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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

MY GANG・STAR(短編バージョン)

作者: M MAN
掲載日:2026/04/19







ーー8:20


「...あの映画...あれ...そうだシンドバット...七回目の冒険...?いや航海か?」


「航海だビリー。俺も見た。あれポルノ映画だろ」


「馬鹿が。本当に見た?!最高だよな?!あの古臭い感じとシンドバットの色気が凄いよな!」


「まじか?俺はクソだと思ったよあの映画」


「なんだって...もう一回言ってみろ...」


「はっきり言ってゴミの中のゴミだ。怪物は魅力的だったがな。お前と女がくっついているくらいの気持ち悪かった」


 周りからクスクスと笑い声が聞こえる。


「クソ野郎が。映画の良さが分からねえ奴は人間じゃねえぜ...いいかよく聞け。あの映画は凄いんだぞ」


 ビリーは手をあげてジェスチャーしながら言い始めた。


「あの映画にはな、壮大なカタルシスが込められているんだ。勿論普通のじゃない。」

「冒険・ドキドキ・ハラハラ。エロはないが十分楽しめるんだ。完璧だ。マジでパーフェクト。」


(パーフェクトって完璧って意味だよな...)

 カートが眉をひそめる。


「パリサ姫をもとの姿に戻すために冒険に出るんだが、これがとてつもなく危険な旅路」

「シンドバットは他人のためにそんなに頑張れるんだ。」

「まあセックス目的かもしれねえけどな。助けてヤるつもりだったのかもしれねえ。朝昼夜、一時間に一回くらいヤる気だったのかもな。」

「だが、それでも助けることには変わりない。シンドバッドは凄いんだ」


「ヤるのか?だったら見るぜ」

 横からジェイが割り込む。


「エロはないって言っただろ話聞いてるのか?」


「話は聞いていたがただ単に気になっただけだ。カッカするな子供みたいでダサいぜ」


「黙れ!」


 周りからはクスクスとずっと笑い声が聞こえる。


「あんまり怒鳴るな。運転に集中できないだろ。朝っぱらから疲れさせないでくれ。まだ8時だ。」

 ウイスタンが疲れた様子で後ろに言った。


「8時なんてもう朝じゃない。ほぼ昼みたいなもんだろ」

 ジェイが困惑した顔でウイスタンを見る。


「俺にとっては早朝だ。」

 ウイスタンは眠たそうにあくびをし、目を細めながら運転をする。


「せっかく珍しい4人だ。しりとりでもするか?」


「低レベルだなカート。ここはロシアンルーレットだな」


「...馬鹿かジェイ。一人減るんだぞ」


「冗談だっての。他に遊びねえのかよ?幼稚すぎんだろ」


「じゃあお前が考えろ俺が10数えるまでにな」


「いいぜ。上等だ」


「10」


「まて合図くらい...」


「9」


「ちくしょう!」


「8」


「あートランプ!」


「7」


「運転中の俺を馬鹿にしてるのか?」

 ウイスタンが言う。


「6」


「うっせー片手で運転くらいできるだろ」


「5」


「あーもう!」


「4」


「手遊び」


「3」


「シコシコ!」

「ぶっ!」


「2!」


「まて...」


「1」


「分かった負けだよ負けだ!」


「ほら言ったとおりだ。しりとりでいいよな」


「勿論。」

 一人を除いて全員がそう答えた。


「じゃあ始めるぞ。しりとりの"り"から...リス」


「スル」

 とカート。


「ルーレット」

 とウイスタン。


「トイレ」

 とジェイ。


「連打」

 とビリー。

 そのあとは同じ順番で進んでいった。


「騙す」


「スパイ」


「イく...ぶっ!」


「...面白くないぞジェイ」


「くんに」

 カートが順番をずらして言った。


「...カート!」

 

「肉」


「クリスマス」


「スリスリ」


「リンゴ」


「ゴリラ」


「ラジカセ」


「セックス」

「もうやめようお前らあとで覚えとけよ。ジェイとカートと...ウイスタン...」


「お前以外だな!」


「...くそ!」

 車内に笑いがあふれ出した。

 みんな腹を抱えて笑う。


「さぁ楽しい会話は終わりだ。目的地だぞ」


「うぇ...ボロボロマンションじゃねえかよ。」

 ジェイは苦笑いをしながらマンションを見つめる。


「まぁまぁ。いいじゃないか」


 ウイスタンは後ろを向いて言った。

 カートはポケットに手を突っ込んで”ちょっと待ってくれ”と言わんばかりにウイスタンを見る。

 ジェイは細い目でウイスタンを。

 ビリーは笑顔でわくわくしたかのように。



「とにかく外に出るぞ。皆ドア開けて降りろ」















=MY GANG・STAR=












ーー18:20


 外は暗闇で覆われている

 アジトの倉庫には冷たい空気が駆け回る。

 倉庫の外では、コンビニのライトの光や、車の音でにぎやかな雰囲気だ。

 灰色の壁は、どこか哀愁漂う雰囲気を作り、血に濡れている。

 ネズミか分からないが、ガサガサと音が鳴り、腐敗臭が漂う。

 時計はちょうど6時30分を指している。


「はぁ...はぁ...」

 片手には銃を持っている。

 もう片方はブラブラと血が流れる腕を下に向けている。


「ぐ...」

 見下ろすと銃口の前に二人が座っている。

 二人は顔から血を流している。


 二人ともウイスタンの事を睨みつけている。

 ウイスタンはただ銃口を突き付けている。


 二人は見覚えのある顔の奴らだ。

 一人はビリー

 一人はカートだ。


「はぁ...はぁ...」

 ウイスタンは今にも倒れそうなくらい息を荒げている。

 顔を見上げた。


 見上げた先は血まみれの部屋だった。

 部屋の中はあちらこちらに血が飛び散っている。

 床には銃と、倒れた人間が散らばっている。


「...あ...あぁ」

 ウイスタンは倒れている奴らを見て呟いた。


「...ケニー...ローレンス...ジェイ...」


 倒れている人は全員片手に銃を持っている。

 大量の血を出しながら彼らは倒れていた。


「どうなってるんだよクソが...!」


「俺が言う」

 ビリーが肩を抑えながら言った。


「裏切り者の件でピリピリしてたろ、そしてあんたが外に出ていた時だ。いきなり誰かが銃でケニーを撃ち殺した。それまではただ呑気に座っていただけだ。そして皆乱戦状態。悲鳴を挙げるわ叫びまくるわで大混乱だ。そして銃の煙が消えるとカートが立ってた。」


「よくのうのうと嘘をつけるもんだ。」

 カートが横から入り込む。


「アドナスは今どこにいるんだ?」

「トイレだ。だから生き残っているはず...」

「で、嘘って...」


 カートが言い始めた。


「あんたが出て行って、アドナスがトイレに行って、その後、ビリーがケニーに銃口を向けたんだ」

「なんだって?!もう一回言ってみろ!」


「そしてビリーが[全員ぶち殺してやる]って、そして乱戦が始まった。運が良いことに俺は生き残ったが、目の前にはビリーはいたんだ」


 ウイスタンは瞬時に状況が理解できずに戸惑っている。

「くそ...くそ...!」


 ウイスタンは困惑した顔で二人に言った。


「二人とも違うこと言ってたら分かんねえよ!だからなんでこうなってる?!」

「俺は本当の事を言ったぞ。殺したのはビリーだ。」

「それは違う!カートが嘘をついている!」


 ウイスタンは頭を抱え始めた。


「...んねえよ...わかんねえよ...訳がわかんねえよ...」


 その時...

 部屋の奥のドアが開いた。



「...うわあ!」

 アドナスだ。

 びっくりして後ろで飛び跳ねた。


「は?おい!ローレンス?!おい!」


 目の前にある血まみれの死体に語り掛ける。


「ちくしょうなんだっ...」

 言い途中で、部屋の惨状に気が付いた。

 アドナスはしばらく固まった。


「...おいどうなってんだ...?おいウイスタン?!」


 アドナスはウイスタンに駆け寄った。


「誰だこいつ...ビリーとカート?!なんで銃なんか向けてんだ!」


 アドナスは終始困惑している。


「いいかアドナス一回落ち着け...俺も落ち着いていないが...」

「...あ...ああ」


「まず...お前は俺が出て行った後にトイレに行っていた。」

「そうだけど...」

「そして俺が戻ってくるとこの有様だった。生き残っているのはこの二人だ。二人はそれぞれ違うことを言っている。」

「...は?何言ってんだよ?」


 ビリーが横から割り込んできた。

「おい!カートを殺せ!このクソ豚野郎は仲間を殺しまくったんだぞ」


 カートが睨みつけて言った

「嘘を言うのも大概にしろ!この殺人犯め!裏切り者が!」


「なんだ?俺が裏切り者だっていう証拠があるのか?」

「あぁ十二分にある。逆にお前はどうなんだ言ってみろ!」


 カチャッ...

 ビリーは拳銃を素早く出してカートへ向けた


「はぁ...はぁ...」






ーー8:30

 朝の太陽が茶色いマンションを照らしている。


「...レオンみてえなマンションだこと」


 ジェイはマンションを見つめながら言った。


「お前の映画オタクっぷりはすげえよ。あだ名まで思いつくぜ」


「どんなあだ名だ?」


「フリックマン。どんな事も簡単に弾いちゃうクソダサい人間」


「死ね」

「いいか作戦通り行くぞ。ビリーとケニーで外待機だ。俺とカートで攻めていく。二人は銃を構えとけ」


 ビリーは車に手を置いて言った。

「分かってらぁ。逆にそっちこそ気をつけろよ。」


 プルルルル...

