第五話「地下迷宮にはお約束のボスキャラがいる」
ここはどこだ・・・
気が付くと硬い床の上に立っていた。
足元には白い輝きが円を描いている。
おそらくあの光の終点がここなのだろう。
とりあえず魔獣共はいないようだ。
さて、ここからどうするか・・・
周りの風景は先ほどとは違ってなにか生き物の体内のような感じがする。。
壁面の所々に不気味な青白い光を放つ突起がある。
これが何なのかは分からない。
しかし、この薄明かりのおかげでなんとか周りを見ることができる。
何だこりゃ?
壁面に近づくと、岩のように見えたのは何か奇妙な膜のようだ。
よく見るとその下には人工物と思われるものがある。
膜はそれほど厚くないがネバネバして気味が悪い。
ここもあまり長居したくない場所だ。
見渡すと洞窟のような通路がいくつか口を開けている。
どれを選ぶか・・・
サイリの顔をみる。
サイリは全く迷う気配もなく一つの方向を指さした。
「あの通路です。 あそこから外に出られます」
そこは他の通路よりも格段に広いが、白い粘液質のものが網の目のように張って閉じられている。
力づくで通ることもできそうだが、あまり気持ちのいいものじゃない。
よし!
サイリを床に降ろして思念を集中する。
「思念破!」
網の目状の粘液がバラバラに千切れて吹き飛んだ。
その向こうに何か黒い大きな塊がある。
その塊がいきなり動きだした。
形は先ほど戦った魔獣どもとよく似ているが大きさはあの数倍はある。
十本の脚を巧みに操って通路の奥から急速に走り寄ってくる。
こいつがここのボスってわけだな!
「サイリ! 隠れてろ!」
サイリを壁面のへこんだところに押し込んで自分はその反対側へと走る。
上手く誘いに乗った魔獣が俺を追いかけて向きを変えた。
速い!
もう一度思念破を撃ちたいところだが集中する時間がない。
眼の前に迫った魔獣が口を開けた。
反射的に横に転がるのと同時に奴の口の中からなにか飛び出してきた。
それは先端が向かい合わせの鈎になったような形のものだ。
俺を捉え損ねたそいつがすぐに口の中に引き戻される。
おそらく獲物に近づいてその鈎爪の付いた触手で捕らえ、口の中へ引きずり込むのだろう。
けたくそ悪いやつだ!
獲物を捉え損ねた魔獣が、今度は前二本の脚で攻撃してくる。
くそっ!
避けるのに精いっぱいで攻撃に移る隙がなかなか掴めない。
その時、シグの言葉を思い出した。
俺の左手に巻いてある手甲には目くらましの花火が仕掛けてある。
シグはここの魔獣が光に弱いと言っていた。
花火に点火!
一瞬あたりが真っ白な光に照らされる。
魔獣が咆哮をあげて、一瞬怯んだ!。
一瞬だったが、俺にはそれで十分だ。
体勢を立て直し、背中の剣を引き抜く。
「思念斬!」
再び攻撃してきた魔獣の正面に斬り込み、頭部に剣を打ち下ろす。
これで真っ二つになる・・・はずだった。
斬り下ろした剣がそのまま弾き返された。
なんだと!
こいつの甲殻はおそろしく頑丈だ。
そこへ横から前脚が襲ってきた。
余りにも接近し過ぎていたためかわしきれず、脇腹に強烈な一撃を食らって壁際まで跳ね飛ばされる。
しまった!
そこはサイリが隠れている場所のすぐ横だ。
魔獣が猛然と襲ってくる。
ここで攻撃を受け流せばサイリが見つかってしまう。
いちかばちかだ!
魔獣に向かってダッシュし、きわどいところで攻撃を避けてジャンプする。
空中で姿勢を変え、魔獣の胴体の上から体重をかけて剣を突き下ろす。
今度は多少手ごたえがあって、剣の切っ先部分が突き刺さったようだ。
致命傷には程遠いが魔獣を猛り狂わせるには十分だ。
剣を引きぬいてそのまま魔獣の後方へ飛び降りる。
恐ろしい咆哮をあげて魔獣が向きを変え、突進してくる。
その時、後方からサイリの声が響いた。
「クロン様! こっちらへ!」
見るとサイリは先ほどこの魔獣が出てきた大きな通路の脇に立っている。
あのバカ! 隠れていろと言ったのに。
魔獣も間違いなくサイリに気付いた。
間に合うか!
全力疾走でサイリのところへ走る。
魔獣も後ろから追ってきているはずだ。
広い通路まで来るとサイリは既に通路の中で壁面に向かって何かしている。
「何してる! 逃げるぞ!」
抱きかかえようとするがサイリは壁際から離れない。
通路の入り口を見ると、魔獣が中に入ってくるのが見える。
その時、通路全体が明るくなり、出入り口の上から壁のようなものが急速に降りてきて魔獣を挟み込んだ。
躰の調度細くなった部分を挟み込まれた魔獣が咆哮をあげて脱出しようともがいている。
「クロン様! 今です!」
まさにその通りだ!
大技を出すために思念を集中する。
両手を魔獣に向けて突き出し・・・
「思念貫!」
両掌からまばゆい光が飛び出し、魔獣に突き刺さった。
その瞬間、爆発したように炎が噴き出し、魔獣の体がばらばらに砕けて飛び散った。
俺の後ろでサイリが身を硬くしてこの光景を見ている。
「お前、何をしたんだ?」
「・・・分かりません・・・ただ、何となくこうするのがいいかと・・・」
サイリの手はまだ壁面の何かを触っている。
その部分をよく見ると、レバーのようなものがある。
そしてその上方になにか文字のようなものが書いてある。
全く読むことはできないが、何となく重要そうな感じの目立つ書体だ。
「書いてある意味がわかるのか?」
「いえ、全然解りませんが、これが役に立ちそうな気がしたので」
やはりシグと出会ってからのサイリは何かに目覚めたように見える。
あるいは奴隷商人の折檻で息も絶え絶えになっていたところを回復させるため、俺の魔導力を少し注ぎ込んだのが関係しているのか?
とにかく一番ヤバそうなやつは始末したが、こんなところに長居は無用だ。
サイリを連れて通路を進むと再び広いホールに出た。
ホールの中央にまた光の柱が立っている。
このホールには魔獣の類はいないようだ。
もう行くしかない。
サイリを抱え上げて光の柱の中に入る。
てっきり上昇するのかと思ったら、今度は底が抜けたように下に落ちてゆく。
今度はどこへ行くのやら。
いつの間にかサイリが俺にしがみついていた。
--以下、第六話に続く--




