蔵の夢
「っかしーな、確かここら辺のはずなんだけど……」
「お前の記憶違いじゃねぇの?」
「や、確かに蔵のここら辺だって婆ちゃん言ってた」
「んな夢で言ってたこと真に受けんなよ」
「お前にはわからんって。毎晩毎晩死んだ婆ちゃんに夢枕に立たれて『ゆう~、蔵ん中さ入れた桐箱を探してけろ~』『ゆう~、桐箱さ見つかったか~』って言われ続けてみろよ、探さなきゃおられんくなるから」
「そりゃご愁傷さま。てかさ、何で同じ家に住んでた俺じゃなくて柚の方に化けて出るわけ?」
「知らんよ。聞いたらさ、夢を渡るのにお前より僕のが相性良かったらしいね」
「夢を渡る? ……お前も昔っから変な事に巻き込まれるよな」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
「お互い様か。あー腰痛ぇ」
「文句なら婆ちゃんに言えよ。僕だって腰痛いし」
「前屈みしっぱってやっぱキツいよなー。腰パキパキ言うし」
「僕も」
「なんか懐中電灯の具合も悪いしさ。さっきからちらつくんだよな」
「電池なくなってきてるんじゃない?」
「かもな。放置されてたやつ拝借してきたから」
「してくるなよ」
「一応借りるって言ってきたし」
「誰もいない空間に向かって?」
「そうそう。……なんで柚はわかるかね」
「だってお前単純だもん」
「あっそ。マジで電池ヤバそうだから換えてくるわ」
「いってら。早く帰ってこいよ」
「怖がりの為に頑張ったるよ」
「超特急でな」
「はいはい」
「…………わざわざ化けて出るなんて、一体何隠したんだよ婆ちゃん…………これは茶碗か……こっちは……蓄音機? なんでまた…………これは掛け軸だし……壺は割ったら嫌だからパス。この箱は……桐なの? 木箱ばっかでわからんし。せめて箱のサイズ教えてくれないとホント探すのに困るし。開ければわかるってヤバい系なのかな…………これは市松人形か。暗いとこで見ると不気味だなぁ……早くしまおっとせ」
「ただいま」
「うわぁっ! ……まじビビったし。おかえり、早く探すの手伝ってくれ」
「はぁ」
「ちょ、この箱どかすの手伝って」
「はぁ」
「たっだいまー」
「え?」
「え?」
「柚、箱持ってる奴、誰?」
「「…………」」
「「でっでたぁーっ!!」」
「……脅かす気はなかったの。ごめんなさい……」
題:電池、見つかった、ごめんなさい
20090316:初出(三題噺参加作品) 20111101:移植 20111123:編集