 ウイスタンの携帯が鳴り響いた。


「はい」

「...はい。わかりました」


 ウイスタンは30秒ほどで携帯をしまった。

「報酬はボスが一人100万くらいだとよ」

 ウイスタンが笑いながら言った。


「それじゃ行ってくる」


  ジェイはウイスタンを見ながらガムをくちゃくちゃ音を立てながら噛む。

  ビリーはジェイをチラッと見て言った。


「...パルプフィクションって知ってるか?」


「くちゃ。なんだそれ?くちゃくちゃ」


「ギャングの映画。あの二人がその映画を連想させてさ」


「面白そうだな。くちゃくちゃ」


「面白そうじゃなくて面白いんだ。タランティーノは天才だ」


「タランティーノか...俺は王道のスピルバーグ派だからあんまだな...」


「お?言った?じゃあ見てみろ」


「分かったよ、わかったって。集中しろ」


「まぁいいや。車に乗ってるぜ」





「なぁそいつ(ターゲット)ってどんな奴なんだ?」

 カートはウイスタンに不思議そうな顔をして聞いた。


「さぁ。初対面だし知りたくもねえな...」

 二人はぶつぶつ言いながら階段を上がっていく。


「というかエレベーターで良くないか?ウイスタン。疲れるぞ」


「エレベーターは気づかれるかもしれないだろ。それにエレベーターは嫌いなんでね」


「嫌い?なんでだよ」


「揺れが嫌いだ。」


「そんな理由で体力を使って、いざって時にどうすんだよ」


「お前が体力ないのは知ってるんだ」


 ウイスタンは呆れた顔でカートに言った。


「はぁ...」


「大声を出すな馬鹿野郎。」


「...」

「銃を用意してろ」


 ウイスタンとカートはポケットの後ろで銃をカチャッとセットした。




 ジェイはマンションを見上げながらガムを食らう。

 


 ビリーは車のクラクション音を鳴らした。


「ちゃんとマンションじゃなくて周りを見てろー!いつ行動するか分からないだろ!」


 窓ガラス越しに濁った声で聞こえる。


 

「分かってらぁ!」


 ジェイは反論してから周りを見回し始めた。




「くっそ廊下も長いのか」

「黙って歩け。」


 二人の足音が廊下内に響き渡る。

 なんとも劇的に。




 外からジェイとビリーが廊下を歩く二人を目撃した。

 ジェイは双眼鏡を片手に窓に映る二人を見る。


「くちゃくちゃ」


 ガムを食う音と同時に二人とも銃を手に持つ。




「...ゴクリ...」

 カートは唾を飲み込んだ。


 ウイスタンは黙って歩き続ける。


「ここだ。」


 カートはドアを見ながらウイスタンに聞く。


「インターホン鳴らすか?」


「...馬鹿なのか?」


「嘘だよ冗談だよ、本気にするなって」


「...入るぞ」



 

 ウイスタンは思いっきりドアを蹴った。

 破片がそこら中に散らばる。




「おいおいぶっ飛んでるな」

 ビリーは笑いながら見る。





 ウイスタンは蹴ったほうの足を前にしたまましばらくの間止まった。

 部屋の中では若い男4人組が驚いた様子でウイスタンを見ている。

 部屋の窓から猛烈な風が吹いて、2人は険しい顔をしながら言った。

 

「入るぜ」


 そういうとウイスタンは部屋の中をどんどん進んでいく。

 後方からカートもにやけながら続いて入っていく。

 


「...」

 4人組は黙ったままポーカーをした様子で止まっている。

 もちろん違法なポーカーだ。

 机の上には酒4人分とそれぞれの薬が置いてある。


「この酒はなんだ?」


 ウイスタンに聞かれた4人組は口をゴワゴワさせて言った。


「...ト...トカイ...」


「ほぉ!銘柄は?」


「トカイ・フォルディターシュ...全員...あ...同じ」


「一口いいかな?俺もトカイ好きなんだ。カート飲むか?」


「イエス!」

 カートは後ろから返事をすると駆け足でウイスタンのもとへ行った。


「それじゃ、コップに注いでくれねえか?」


「あ...あ...はい...」


 4人組はそれぞれの目を見あって、一番身長の低い男がいそいそと席から立ち上がる。


「ありがとうな」


 背の低い男はボトルを持ってきて、ゆっくりとコップに注ぎ始めた。

 手が震えてウイスタンのスーツに2,3粒着いた。

 男は汗をかき始めた。



「どうした?震えてるぞ?病気か?」


 男は首を横に振り、大丈夫とサインする。

 今度はカートの方へ注ぎに行く。


「ありがとう」


 男はひどく怯えて、注ぎ終わると同時に駆け足で席へ戻った。


「それじゃ、一口。」


 ウイスタンとカートは同時にぐいっと飲む。

 酒はどんどん減っていき、一気に二人とも飲み干してしまった。


「くーっ!最高!はっはっは!」


 カートは笑いながらおいしいおいしいと繰り返す。

 ウイスタンは驚いた顔で4人組に話しかける。


「うまいな!フォルディターシュは初めて飲んだがハマるな!」


 4人組は恐る恐るウイスタンを見つめる。


「うちのボスも同じこのトカイが好きなんだよ」


 ウイスタンは上機嫌にいう。


「ボスの奥さんもトカイが好きで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 4人組は一斉に目を見あう。

 全員汗をかき始める。


「あ...あの...」


 一人がウイスタンに向かって言う。


「あなたたち...何しにここに...?あなたたちの組織は知ってますが何か御用が...?」


 ウイスタンは笑顔で言う。


「ああ言い忘れてたな」


 ウイスタンは真顔になって怒鳴り散らした。


「お前らわかんねえのか?!ボスの妻を寝取っただろ!」


 一人の男が怯えに怯え言った。


「...知らない...」

「あ?」

「知らない...」

「あ?!」

「知らない!そんなボスを裏切るような行為...誰がやるんだ?!」


 バン!

 部屋に銃声が鳴り響く。

 男の足に銃弾が当たった。


「あああああああああああああ!」


 男は悶絶し、足を抑える。

 他のメンバーはずっと下を向いたまま震えている。


「い...あ...あああ...!」


 ウイスタンが睨みつけて言う。


「やってるから言ってるんだろうがそんくらいも考えられねえのか?!お前らは、他人の妻とイチャコラした!事実だ!」


「そんなん誰が言ったんだ?!そそれにあああの...根拠は?!」

「おーい」

 後ろからカートの声が聞こえる。


「部屋にこんなん落ちてたけど」


 カートが手に持っていたのは写真だ。

 ...ボスの奥さんのアダルト写真だが。


 一斉に黙り込んだ。

「これについては?」


 一人が声を出した。

「あ...そ...それはおれの...」


 バン!

 声を出した奴はその場で勢いよく倒れた。

 

「あ...いてぇ...ああ...!」

 一人足を抱えているのを覗いた2人はそれぞれ目を合わせる。


「これについては?!」


 2人はじっと下を向いて汗をかいている。


「聞こえてんのか?!あ?!次は足を撃った奴の頭をぶち抜く!」


 カチャカチャっと鉄の音が小さく聞こえる。


「お前らにはちゃんと教えてやらないとな」


 ウイスタンは足を抱えている奴に向けて銃口を向けた。


「1つ!我々はボスへの反逆心を持たず、仲間を殺さないこと」

「いてぇ...ああ...!」


 ウイスタンの指は引き金に強く当たる。

 


「2つ!ボスへの侮辱的行為をしない」




 2人ははぁはぁと息を吐いている。



「3つ!裏切らないことだ!」



 バン!

 バンバン!

 ババン!

 ウイスタンは銃を乱射した。

 部屋の中は白い煙でいっぱいになる。



 足を抱えていた男はその場で血を吹いて倒れた。


 カートは後ろから細い目で見つめる。


「...あと2人...こいつらか」

 ウイスタンは呆れた顔で銃を差し出した。


「ルーレットだ。ロシアンルーレット。やれ」


 2人は顔を見合わせる


「いいからやれ!」


 1人が前へ歩き出す。

 ゆっくり。

 慎重に。

 恐ろしいほど怯えて


「よーしいい子だ」


 男は手を出した。


「いい子だ」

 バン!

 手を出した男は腹を抱えながら後ろへ倒れた。


「あ...あぁ!」

 最後の1人は怯えている。


「ついてこい。お前。」


「あ...ああああ!」


「お前耳あるのか?!さっさと立て!」


「...あ...」


「おし。出るぞ」


 ウイスタンとカートは後ろを振り向いて、銃をしまった。

 生き残りはただついていくだけ。


「これで報酬は?いくらだ?」

「一人十万あたりだろ。うれしいぜ」

「十万?!お前さっき何て言ったけ?」

「冗談もわからないのか」


 二人はぶつぶつ言いながら部屋を後にした。



「ふー...血は...ついてるか?カート」


「あんたはついてない。俺は?」


 二人は話しながら長い廊下を歩いていく。


「ああついてない。下であいつらが待ってる。速くいこう」


「早く行くならエレベーター使ってみようぜ。ウイスタン」


「...」

 ウイスタンは止まってカートの方を見つめる。


「俺はエレベーターが嫌いだと何回言わせるつもりだ?」


「あんた一回しか乗ったことなくて、それが幼少期だろ?そんなの今では怖くないだろ」


「怖いんじゃなくて揺れで酔うんだ。ゲロぶちまけても良いなら乗るぜ」


「じゃあ行こう」


「お前はバカか?これほど嫌だってのになぜそんな行かせたがる?」


「楽だし体力を使わない」


「楽だからなんだ先祖はみんな車なんてなかったんだぞ」


「それは過去だ。今の事を考えろ。今は十分に楽ができるようになっている。その楽を作るのには凄い時間が必要だ。その時間の中には様々な人々がいる。その人たちに感謝をして、楽をしようってこと」


「...ものすごい持論を持ってることだ。」

 そういうと二人はもう一度歩き始めた。


「だがこれが最後だからな?いいな?」


「分かってる。ただ乗らせたかっただけなんだ」

 奥の方でチンとベルの音が鳴った。


「ゲロ吐いてもお前が責任取って掃除しろよ?」


「はいはい」


 ちょうど角を曲がった所にエレベータが到着した。

 エレベータの中から一人の暗い感じの男が出てきて、二人はその次の瞬間乗った。

 後方から一人がついてくる


「ああ神様...」

 チンと音が鳴り響いた。

 鈍い音を立てながらドアが閉まる。


「ああ...」


「どうだ?」


「怖くて死にそうだよ...」


「そうか。だが楽か?」


「...そうだな」


 エレベータ内はガタガタと揺れ続ける。

 2Fのライトが点滅した


 二人はずっと上の階表示を見つめる


 1Fのライトがついた。


「いやエレベータ神だな」


「そうか?!やっと気づいてくれたのか!」


「いやそれにしても...」


「ぅぃ....」




ーー18:30

 重くてどっしりとした空気が部屋中に広がる。

 外の暗さが余計にそれを引き立ててるのだろう。



「とりあえず二人とも銃を置け。良いか」

 ビリーとカートは銃を地面に置いた。


「いいか、喧嘩や殺しが起きたら真っ先に始めたほうを殺す。わかったか」


 アドナスは二人に指を指しながら言った。

「...了解」

「OK」

 アドナスは興奮状態だ。


「ちくしょう!どうなってんだ」

「とりあえず...アレは確定している」

「なんだって...まて、ウイスタンお前その言い方だと分かるぞ俺は。分かるぞ」

「...ああ。考えたくもないがな」

「どちらかが殺した...のか?」


 アドナスとウイスタンはドアをチラッと見る。


「意味が分かんねえよ?!」

「俺も分からない。残念だが...」

「まて...ホラ」


 アドナスはタバコを一本差し出した。

 ウイスタンはそれを持つ。


「...フーッ...ありがとう」

「大丈夫だ...フーッ...」

「...とりあえず分かったか?」

「分かんなければよかったのにな...クソが...!ギャングスターにでもなるつもりかよ!」


 ドン!

