸かもしれんよ」
「あぁ、俺に化けてんだもんな……」
「だろ? 化けられたら、俺だってわからんよ」
「そっか……柚、御題目、効くと思うか?」
「オダイモク?」
「南無妙法蓮華経」
「え、お前日蓮宗だっけ?」
「や、無宗派」
「じゃあなんで知ってんの」
「変な事対策。相手が妖怪とか幽霊だったら、お経とか退魔法が効くかと思って覚えた」
「……お前、涙ぐましい努力してるな」
「あら、二人とも何してるの?」
「伯母さん!」
「母さん! 大変なんだよ!」
「それはいいニュース? 悪いニュース?」
「どっちかっつーと、悪いと思う」
「あらやだ。じゃあ聞きたくないわ」
「いい年こいた大人が耳塞いで駄々こねるなよっ。蔵に出たんだってば!」
「蔵に? 柚くん本当?」
「あ、はい。その、祥そっくりに化けたのが……」
「祥そっくりなの? どうせなら柚くんそっくりのがいいのに」
「どういう意味だよ、母さん」
「まぁま、それは置いておいて。そっくりさんが出たのよね?」
「はい」
「じゃあ、お赤飯炊かなきゃね」
「はぁ? なんで蔵に出たらめでたいんだよ!」
「あら、あなたたちには教えてなかったかしら?」
「何を、ですか」
「蔵の北壁、ノートくらいの凹みがあるでしょう?」
「あ、小さい神棚みたいなのと燭台が置いてあった」
「それね、たまに蔵に出るおかがみさまを祭ってるのよ。それで、おかがみさまが出たらお赤飯炊いて、お帰りを祝うの」
「……それ、妖怪? お化け?」
「座敷わらしみたいなものじゃないかしら。おかがみさまがお戻りになるの、何十年ぶりかしら。お赤飯炊いたら、祥と柚くんで蔵に置いてきてね」
「えっ、なんで?」
「化けられた人と出会った人がお赤飯を置くのが風習なのよ。じゃあお願いね」
「「えーっ!?」」
題:お題、壁、ニュース
20090329:初出(三題噺参加作品) 20111101:移植 20111123:編集