 アドナスは壁を思いっきり蹴った。


「ギャングスター?なんでだ」

 ウイスタンが聞く。


「"このグループがボスを殺そうとしていたから俺が殺しました"何ていったらこの組織のトップにたてるだろ。ボスを守ったから。すべて嘘だけど。名声はつく。」

 アドナスは苛ついている顔で言った。


「トップか...」


「とにかくどちらかが殺した。これは事実だ」


「だがどっちだ?」


「アドナス...何があったんだ」


「みんなで映画見てたんだ。シンドバット7回目の冒険ってやつ。だがなんかピリピリしている空気はあった」


「なんでだ」


「聞くまでもないだろ...裏切り者の件だよ。」


 アドナスは少し間を置いた。

 沈黙の時間が続く。


「...どちらか...か。2人とも容疑者なんだろ。」


 アドナスはウイスタンに聞いた。

 ウイスタンは無言のままうなずいた。


「まず...状況整理だ。ビリーは何ていってたんだ?」


「ビリーは


俺が外に出た瞬間、いきなり誰かが銃で乱射し始めた。それまではただ呑気に座っていただけで、そして銃の煙が消えるとカートが立ってた。


と...」


「カートは?」


「ビリーが[全員ぶち殺してやる]と言って乱戦が始まった。運が良いことにカートは生き残ったが、目の前にはビリーがいた


と」

 ウイスタンはタバコに火をつけながら言った。


「ふん...あいつら本当のこと言えば良かったのにな...」

 アドナスは言いながら座り込んだ。




ーー21:45

 お洒落な壁、ポスター、酒の種類。

 カレンダーは21日を指している。


「この店の酒は美味いんだ。ボス。何というかサッパリしてて、疲れてるときに飲むと最高」


「OK、OK。了解だ。それじゃ一杯貰う。トカイを頼む。」


「...やっと分かってくれたよあんたは」


「俺は普段酒よりも炭酸を飲むからな。酒って聞くと何だか拒絶するんだ。」


「なんでだよ」


「何だろうな。普段一ミリも触れないからか?だって急に行ったことのない通路行こうって言われても断るだろ」


「それはそうだ。だが酒はあんたが思っている10000倍は美味いぜ。頭がパーッとなる。薬物を決めたように。コカインとマリファナを適度に両方同時に吸ったものと同じ快感がある」


「俺は薬物も吸わない」


「...それじゃ話は別だ。じゃあなんであんたは炭酸が好きなんだ?」



「トカイ」

「ありがとう。」


「...炭酸は酒と同じ中毒性を持っている。だからいいんだ。」


「意味が分からないぜ。だったら酒でいいじゃないか」


「炭酸は血行を良くするんだ。だから健康面的にとても良いんだ。酒は脳が腐っちまう。」


「なんだって健康面を気にしているのか?!」


「俺が健康を考えていないとでも?」


「違う。健康なんて考えなくていいんだよ食う時は」


「太っちまう」


「デブになるかならないかは人それぞれだ。食事くらいパーッとなりたくないのか?」


「ああ。油を取りすぎても困るしな。」


「まったく話が分からない人だよあんたは...」


「...お前はいつもこんな静かだっけか?」


「いやぁ騒がしいあいつらがいないですから。だっていたら好きな女とかヤりたい女とか、女の話しかしないですから」

 ウイスタンは笑いながら言った。

 同時にボスも笑う。


「それもそうだな。あいつら今何してるんだ?メンバーは...7人だっけか」


「俺、カート、ビリー、アドナス、ケニー、ローレンス、ジェイです。どうせ皆で映画でも見てるでしょう。エロいシーンが出てきたら絶対やってる。シコシコシコシコって」


「ふっ!ひーっ!」

 ボスは勢いに負けて笑う。


「そりゃ元気そうだ。まぁそろそろ本題に入ろう」


「本題...依頼の事ですよね」


「そう。これは完全に私情があるんだが...」


「全然。きっとあいつらも喜んで依頼を受けますよ。」


「ならうれしいがな。あー...俺には妻がいることを知っているよな」


「ええ勿論」


「寝取られたんだ」


「寝取られた?」


「...内部の者に。妻もそいつに一目ぼれしていてな。まだいいんだがなんせ薬物をやらせた。ドラッグを。致死量に近い量をやられた」


「内部の者がそれを?」


「そうだ。5人組のな。事件はちょうどお前らが入隊したころに起きた。妻を危険にはさせたくなかった。それに立派な俺への侮辱行為だ。判明したのは今朝だがな」


「オーマイガッ!ですね。...殺す?」


「その通りだ。容赦なくやってもらっていい。殺すくらいがちょうどいい」


「いや..."殺せ"ですよね。分かりました。」



ーー12:43

 丁度お昼時。

 食べ物のカスが倉庫のそこら中に散らばっている。


「この通り、ボスの妻が寝取られてしまった。」

 アジトにて。

 ウイスタンはメンバーを座らせて喋っている。

 クスクスと笑い声が微かに聞こえる。


「なんだ?」

「なんでもない...ふっ」


「とにかく、これはヤバい事件だ。それで一回、この組織の決まりを復習することにしよう」


「復習?」


「そうだ。何故かはわかると思うが、この事件は決まりに全て違反しているからだ」

 メンバー全員が静まり返った。

 ウイスタンの声が部屋に響き渡る


「決まりを破る行為はこの組織内では許されないことになっている。」


 ウイスタンは手をサッと出して言った


「許されない行為には必ず死が待っているだろう。どんなにも恐ろしい拷問を受けて」


「ペンチを持ってきて...顔を出させる。歯を一個ずつ抜き、指を潰していく。ゆっくりと時間をかけて」


 ウイスタンはその場で歩きながら手を後ろに戻した。

 なんとも落ち着かない様子で


「その後はベロを出させる。ブチブチッと音が鳴ると同時に違反者は悲鳴をあげるだろう」


「あとは目ん玉を...」


 ウイスタンは拳を振り上げた

 同時に拳を思いっきり振り下げる

「バン!だ。バン!じゃなくてメキメキの方がよいかな」


「...とまぁそんな話をしたが、勿論決まりは覚えてるよな。指名していくぞ」


 ウイスタンは指を指した。

 指した方向にはカートがいる。


「まず一つ目。なんでも」


「ボスへの反逆心を持たず、仲間を殺さないこと...?」


「...OKだ」

 カートはほっとしたように座った。


「次、映画オタク!」

 ケニーだ。


「ボスへの侮辱をしない!」


「いいね。OKだ。」

 ケニーは喜んで座った。


「次、アドナス!」

 アドナスは自信満々で語った。


「ボスへのため口禁止!」


「...お前はアホか?」

 周りからクスクスと聞こえる。


「え」

「残念。次!ローレンス!」

 ローレンスはダルそうに立ち上がって言った。


「裏切らないこと」


「OKOK!完璧だ。まっすぐで気の短い男(アドニス・クリード)とは違うな!」

「それはアドニスだウイスタン。」


 横からケニーが割り込んでくる。

 みんなゲラゲラと笑い転げる。


「...もういい!とにかく、これから更に重大な発表をする。"俺らが裏切り者をぶち殺すんだ"」


 みんな目を見合わせる。


「ただし、メンバーを決めた。俺含めた4人だ。」


「俺は?!」

 ジェイは興奮して聞いた。


「順番に言うからな...いくぞ」





ーー18:45

 時刻は18:45分...

 湿った梅雨の空気が漂う。


「悪いが俺はビリーだと思う」

 アドナスは下を向きながら言った。


「...どうしてだ?」


「胡散臭いんだ。カートを攻めまくってて演技っぽいんだ」

 アドナスはビリーに指を指しながら言う。


「裏切り者だったら...ジェイは死んでたさ。マンションについた時には。」


「馬鹿かお前は。外だからに決まってるだろ?」


「外だからなんだ逃げればいいだけだろ」


「だったらさっき殺った方がどちらか混乱させられる」





「どちらも殺せばいいんだ」

 アドナスは閃いた顔で叫んだ。


「なに?何て言った?」

 ウイスタンはアドナスを睨みつける。


「殺せばいいんだどちらも。二人でグルを組んでいる可能性だって大いにあり得るぞ」


「馬鹿かお前は?こんな盛大に嘘ついて命かけてる理由なんてあるか?グルはあり得ないし、二人とも殺すのは違うぞ」


「そうすれば解決するさ。間違えて犯人じゃない片方撃って裏切り者にその後殺されるだけだ」


「いい加減にしろ少しくらい考えてから殺せばいい。」


「考える時間なんて必要ない。裏切り者はすぐにも動くんだぞ?!」


「それで一人仲間を殺すのか?!味方の奴を?!」


「ああそうだ。なんせもう3人は死んでるんだ!」


「だからなんだ!殺して良いことにはならないだろ!」


「よくあんた(ウイスタン)が言えるな。今まで俺たちはバンバン殺してきて、別の人になるとこれか?」


「仲間だろ!」

 ウイスタンは精一杯叫んだ。


「あいつは殺してこいつは殺さないか。都合がいいもんだ。自分の思い通りになるだけかと思ったか?!」


 ドス!

 ウイスタンは思いっきりアドナスの腹を蹴った。

 アドナスは激しく後ろへ飛んでいった。


「この野郎...!」


 ウイスタンは倒れたアドナスを再度蹴り上げる

 何度も何度も


「うわあ!」

「この野郎!おい!」

「ぎゃあ!」


 アドナスは悲鳴を挙げる。


「クソが...!」


 アドナスは拳を振り上げてウイスタンめがけて殴った。

 ドス!


「うぇ...!」


 ウイスタンはその場で倒れた。

 アドナスは立ち上がって息を切らす。


「はぁ...はぁ...あんたちゃんと考えろ...!」


「う...うぅ」


 ウイスタンはアドナスを睨みつけて言い放った。


「いい加減にしろ...!」


「あんたこそな!」


「黙れ!二人とも殺すなんて論外だ!どちらかは無罪だからな!考えろ!」


「へっ、そんな事じゃあ今のこの場面は解決できないぜ!分かってるけど言われて慌ててるのが見えるぜ...」


「ぐ...」


「あんたはすぐそうやって都合が悪くなるとそうやって暴力に走るよな!良いリーダ面しやがって!」


「俺はリーダーだ!」

「どこが"良いリーダー"だ!確かにあんたはリーダーだが素質はゼロだ!俺が迷ってるときなんてずっと何も考えないでいただろ!俺が考えを発言したってあんたは考えない癖に否定ばっかりだ!」


「考えてるさ!」


「考えてるなら考えてるなりに行動しろ馬鹿野郎!俺しか行動に移してないぞ?!この薄らボケめ!」


「...」

 ウイスタンはアドナスの胸倉をぐっと掴んだ。


「立てよ...」

 アドナスは唾をごくりと飲み込んだ。



 ガン!

 ウイスタンはアドナスを壁へ押し当てた

 痛そうな音が部屋を行き来する。


「お前には分からないさ。リーダーじゃないからな」


「う...」

 アドナスは痛みをぐっとこらえる。


「責任・緊張・恐怖・士気・疲れ、全部お前らは分からないだろうな」

「責任感に問われ、失敗するときの緊張、仲間を失う恐怖、チームの士気を上げる、それらの疲れ」


「分からないよな」

 ウイスタンは震えた声で言う。

 アドナスは何も言い返せなくて口がごにょごにょしている


「...だからなんだってんだ。そんなのには甘くないぞ...」

 アドナスは言いながらウイスタンの手を取っ払う。


 静かな時間が永遠に感じられた。




ーー8:23


「...8時23分。これが最後の時間だウェイナ」

 男は靴ひもをじっくりと結ぶ。

 淡々と。


「...えぇ...ボス...様...」

 女は暗い顔をして男を見つめる。

 玄関の端っこには重そうなバッグがある。


 玄関は全部白色で、クローゼット以外ほぼ何もない。


「よし...」

 男は立つと同時にバッグを持ち上げた。


「じゃあな」

「えぇ...」


 男はドアを重く悲しそうに開ける。

 女はただ、男を見つめていた。


 ドアが重々しく閉じた。


 男は深くため息をついて家の敷地を出た。


「はぁ...」





「死ね!クソメス豚野郎!お前との生活は楽しくなかったよ!お前の小さくて入んないんだよ!死ね!浮気野郎!クソビッチが!死ねぇぇえ!ボスなんてお前が言うな!デブビッチが!」




 男は中指を出しながら勢いよく叫んだ。

 声は森の奥まで響く。


「クソが!」

 ボスはポケットから車のカギを出した。


「クソ!クソ!クソが!」

 ボスはぶつぶつ言いながら荷物をのせていった。

 そしてラジオボタンを荒々しくおした。

[Good morning everyone! It's time for "American BIG"!]


 ノイズの音が激しい。

[Let's get going~!]

「浮気野郎...どんだけ気を使ったか知らないのか...!」


 カギを差し込んだ。

 後ろの方でエンジンの音がブルンブルンと鳴る。


[with this song right from the morning!]

 ボスは思いっきりアクセルを踏んだ。

 車は勢いよく走り始めた。




[Nobody going to take my car I’m going to race it to the ground♪]

 車は人ごみの多い街中を颯爽と走っていく。

 風がびゅうびゅうとボスの体へ当たっていく。


「そうだ...あいつらに電話...」

 ボスはそういうと片手に携帯を持ち、電話をかけた。


[Ooh it's a killing machine It's got everything...]

「出るといいが...」


 プルルルル...

 ボスは携帯を耳へ近づける。


「出るか...?」

[I love it! and I need it!]


[はい。]

「ウイスタン!今マンションについたか?」


[...はい]

「大丈夫だ。報酬はがっぽがっぽだ!仲間たちには一人100万ずつって言っとけ。あいつらは釣られて張り切るぞ」


[...はい]

「それじゃファイト!」


 ボスは画面をスワイプして携帯をしまった。


「...よし」

 ボスは時計を見た。

 ハッとした様子で前を見る


「やべぇ時間だ...!」






「あー...その...えー...」

 ボスは苦笑いを続ける。

 お洒落でゆっくりなジャズの音楽がずっと背景で流れ続ける



「...」

「...ッチ」

「...はぁ...」

 目の前には呆れた表情でボスを見つめる3人がいる


 アドナス、ケニー、ローレンスだ。


「渋滞してたんだ。だから遅れちまった。あと道に迷ってね...ハハ」


 ケニーが言う

「つい最近にウイスタンとここで会ったのに道に迷うんですか?」


「まぁ...年だし...」

 ボスは苦笑いをしながら言う。

 3人は顔を見つめあってボスを睨みつける。


「本当は妻と猛烈にシてて...最後のな」


「浮気女っすか」

 ローレンスが割り込んでくる


「馬鹿!」

「いいんだケニー。浮気野郎なのは間違いない」




「...カルピスソーダ」

「ありがとうマスター!まぁ許してくれ、報酬はレアなものにするから。」


「報酬とかよりも仕事内容は?」

 アドナスが困惑しきった顔で言う。


 ボスはソーダを飲んでいる。

 一気に飲み干してしまった。


「あぁ...ちょっとまって...」

 そういうとボスはポケットから写真を出す


「こいつなんだが...」


 写真にはとある男が映っていた。

 身長はちょうど高すぎもせず低すぎもせず。

 耳にピアス

 服は黒ずくめ。

 男は片手に透明のビニールを持って、手前の男に差し出している。


「"ヘンダーソン・ベッチ"。薬の手配人だ。ほら、このビニールの中にあるのは白い粉だろ?」

 ボスは写真に指を翳した。

 確かにビニールの中には白いものが入っている。


「ウイスタンらが行っている任務のターゲットに薬を差し出していた」


 アドナスはウイスキーを飲みながら言った。


「まて、あんたは奥さんと離婚したって言ってただろ。」


「そうだ」


「は?不倫相手の事はもうウイスタンたちだけでよくないか?!」

 アドナスは立ち上がって怒鳴った。


 ボスは慌てて申し訳なさそうに言った。


「話を最後まで聞いてくれ、他にも理由はある」


 アドナスは険しい顔をして座った。

「組織の一人が殺された。ベッチもとある組織の一人だ。依頼では差出人でも容赦なく殺す」


 ローレンスはうなずいた後、顔を近づけて言った。


「...それで殺せばいいのか?」


 ボスはゆっくりとうなずく

「痛めつけて終わりでもいい。ただし再起不能には必ずしてくれ。奴はここの路地裏にいる。」








「ボスって抜けてるよなどこか」

 ケニーがため息をつきながら呆れた表情で言った。


「組織自体が終わってる。」

 ローレンスは眉を顰める。


 アドナスは運転したまま後ろを向いた。

「組織自体が終わってるとは?」


「いい加減な組織だ。依頼もはっきり言って曖昧だ」

 ケニーは続ける


「ボスは気が抜けてる。約束の時間に来なかったり、ギャングとして失格だ。ルールもいい加減だ。もっと細かくすれば良いのに。はっきり言って馬鹿だ」


 ローレンスはタバコに火をつける。

「ごもっともだな...」


 アドナスは前を向いたまま言った。

「言われてみれば...だな。別に遅れても報酬が貰えればいいんだが...」


「それだ!報酬だ。組織全体がいい加減だ。まともなのはカートくらいだな。ウイスタンは怪しい。報酬がすべてなんだよこの組織は」


「ケニー。報酬が全てじゃないのか?」


「アドナスは何を言ってんだ。頭のぼせてるのか?もっと大事なものがあるだろ」


 アドナスはため息をついた。

「はいはい」


 ローレンスはケニーの肩をポンポン叩いて励ます。

「おい、銃を構えとけ」











「うちの子は...どうでしたか?先生」


「奥さん...深呼吸してください...大丈夫です。落ち着いて聞いてください」


「ねぇ?!違うって言ってよねぇ?!」


「...残念ですが...」


「ねぇ?!!!うっ...うっ...うっ...!」


「厳密に言うとですね...頭に傷があるんです」


「それで...うちの子が...?!」


「ただし、傷がですね...落ちたようじゃないんですよ」


「え...?」


「ええ。傷がとても深い。落ちた時なら擦り傷が多いんですが...近くに誰かいました?」


「え...あ...上の子が...ベッチというんですが...」


「ベッチ君ですか」


「えぇどうしたんです?」


「恐らくですがベッチ君がやりましたね。木から落ちたと?」


「え...はい...」


「...ベッチ君をこっちに連れてきてください」


「わかりました...」

 女性は部屋を出て遠くまで聞こえる声量で言った。


「ベッチ~?!」

 もう一回


「ベッチ...」




 ドン!

 地面に強い衝撃が走る音がした。

 なにか硬いものが地面に落ちた音だ。


「奥さん?!」


「...」


「奥さん??!」


「...」


「え...君...?何してるの?」

「ちょ...まって...」

「服...血まみれだけど...」

「何?こっちにおいで...」






 

 鈍い音が、室内に響き渡った。
















ーー9:00



 バン!

 バンバン!

 ババン!


 銃声が微かに鳴り響いた。

 男は耳が良いので聞こえた。


「!!」

 男はびっくりして物陰に隠れた。

「なんだ...?仲間割れはないよな...今回の手に入れるの苦労したんだぞ...」

 黒いコートをサッと被って拳銃を構える。


 目の前にはパルプフィクション風のマンション。

 男は小走りでエレベーターに向かって走り出した。


 バン!

 更にもう一発。


 男はびっくりして立ち止まってしまった。


「くそ...なんなんだ?」

 男は汗をかきながらエレベーターのボタンを押す。



 その時、ポケットから何かが出てきた。


「あ...」

 レシートだ。


「ムカつかせやがって...!」

 男は面倒くさそうにレシートに手を伸ばした。


「届かな...」

「あいよ」

 住民が取ってくれた。

 住民は優しい瞳で男へレシートを差し出した。


「朝からイライラしてても嫌でしょ」

「...ありがとう」


「にしても珍しい名前ね。”ベッチ”?レシートに名前を書くなんて変なことしてるのね」


「あー。ちょっとした習慣でね。変だけど」


「ふーん...」

 住民は不思議そうな顔をして去って行った。


 ちょうどエレベーターがついた。




 チン

 鐘の音がエレベーター内に響く。

 

 ゆっくりとドアが開いていき、ベッチは下を向いて前へ出た。


「...」

「ゲロ吐いてもお前が責任取って掃除しろよ?」


「はいはい」


 陽気な二人組がいる。


「...」


 後ろにはもう一人

 3人の内2人はベッチの顔を見つめていた。


 ベッチも顔を見る。


 1人は汗をかきながら深刻な顔でベッチを見つめる。


 ベッチは顔を振った。



「ああ神様...」

 3人はエレベーターで降りていった。


 ベッチはゆっくりと部屋へ歩いていく。

 唇を嚙み締め、速足で。


「くそ...くそ...」


 ベッチの足音がマンション内に響き渡る


「くそが...!」



 バン!

 ベッチは思いっきりドアを開いた。



「!!」

 ベッチは固まってしまった。




「あいつら...」



 ベッチは恐る恐るゆっくりと部屋の中へ進んでいく。


 ゆっくりと進んでいく。



 リビング...ポーカーが残っている。

 机の下に2人、血まみれで横たわっている


 キッチン...また1人


「く...」

 ベッチは慌てて個室へ向かった。


 個室は荒らされていた。

 部屋のものすべて床に落とされていた。

 写真のギャラリーから一つだけ、取られている。




「カナフ(ボス)のところだ...!」

 ベッチはそういうと思いっきり暴れ始めた。


「くそ!くそ!くそが!」


 ガシャン!

 机を蹴り上げた。


「一体この薬にどれくらいの時間を費やしたと思ってる!」


 ガン!

 思いっきり壁を叩く。


「死ね!死ね!くそが!」


 ガン!ガン!ガン!!

 何度も何度も叩く。


 

 ベッチは下にある死体に目を向けた。

「なぁお前」


 指を指す


「俺の怒りがわかるか...?」


 ベッチは拳銃をセットする。


「どれくらい時間を費やしたんだろうな。」


 ベッチは死体の胸倉をつかんで怒鳴り散らした。


「なぁ?!」


 パァン!

 ベッチは死体へ向けて発砲した。


 血は花火のように部屋へ飛び散る。

 弾は目玉に刺さり、そこらじゅうに飛び散る。


「次だ...なぁ...まだ収まらないぜ」


 ベッチはキッチンへ向かった。

 早歩きでキッチンへ向かう。


「はぁ...はぁ...!」


 ガラン...

 乱暴にナイフを取る。


「なぁ...」


 ベッチはもう一度死体の胸倉を掴む。

 ナイフをさっと出した。


「わかるか...?」


 ベッチはナイフを上へ持ち上げる。


「なぁ...?!」

 ナイフを振り下ろした

 

 

 ドス!

 ナイフは頭に突き刺さり死体は床へ放り捨てられた。


 ベッチは言いながら何度も繰り返す。


「わかるかって聞いてんだ!」


 何度も刺す。

 服に血が大量につく。


「おい!おおおおおいいい!」

 

 ドス!ドス!ドス!ドス...


 死体は見るに堪えない姿へと変わった。


 部屋は血まみれ、ベッチも血まみれになった。


「はぁ...はぁ...」

 



 ベッチは荒々しく走り始めた。

 マンションの廊下を颯爽と。


「ちくしょう...」


 ベッチはエレベーターを無視して階段をかけ降りていく。


「うわぁ!」

 急いで何度か落ちそうになった。


 ガタ...

「あ」



 ドドドドド...

 ベッチは思いっきり階段から落ちた。


「くっそ...」

「おい大丈夫かい?あんた!」


 さっきの住民だ。


「偶然だが...本当に大丈夫かい?!服が血まみれだよ!」

 住民は心配そうにベッチへ駆け寄る。



「大丈夫...だ...」

 ベッチは辛そうに起き上がる。


「あんたこの血どうしたんだ...?!」

 住民は不思議そうな顔でベッチを見つめる。


「全身血まみれじゃ...」

 住民は下を向いた。


 住民は震えあがって固まってしまった。

 ベッチの手に拳銃があったからだ。


「あんた...あ...」


「別に君に危害を加えることはない」


「...」



「邪魔しやがってあのクソ野郎!」

 ベッチは街を走りながら叫んだ。


 周囲からジロジロ見られる。


「あとちょっと...あとちょっとだ...はぁはぁ...」


 街中は人通りが多い。


「朝から安いよ...」

「ママー!!」

「今日の朝はこれ!新風味ピラフ...」

「号外号外!大統領が重大発表だぞ~!」


 街中は声で溢れかえっていた。


「く...」

 ベッチは人にぶつかりまくる。


「急がなきゃ...ちくしょう...時間は...?」


 ベッチは腕にある時計を見た。


「9:10...大丈夫だ...うわぁ!」

「どこ見てんだ!」



 ベッチは駆け回った...





ーー9:15



「おえ...」

 家に着いた時にはもうクタクタだった。

 もの凄い量の息を吐く。


「とりあえず...持っていくもの...」


 ベッチは周りを見回した。

 車はなし

 誰かが入った痕跡もなし。


「よし」





 ガラガラ...

 ガラスとガラスがぶつかり合う音が鳴り響く

「シンナー...これは...ナイロングループのもの...これも...必要だ」

 ベッチは必要な荷物をまとめていた。


「くそ...」


 部屋には様々なものがある。

 はっぱ。

 粉。

 カプセル。

 キノコ。


 すべて取引用だ。


「はっぱ...lv100も...あと金だ...」


 ベッチは急ぎ足で金庫へ向かう。


「番号...確か...」

 ぶつぶつ呟きながら金庫室の前へ立った。


「...903584」

 

 手が震えてまともに回せない。


「くそ!901…」


 体全身が震え始める。


「ちくしょう...」






 ピンポーン...

 ベッチはハッとして玄関の方を振り向く。

「あいつらだ...!」


 ベッチは恐怖で固まってしまった。




「...出ねえな」

 アドナスはイライラしながらチャイムを連打する。


「当たり前だろ。出るかよ普通」

 ローレンスはアドナスを突っつく。



「それに、こいつ結構プロの殺し屋と聞いたが...」

 ドア越しに3人の会話が聞こえてくる。


「5歳で弟と母親と医者を殺したと。」

「どうやってだローレンス?」

 ケニーは不思議そうに聞く。


「野球バット。彼は野球が好きだったらしい」

 ローレンスは退屈そうに言った。


「クズ野郎じゃねえか。殺してなんぼだな」

「まぁいい。開けるぞ。どけアドナス」

「俺が行く。ケニー」


 アドナスは扉の前に立つ。


 バキ!

 アドナスは扉を思いっきり蹴った。

 気の破片があちらこちらに飛び散る。



 家の中は静かになっていた。

 不気味なほどシーンとしている。


「...」

 アドナスはゆっくりと足を入れる。


 家の中は散乱している。

 ガラスの破片だらけで、裸足で入ると絶対けがをする。


「構えてろ」

 アドナスは後ろに聞こえるくらいの声でつぶやく。


 続いてケニー、ローレンスと恐る恐る家の中へ入りこむ。


 家の中にいると、朝なのに夜に感じる。


「俺はこっちに行く。ケニーはキッチンの方へ。ローレンスはリビング。確定で家の中にいる」

「なんでだアドナス」

「靴がまだある。それに窓は開いていないし車も外にある。」


 アドナスはゆっくりと洗面所の方へと歩き始めた。

 ケニーはキッチン。

 ローレンスはリビングへ。


「...」

 ケニーはゆっくりと慎重にキッチンへ入っていった。


 キッチンはごく普通のキッチンだ。

 清潔で、汚れが一つもない。


「...?」

 ケニーは目を大きく開けて遠くを見る。

 冷蔵庫に貼ってある複数の写真に気が付いた。


「写真...」

 ケニーは強く銃を握りしめる。


 そして反対の手をゆっくり伸ばす。

 手が震えてまともに取れない。


 ケニーはやっとの思いで写真をとった。

「...なんだこれ...?」


 写真には裸の女性ともう一人の男がベットの上で一緒にいるのが映っていた。

 女性は挑発的なポーズをとっている。


 ケニーは眉をひそめた。

「こいつ...」


 ケニーの目線の方には男がいた。

「...」



 リビング...

 何とも言えない部屋だ。

 そこらじゅうにガラスの破片が落ちている。


「わお」

 ローレンスは惨状を見て声が出た。


 棚は薬物関連のモノでいっぱいだ。

 天井には血のような赤いシミがついている。


「ハッピーな部屋だ」

 ローレンスは苦笑いをしながら言った。




 アドナスは慎重に隅々まで見回していた。

 常に銃を構えて。

 

 玄関の奥には長い廊下が見える。

「ッチ」


 アドナスは舌打ちをして向かっていく。

 胸の高鳴りが収まらない。


「!!」

 アドナスはサッと廊下に飛び出した。

 幸いにも廊下には誰もいないし、影も一つもない。


 アドナスはゆっくりと洗面所まで歩いていく。

「いるんだったら出て来いよ...!」


 大きい声で言った。


 バキ!

 アドナスはドアを蹴り上げた。

「...」


 アドナスは恐怖で震える。

「おい...おい…!」


 洗面所には誰もいなかった。

 鏡は清潔で上品な部屋だ。


 アドナスは息をはぁはぁと鳴らす。

「...!!」


 その瞬間、アドナスは驚いた顔で震えあがった。

「狂ってやがる...!」



 洗面所の棚には、見たことのある女の顔が飾ってあった。

 顔は生け花のように飾られ、染みが顔にちょこちょこついている。


「ボスの...妻...」

 アドナスは口に手を当てた。


「う...うぇ」

 今にも吐きそうだ。

 アドナスは急いで洗面所を出て行った。




「クズだな...!」

 アドナスは吐き捨てるように言ってその場を去って行った。


 そしてそのまま階段へ向かった。



「痛...!」

 ローレンスは足を上げて言った。

 足にはガラスが突き刺さっていた。


「ちくしょういてぇ...」

 恐る恐るガラスに手を伸ばす。


 手には冷たい物の感覚が少しだけできた。

「ぐ!」


 思いっきり手をひっこめた。


 赤い血が透明なガラスの上へ落ちていく。

「いてえ...」



 ローレンスは片足でリビングを出て行く。

「向こうは...」


 リビングの奥に、もう一つ部屋が見える。

 目を大きくして見つめる。

「書籍?」


 ローレンスは足を引きづりながらも進んでいく。

「いたいなやっぱ」


 小言を挟みながらどんどん進んでいく。

 足からは血がポタポタと少しずつ垂れている。


「...わぁ...」

 ローレンスは思わず声を上げた。

 本棚には1000を超える本がずらりと並んでいる。

 四方八方に本棚があり、幻想世界にいるような感覚に落ちる。

「すげぇ...」


 本は様々なジャンルに分かれてる。

 ローレンスは周りを見回した。

「江戸川乱歩...シャーロックホームズ...H・Gウェルズ...」

「”そして誰もいなくなった””宇宙戦争””宝島”」


 ローレンスは本をパラパラと読んでいく。

「”モロー博士の島””人の人体について””セックスと妊娠”」


 ローレンスは不思議そうな顔をした。

「”女と男””生と死””人間標本”」


 ローレンスは眉を顰める。

 異常な本が並んでいるからだ。


「”ロボトミー手術と人体””人の関節部位の秘密””暴力とアルゴリズム”」

「”殺しとは””頭の応急処置””ギャングの世界””薬物と裏社会”」


 ローレンスは恐怖で怯え始めた。


「”最悪な死に方””怪物と言われた男””人の殺し方”」


「”蝶の交尾””子宮の傷つけ方””性器について”」


「”後ろだよ”」

 突然後ろから声が聞こえた。

 ローレンスは瞬時に後ろを振り向く。



「死ねぇ!」

 ベッチだ。

 ベッチは斧を持って、精一杯振りかざした。


「!」

 ドガン!

 斧は本棚に思いっきり当たった。

 紙切れと木くずがあちらこちらに吹き飛ぶ。


「ベッチ...!」

「おら!」

 ドガン!

 さっきより激しく振りかざす。


「くっ...」

 ローレンスはさっと避け、銃を取り出した。

 銃口はまっすぐベッチへ向いている。


 バン!

 白い煙が立ち上る。


「うわぁ!」

 ベッチは顔をそむけた。

 銃弾は斧にあたり、鉄の音が鳴り響いた。


 ベッチは駆け出した。

「まて!」


 ローレンスは少し遅れて追いかける。

 ベッチは廊下をどんどん走っていく。


 家中にガタガタと走る音が響き渡る。

「まてぇえええ!」

 

 ベッチは窓へダイブした。




 ガシャン!

 ガラスが雨のように窓から飛び散る。

 そこらじゅうにはガラスの破片が落ち、それと同時に少量の血も落ちる。


「ローレンス!」

 アドナスが音を聞いて駆けつけてきた。


「ベッチか?!」

「奴は外だ!追いかける!」

「あ...ちょ!」

 ローレンスは走って窓を通っていく。


「ケニー!」

 アドナスは精一杯の声で言った。






「はぁ...はぁ...!」

 ローレンスはベッチを追いかけていく。

 ここの街道は人で混雑している。

 


「どけ...!」

 ベッチは死に物狂いで人を押しまくって逃げる。

 顔は狂気そのものだった。


 周囲の人々は不審そうにガヤガヤとベッチとローレンスを見つめる。


「どけ!」

「いてぇえ!」


 押された人々はベッチを睨む。


「う...」

 ローレンスの足から血が垂れてくる。

 さっきのケガだ。走って傷口が開いたのだろう。

 ベッチはどんどん遠ざかっていく。


「待てこの...!」


 バン!ババン!

 ローレンスは残党めがけて銃を撃った。


 銃声は人々の悲鳴でかき消されてしまう。


 

「待て!おい!おい!おおい!」

 ローレンスは鬼の形相で足を引きずりながらベッチを追いかける。



「はぁ...ちくしょうストーカ野郎が...!」

 ベッチは銃を握って走りながら後ろを向いた。

 バン!

 バンバン!


 街道に銃声が響く。


「!!」

 いくつも人にぶつかりそうになったが、華麗にかわして進んでいく。

 

 その時、足の痛みがローレンスの全身を走った。

「ぐ!」


 ローレンスはその場で蹲ってしまった。


「チッ...!」

 ローレンスは舌打ちをした。


「待てこの野郎ぉ!」

 ローレンスは叫んだ。

 ベッチは視界から完全に消え去った。





「どけこのバカ女!」

「キャー!!」

「どけぇえ!」

「うわあ!」

 ベッチはどんどん進んでいく。


「くそ...今日はことごとく運が悪い!」

 ベッチは呟く。


「どけ!ちくしょう運が悪い!」

 どんどん進んでいく。

 いつのまにか信号まで来ていた。


「運が悪い運が悪い!」

 信号の色は赤だ。

 ベッチは進んでいく。


「運が悪い!」

 迷わずまっすぐ走っていく。




「運が...」

 ドン!


 激しくぶつかった音が鳴った。

 ベッチは軽く吹き飛ばされた。

 ベッチの横には車が一台止まっていた。


「う...ああ...!」

 ベッチは激しい痛みに悶絶している。

 車から男が降りてくる。


「てめぇなにしてんだ!」

「う...」

「俺が悪い判定されるんだぞ?!おい!」

「うぅ...」

 ベッチは地面に這いつくばっているままだ。

 後ろの人々はザワザワとしている。


「ちくしょう...」

「どいてください。どいてくださいー!」

 周囲の中から声がする。


「どいてください!警察です!どいてください!」

 ベッチはハッとした。


「ぐ...!」

 ベッチは痛みにこらえてゆっくり立ち上がった。



(金はたっぷりやるよ。だから協力してくれ)



「...金...!」

「あんた...警察沙汰だとよ...!」

 男はベッチを睨みつけて説教じみた声で言い放つ。


「おい!聞いてんのか?!警察がきたんだ...」


 バン!

 ベッチは迷わず男めがけて銃弾を発射した。

 男はボンネットに激しく倒れるようによっかかった。


 周囲からは悲鳴が聞こえる。

 ベッチはためらいもせず車に乗り込む。


「おい!止まれ君!車から降りろ!」

 警察が到着した。

 警察は4人組で固まっている。


「おい!撃つぞ!止まれ!」

 警察は銃を車に向け、怒鳴り散らした。

 車は勢いよくエンジンがかかる。


「貴様!」

 ベッチは銃を警察へ向けた。


 バン! 

 バン!

 何発も撃ち込む。


「撃て!」

 警察も銃を車に向けて発砲した。


 鬼のような銃声が響き渡り、白い煙があたりいっぱいに広がる。

 金属の音もキンキンと聞こえる。


「ぎゃああ!」

 煙の中から悲鳴が聞こえる。


「くそ!くそ!」

 エンジンがかかり始めた。


「待てえええ!」

 警察は車を全速力で追いかける。

 車が動き出した。


 ベッチは身を伏せながら運転を始めた。


「待てええええ!」

 警察が追いかけてくるのがミラーでわかる。

 次第に声は遠ざかっていき、警察は見えなくなった。


 ...見えなくなると同時に女性の悲鳴とガシャン!という音が鳴り響いた。


「...いてぇなくそ...」

 ベッチは肩に手を押さえ、眉をひそめながらつぶやいた。

 車はどこまでも走り続けた...







ーー13:24

 夏に近い感じの日差しの強さだ。

 梅雨と夏がミックスしたような日差しがボロボロの3人を照らしている。


「...あの野郎...!」

「落ち着けローレンス!仕方がない!」

「黙れ!許せねえんだよ!あの黒ずくめ野郎!」

「ボスがどういうことやら...なぁアドナス」

「ケニー、そんなことはどうでも良い!2人とも考えろ...」

「死ね!死ね!死ね!あのベッチとかいう野郎!死ね!」


 遠くから声がする。

 正確にはドア越しに声が聞こえる。


 バァン!

 勢いよくドアが開いた。

 ドアの向こうにはケニー・ローレンス・アドナスが立っていた。


「どうしたんだ?中まで声聞こえてたぞ」

 カートが心配そうに駆け寄る。

 次々とウイスタンらが駆けつけてくる。


「依頼失敗。逃げられた。」

 アドナスが悔しそうに言った。


「逃げられた...殺し系の依頼だよな」

 ジェイが質問するように言う。


「ベッチっていう野郎を殺せばよかったんだ。だがしゃーねえよ...あいつ狂ってやがる!人を生け花のように飾ってあるし...サイコパスだ!」

 アドナスは涙目で言い放った。


「まぁまぁ...ボスに言えば何とかなるさ」

 ビリーは軽いノリで言う。


「ちくしょうちくしょう...失敗だ...ちくしょう...」

「まずいな...大分ヤバい状況だぞ」

「ベッチっていう奴今どこにいるか分から...ないよな」

「車で逃げたよ。警察1人殺して。現場にちょっくら顔見せたけど」

「...狂ってるやつなんだよな」

「5歳で殺しをやってる」

「5歳...?!そいつは馬鹿なのか?」

「母親と病院の院長」

「わお...」

 

 みんなで話し合っている。

 カートはそんな様子をただ見つめている。

 殺気が立った目で、見つめている。

 じーっと...ただ見つめている。

 睨みつけるかのように...






ーー19:05

 夜...


 

 冷たい空気が室内を走り回る。

「おい...とっととこいつを殺せ...アドナスと、ウイスタン」

 

 カートはもの凄い形相で言う。

「ビリーだ。彼は裏切り者だぞ...?!そうだ写真の野郎だきっと!」


 ビリーはカートに反論するように言い返す。

「悪いけど、俺を攻めまくってどうする?ただ単におかしいぞ普通にみて君は。大体お前は何で断言できるんだ?!変な言い訳しかできないクソ野郎が!」

「うるさい黙れ!」


 ウイスタンが割り込む。

 二人ともシーンと黙り込んだ。


 ウイスタンはそういうと壁に寄りかかって座った。

 アドナスも同じように座る。


 ウイスタンが座った隣には、血まみれの仲間が倒れていた。

 だが気にせずずっと下を向いている。


 アドナスの隣にはドアがある。

 ドアからは冷たい風の音が聞こえる。


 ウイスタンは次第に気になったのか、仲間の方を見る。

 じっと、血まみれとなりうつ伏せの仲間を見つめる。

 手には銃を持っている。

 

「...」

 銃を取り、中身を確認する。

 弾数はゼロだった。

 仲間の近くには無数の銃弾が落ちているので、使い切ったのだろう。


 ウイスタンは手を仲間の顔に近づける。

 手には最初に髪の毛がついた。

 次に皮膚。冷たくなり生気が無くなっている肌触りだ。


 ウイスタンはガバッと髪の毛を引っ張り顔を見た。


「...ケニー...」

 ウイスタンはつぶやいた。

 ケニーの顔は絶望そのものだった。

 何か、悔しそうな顔だ。


「...はぁ...」

 ウイスタンはため息をつくとケニーをやさしく元に戻した。

「くそ...!」

 ウイスタンは拳を床に叩きつけた。



ーー16:30


 少し日差しが弱まったころ...


「これお前か...?」

 ケニーは怒っているのと哀しみの表情が混ざりあっている。

 手には一枚の写真がある。

 ボスの妻のアダルト写真だ。

 指は写真の中にいる男を指している。


「...なんでだ」

「悪いが俺にはどうもお前にしか見えないんだが...お前か?」

 

 少し空白の時間ができる。

 男は言う。


「違うな。それよりも理由が当てずっぽうで俺を疑っているようにしか見え...」

「創立期のお前とそっくりだが...」


 またもや空白の時間ができる。

 冷たい風が体にしみる。


「勘違いだ。別に俺ではない」

「...そうか」

 ケニーは後ろを振り向いた。


「悪かった...カート...」

 ケニーの後ろにはカートが立っている。


「いや、別に大丈夫だ。この状況で疲れたんだろ?」

「いいや。ただの勘だよ...」

 ケニーはカートに言った。

 カートはケニーの肩を叩いた。


「俺らは昔からの仲だ。簡単に裏切るような奴ではないってお互い分かってる...だろ?」

「うん...」

「というかわざわざトイレで聞くことではないな。ハハ!」

「今がチャンスだと思い付いてきたんだ」


 ケニーは言いながらドアを開ける。

 ギシギシと鉄の音が鳴り響く。


「チャンス?笑えるな」

 カートは苦笑いをしながら部屋へ入っていった。




「んー!んーんー!」

「もう始まってたのか」

 ケニーは困った顔で部屋を見つめる。


 部屋の真ん中にはイスが置いてある。

 イスには口をテープでぐるぐる巻きにされた男が座らされている。

 生き残りの1人だ。


「早く写真を渡せ!ケニー!」

 アドナスはケニーに向かって叫ぶ。

 アドナスの横には様々な刃物が入った缶がおいてある。


「待てって...みんなは?」

「外にいる。早く!」

 ケニーはアドナスに向かって走っていく。

 そんな様子をカートは遠くから見ていた。


「カート何してる?早くケニーとどっか行け!」

「あ...ああ」

 カートはサッとケニーとともに外へ出て行った。


「んー!んー!」

 男は必死に喋ろうとしている。

 目を大きく開けて。


「うるさい野郎だ」

 アドナスは呆れた顔で男を見つめる。


「んー!んー。んーー!」

 アドナスは眉をひそめながら缶に手を突っ込む。

 ガチャガチャと鉄の音が聞こえる。

 手はぐるぐると動く。


「さて...」

 アドナスは缶から手を出した。

 手にはペンチがある。



「この写真のクソ野郎はこの組織の者か?それともベッチか?ベッチだったらうなずけ。俺らの仲間だったら首を横に振れ。」

 男は写真を睨みつける。

 頭を一ミリも動かさずに。


「あ...?どっちだ?」

 男は動かないままだ。


 アドナスは深くため息をついた。


「はぁ...面倒だな」

 そういってペンチを男へ近づけた...


「ボスの言ってたことは正解だったな”指示では5人組なのに現場は4人組”。おまけに写真の男に既視感。ベッチ?俺らの仲間か?どっちだ?」


 ペンチは男の指に触れている。

 だが男は微動だにしない。


「そうか」

 アドナスは手を強く握った。


 バキ...!

 指から猛烈な音が響いた。


「んー!!!!うーーーー!!」

 男は叫ぶ。

 だがテープでその叫びは消された。


「もう一回聞くぞ。どっちだ?!」





「まさかの展開だな」

 ローレンスが言った。


「ボスに電話してみたら、こんな事までに発展した」

 ウイスタンは残念そうに下を向いている。


「高確率でこの組織に裏切り者がいる」

 ケニーは2人に続いて言った。


 みんな壁に寄りかかっている。

 各々さみしそうな表情をしている。


「裏切り者は殺す。絶対だ。あとは男が吐き出してくれたらな」

 ビリーは貧乏ゆすりをしながら言った。





「んー!」

「4本目」

 アドナスは力強く握る。

 握るたびにゴキッという鈍い音が聞こえてくる。


「んーーー!」

「これでも言わないか」

 アドナスは手を顔の前に持っていく。


「変えよう」

 手を思いっきり横に動かした。

 男の口に巻いていたテープが一気にとれる。


「はぁ!はぁ!ううう!」

 男は苦しそうな表情をする。

 手は拘束されてるから抵抗は不可能だ。


「言うもんかね...!」

 男はアドナスを睨みつけて言い放った。


「お前らみたいなヘタレ組織なんかに...言ってたまるか...!」

 目は憎しみそのものだった。

 強い意志を感じる。



「あ。そう」

 アドナスは男の口に手を当てた。

 手は顔に触れ、口を半開きにされる。


 もう片方の手には血まみれのペンチを。

 ペンチは口にどんどん近づいていく。


「後悔するけどね」

 ガチ!

 ペンチが口の中に入っていく。


「う...おんあおおい...が...ああ!」


 アドナスは目を大きくして手を動かす。


「あ...!あああああ!」


 アドナスの手に力が入る。


「があああ!う!ううううううう!」


 手の震えが止まらない。


「ぎいああああ!ぎゃあああ!」


 ブチ...!

 何かがおかしくなった音が部屋中に響いた。


「うおおおおおおおお!」

 男は痛みに悶絶する。


 アドナスはペンチについたものをそこらへんに払う。

「そろそろ言わないと...」


 男は下を向きながら嗚咽する。

 口からはポタポタと血が流れる。

 男は震えながらゆっくりとアドナスの方を向く。


「あ...ああ...し...知らないね...!」

 男は無理やり笑顔を作った。

 アドナスの表情は暗く沈んでいった。





「とりあえず、俺はボスに直々に会いに行く」

 ウイスタンはみんなに向かって言った。

 顔は落ち込んでいるような、暗いような顔をしていた。


「ぁぁぁぁ...!ぅ!」

 室内からはずっと叫び声が聞こえる。

 この世のものとは思えない叫びだ。


「派手にやってるな...まぁわかった」

「ありがとうビリー」


 ローレンスが少し間をおいてから言い始めた。

「俺らは...?どうする?」


「話し合ってみようぜ。念のため皆銃を用意しといて」

 ケニーが言った。





「言えるか?」

「う...うう...」

 アドナスは見下すような眼で男を見つめる。

 椅子には血が点々とついている。

 床は灰色から赤に変わっている。


「知らないって言ったら...知らないんだよ馬鹿が...!」

 男は大きい声で言った。

 声は室内に響き渡る。


「...」

 アドナスは無言で奥の部屋へと駆け足で歩いて行った。

 足音がものすごい速さで聞こえる。


「知らない!本当だ!知らないんだ!」

 男はいすに座りながら犬のように吠える。


 ガタガタン...

 奥の部屋からは物音がする。


「知らないんだよぁ...うう...!」

 男は涙を流しながら必死に訴える。


 再度、足音が聞こえてきた。

 足音はだんだん大きくなって、こちらに近づいてくる。


「お...おい...」

 男は恐怖で震えあがる。

 

 アドナスが再度姿を現した。

 男は恐怖で叫んだ。


「嫌だ!やめろ!こっちくるな!おい!やだああ!!」

 男はアドナスを見ながら絶叫する。

 この世の終わりかのような顔をして。


「やめろ!やめてくれ!知らないんだ!来るなあ!」


 アドナスは無慈悲にも男に近づく。

 目の前に来たところで手を思いっきり引っ張った。



 ブウウウウン...

 エンジンがかかる。

 アドナスの手にあるものはものすごい速さで刃を回転させる。


「やだあああああ!」

 男は叫び続ける。

 アドナスの手にあるのがチェンソーだからだ。


「男は誰だ!この組織の者か?!ベッチか?!おい!言え!」

 アドナスは叫んだ。

 チェンソーを男の顔の真ん前に突き出して。


 チェンソーの音がずっと鳴り続ける。


「知らないんだってぇ!本当だ!やめてくれ!」

 男は泣きわめきながら抵抗する。


「あ...写真を撮ったのは死んだ!」

「マンション襲撃時にか?!」

「そうだ!もう死んだ!」

 エンジンの音が響く。


「...」

 アドナスはゆっくりと手を引いてエンジンを止めた。

 チェンソーを地面に置き、落胆した顔で男を見つめた。


「さぁな。わかんねえな。」


「わかんねぇなぁ!」

 男はそう言うと鼻で笑った。

 見つめた後、刃物が入った缶を持ち、後ろを向いて歩き始めた。


「...俺を殺したらどうなるかなぁ...?情報源は消えるぞ!」

 男は血まみれのままアドナスを見つめる。

 アドナスは少し歩いたら缶を再度地面においた。


「...?」

 男は不思議な目で見る。


 アドナスも同時にピタリと止まった。

「くそが...」


 小さい声でぶつぶつと言っている。

 男は眉をひそめて顔を前に出した。



「あああああああ!」


 ガン!

 アドナスは叫んだ。

 そして男の方を振り向いて思いっきり缶を蹴り飛ばした。


 刃物は吸い取られるように男の方へと進んでいった。

 その瞬間、椅子は血まみれになり、男の体には無数の刃物が刺さった。


「はぁ...はぁ...」

「おい!」

 ドアが強く開く。

 ドアの向こうには心配そうな顔のメンバーがいた。


「アドナス、どうしたんだ?!凄い叫びだったぞ...お前の声...」

 ウイスタンが心配そうに声をかける。


「う...うぇ...」

 ジェイが目を大きくして男の方を見ている。

 変わり果てた姿に動揺しているようだ。


「殺したのか...?!」

 ローレンスはアドナスを睨みつけて言った。


「イラついたもんでね...悪かったよ!」

 アドナスは非常にムカついている。


「殺すなよ馬鹿が!貴重な情報源だったんだぞ...!」

「情報源?!こいつは笑いながら”知らない”しか言わなかったぞ?!どんなに痛みつけてもどうせ言わなかったさ!」

 アドナスは反論して怒鳴り散らす。


 カートはジェイと同様に眉をひそめて男の方を見ている。


 ウイスタンはつかさず言った。

「惨いな...何も言わなかったのか?」

「そうだ。何も言わなかった」

 アドナスは拳をぎゅっと握る。


「ちくしょうが!こいつは絶対知っていた!なのに言わなかった!ちくしょうちくしょう!」

 アドナスはそういうとせっせと早歩きをし、トイレへ駆け込んだ。


 ドアを強く閉めて...


「笑ってたなら確定だな」

 カートが死体を見つめながら言った。

 みんな一斉にカートの方へ振り向く。


「組織内に裏切り者がいる」

 カートがその言葉を口にした瞬間、その場の空気は凍るように冷え切った。

 皆黙り込み、ずっとカートの方を向いている。



「...な...なぁみんな...」

 ジェイが苦笑いをしながら震わせた声でしゃべり始めた。


「その...ちょっとさ...映画でも見て...な?ハハ...」

 ジェイは眉をひそめて苦笑いから沈んだ顔へと変わっていった。

 皆、暗くて沈んでいる。

 倉庫は静かで、誰もいないんじゃないかと勘違いするほど静かだった。



ーー17:50

 ものすごい速さでウイスタンの身体に風が当たってくる。

 暗闇の中に、黄色の点々とした光が、反射して車へ移る。

 辺りにはネオンの看板。道に立っている女性たち。タバコの吸い殻などがあたりいっぱいに捨ててある。


「イケメンボーイ私とどう~?」

「今急いでるんでね。今度な」

 ウイスタンはそういうと女性を追い払い、急いでバーの中へと走っていく。

 階段を下りる音が反響してゴワゴワと鳴る。


 部屋の中の空気がなくなりでもしたように、急いで扉を開く。

 鈴の音が来客を知らせてくれる。


「いらっしゃい...」

「はぁ...はぁ...」


 扉を開けると奥の席にボスが座っているのが一目でわかった。

 ウイスタンは急ぎ足でボスの元へ歩いていく。


「ボス...」


「お前に言われた通りトカイは美味いな」

 ボスはゆっくりとグラスを回す。

 中の氷がぶつかり合い、カラカラと音が鳴る。


「本当に薬物を吸ったような感覚だよ」

 ボスは深くため息をつく。

 室内は時計の音が刻み刻みに鳴り、冷たい夜の空気が漂う。


「あいつらも今は亡き妻の影響でトカイが好きだったらしいしな」

 ウイスタンは唾を飲み込む。


「あいつらが誰か分からないか...?」

 ボスは目を細めて言った。


「5人組のことだよ」

「...」


「5人組と僕は言ったぞ」


「...」

 ボスの返事に黙り込んでしまう。


「現場で4人組だったのに気づいてれば、こんな状況はひどくならなかったはずだ」

 ボスの声はどこか冷たく、怒りがこもっていた。

 ガラスのコップをカラカラと回しながら言う。


「ベッチを殺せなかったのも事実だ。実質、お前らは今日2度もミスをしている。重大なミスを2度もした。言い訳は不要だからな」


「...」

 ウイスタンは険しい表情でボスを見る。


「ベッチを殺せなかったのはローレンス・アドナス・ケニーに責任があるが...」

 ボスはウイスタンを睨みつけ、言い放った。


「人数を勘違いしたのは、お前だよな。ウイスタン」

「...カート」

「言い訳は不要だと言ったはずだ。カートも同じだ。だが、それ以上にリーダーであるお前がミスするとはどういう訳だ?」

 

 ウイスタンは何も言えず、下を向いていた。

 ボスは続ける。


「こんなミスをするリーダーは必要ないんだがな」



ーー19:10 

 ウイスタンの目からは光が消えていた。

 魂が消えたように、肩からは力が抜けていた。


(なんでこんな事してるんだ...?)

 ウイスタンはケニーの死体を見つめながらそう思う。

 試合のハイライトのように、ボスの言葉が頭の中をよぎる。


「もうお前には期待しないでおくよ」

 ボスは冷たい目で言い放った。

 その言葉は深く、ウイスタンの心に突き刺さる。




(仲間はほぼ死んで...裏切り者を殺すためにどちらかを選ぶんだ...)


 ボスの声がする。

「お前に今やるべきことはわかるよな」



(...必要ないって言われてるのになんでこんな事してるんだ?)



「仲間を殺せ」




 アドナスは眉をひそめながらウイスタンを見る。

 どこか心配してそうだ。


(資格も無いって言われて...)

 ウイスタンは拳を握る。

 手には手汗がものすごい量ついていて、地面に零れ落ちる。



「ちょっと...外す...」

 ウイスタンは体全身を震わせてトイレのドアへゆっくりと歩いて行った。


「え...おい?!」

 アドナスが手を出して止めようとする。

「待てよ...」


 ドアがゆっくり重々しく閉じていく。

 ウイスタンの姿は暗い廊下へと消えていった。


「ちくしょうあいつ...」

 アドナスは唇を噛み締める。

 そして、地面に座っている二人を見ながらしゃべり始めた。

二人は眉をひそめ、不思議そうな顔をしてアドナスを見る。


「まぁ良い。聞け二人。悪いが今から手足を縛らせてもらう。」

 

 カートが聞く。

「な...なんで?」

「何かあったら怖いんでな」

 

 アドナスは即答した。

「倉庫室にロープあるよな」


 そういうとズタズタと足音を立ててアドナスは奥の部屋へと歩いていく。

 ビリーは汗をかき始める。

 カートはアドナスを睨みつける。


 戻ってきたアドナスの手には茶色で血が付いたロープがある。

 アドナスは二人に近づいていく。


「まずビリーからな...」

 アドナスはビリーに近づいていく。


「あ...」

 ビリーは何とも言えない表情でアドナスも見つめる。

 アドナスがビリーを怪しんでいるのを分かっているからだろう。


 カートは倉庫の奥の方を見ていた。

 ビリーが縄で縛られている間、常に奥の段ボール箱を。

 段ボール箱からはゴソゴソと動いているかのような音がする。


「よし...締めた」

 ビリーは胴体をグルグル巻きにされ、じっとアドナスを見ている。


「次はお前だカート」

「ああ」

 カートは何も抵抗する気はなく、返事をする。


「どうぞ速く巻いてくれ。」

 アドナスは眉をひそめながらカートの前でひざまづく。


 


「誰だ...誰だ...ちくしょう...」

 ウイスタンは便座に座りながら頭を抱える。

 必死に記憶をたどっているのだろう。


「ビリー...あいつはジェイと一緒...」

「カート...あいつは俺と一緒に行動していた...」


 ウイスタンはぶつぶつと緑色の光に照らされながらしゃべる。


「カートは部屋の時...写真を見つけてくれた...」

「ビリーは監視をしていた...そしてアドナスは演技っぽいと...」

「カートはビリーが立ってぶち殺したと言っている...」


 ウイスタンは深くため息をつき、涙目で言った。


「わかんねえよちくしょうが...もう一回だ...」




 アドナスはひざまづきながらロープを締める。

 


 ウイスタンはもう一回繰り返す。

「ビリーはジェイと一緒に監視していた...」



 ビリーはウイスタンとカートを見ながら、ガサガサしている音に苛々している。



「カートは俺と一緒に行動...」


 

 カートはアドナスをじっと見つめる。



「カートは一緒にいるとき写真を見つけてくれた...」

「ビリーは監視をしていた...そしてアドナスは演技っぽいと...」

「写真...見つけてくれた...」





「おーい」

「部屋にこんなん落ちてたけど」



(カートはポケットに手を突っ込んで”ちょっと待ってくれ”と言わんばかりにウイスタンを見てる。)





 ウイスタンの汗がピタリと止まる。

 体が震え、顔を手で押さえつける。


「あ...」

 

 


 




 白い煙が奥の方からもくもくと出てきて、血が流れる。

 目からどんどん流れる。


 ビリーは目を大きくして口を歪ませた。

 アドナスは地面に倒れこみ、人形のように動かなくなる。

 

「...」

 カートはアドナスを見ながらロープをほどいた。


「くそが...!」

 ビリーはカートを睨みつける。

 全身から汗が出て歯がギシギシ鳴る。


「清々しい気分だ」

 

 言いながらゆっくりと立ち上がる。

 服には返り血がつき、黒い服が赤く染まっている。


「ふぅ...同じ演技をし続けるって大変だ。特にキャラを作るのは...」

 ビリーは歯を鳴らしながらカートを睨みつける。


「クソ野郎が...!」

「負け犬の遠吠え。所詮アドナスのお前に対する思いは...」


 カートはズボンについた埃などを手でたたく。

 その姿は何とも舐め切り、勝利を確信しているようだった。


「薄っぺらいものだったんだ」


「ぐ...!」


「というか僕は手を下してない。殺ったのはアドナスとケニー以外だけだ。出て来いよ」

 カートの視線の先には小さい穴が開いた段ボール箱がある。

 段ボール箱はガサガサと、ゴキブリのように動く。


「ベッチ君だ」

 

 思いっきり段ボール箱の中から刃物の先が飛び出す。

 次々と穴は開いていき、カスがそこら中に落ちる。


「ん...んー!」

 中からは異臭と人の足が出てきた。


「あああああ!」

 段ボール箱は思いっきり千切れ、中からはベッチが出てきた。

 

 ベッチはズカズカとカートへ近づいていく。


「ベッチ君は僕たちに薬を回してた。最高のパートナーだ。ケニーとアドナスを殺したのはこいつだよ」


 ビリーは目を大きくしてベッチを見ることしかできなかった。


「ベッチ君...こいつを痛めつけてくれ」

「分かった。ウズウズしてたんだ...」


 ベッチはビリーへ近づいていく。

 ビリーの前には巨大な影がどんどんと近づく。


「あ...ああ...」

 ビリーは震える。

 目からは涙が零れ落ちる。


 ベッチは笑う。

「遊ばせてくれよ」




 

 




「おい!」

 ドアが強く開く。


「...」

 ウイスタンはあちらこちらを睨めながら部屋を見回す。

 部屋は誰一人としていない。

 水か地面に落ちる音だけが響き渡る。

 誰も気配を感じない不気味な空間は暗く沈んでいた。


「...!」

 ウイスタンは固まってしまった。

 目の前にある衝撃的な光景に驚きを隠せなかった。


「え」

 言葉を失い、口を開くことしかできない。


「嘘だろ...」

 

 壁には大量の血とビリーの体...と思わしき物がぶら下がっている。

 ロープは地面に落とされ、肉片が巻き付いている。

 ポタポタとゆっくり落ちる血は、内臓のもの。

 壁に染みついているのは手が潰れた後。

 顔は...どれか分からない。


「ビリー...」




 

 金属の冷たさが服を突き抜け、骨に達する感覚

 自分でも”刺された”というのが伝わってくる。


 腹からは血が出て、目の前が真っ暗になる。

「ごが...!」


 ウイスタンはその場で倒れてしまった。

 後ろにいたのはカートだ。


 カートは倒れたウイスタンへ馬乗りをする。

 ナイフを持ち、手をあげる。

 

 そして、思いっきり手を振り下ろした。


 ドス!

 鈍い音が響き渡る。


 


 気づいたころにはカートのズボンは血まみれになっていた。

 カートはウイスタンから降り、ナイフをポイとウイスタンの近くへ放り投げる。


「はぁ...はぁ...」

 重々しい空気が漂う。

 空気は濁り、じめじめとした感覚に吐き気がする。


「もう終わりかよ...」

 ベッチは悲しそうに唾を吐き捨てる。

 手は血まみれ、体中ビリーの返り血でいっぱいだ。


「アドナス...?だっけかカート」

「そうだ」

「あいつが持ってたチェンソーは切れ味いいな!貰っていいか?」

「別に」



「こんなんじゃぁあと掃除が大変じゃないか...」

 カートは困った顔でベッチに言う。

 ベッチはにやけて、機嫌がいいように座り込んだ。


「なぁカート」

 カートは目を細くしてベッチの方へふり返る。


「なんだ?」

「なんで裏切ったんだ?」


 カートはしばらく黙り込んだ。

 次に口を開けたのは一分くらいたってからだった。


「地位が欲しかったから」

「地位?」


 ベッチは予想外の答えに少し戸惑う。

「なんで地位なんだ?」

「地位というか...名称。僕はギャングスターになりたかったんだ」


 ベッチは更に戸惑う。

「ギャングスター?!ただの一員の事じゃあないのか...?」

「ああ...僕が作った造語だが、僕のいうギャングスターはギャングで一番の事なんだ」


 カートは続けて喋る。


「ただの欲求なんだがな...ボス...いやカナフははっきり言ってゴミだ。故人にゴミといっても仕方がないがな。そういや殺してきたのか?ベッチ」


「あぁ...そうだが」

 ベッチは迷いなく答える。


ーー18:00


 暗いネオンの街を疾走しているのはボスだ。

 ボスは、横にあるコンビニエンスストアに目を付け、車を止める。


「ふぅ...」

 口から白い煙を流しながら車に寄りかかる。


「...」


 暗闇に立つ煙は、どこか不穏だ。

 白色の煙が、後ろにいる男にヒットする。

 男の手にはビニール袋があった。


「はぁ...」





「う!んーんぁぁぁあ!」

 

 ボスは暴れて車を思いっきり蹴る。

 透明のビニール袋が、ボスの頭を包み込む。


「うー!んー!うううう!んぁあ!」


 何度も何度も車を蹴る。

 だが、車が走る音で叫びとボンネットの音はかき消される。


「は!は!んーーー!」






 カートは続ける。


「有り難い。それでゴミの下で働くより、自分がトップになってやった方が良かったからだ。どんなに1人の従業員が優秀でも上司がゴミだと、その従業員は落ちるに落ちていく。優秀でも人ってものはその場に応じて才能が減ったりするんだ」

 

 自信満々に、まるで英雄のように語り始めた。

「だから手順を考え、まず妻を寝取った。なに、洗脳するのは薬とセックスの快感で十分だ。ボスは健康的だったから、健康から外れて多めに気持ちのいいことをさせた。すると妻はどうなったと思う...まるでアホみたいに快感を求めてくる!勿論バレなきゃ意味がない。だから大胆にしたんだ。ただ予想外の事が起きた。オーバードーズだ。薬をやりすぎた。だから少しだけ計画がずれてしまった。アホなボスはそれにノコノコと釣られるから、ショックな時に殺せるから結果は変わらないんだけどね。」


「人はショックな時普段の時よりも混乱するから」



「仲間は何で殺した...?」

 ベッチは聞く。



「奴らもアホだからだ。組織に要らない人材として、これから僕のチームになるとき不要だから、始末したんだ。というかこの僕の考えを聞いたら奴らは絶対俺を止めに来る&殺しに来る。だから計画の邪魔として殺した。あと僕は運が良かった。ウイスタンを支えて行動してきたからボスからの信頼も高くなってた。」

 


「この件は好都合なタイミングで、依頼が来たんだ。最高だね」

 カートは言い終わると悔しそうな表情で言った。


「だが...今お金がないんだ...ボスの所から貰って来ればよかったと今更...まぁ。今後考えればいいことだけどね」


「なるほど」

 ベッチはすべてを理解したかのようにうなずく。

 それと同時に顔が青くなっていく。


「え?」


 カートはベッチに心配そうに声をかける。


「どうした?」

「”金をあげる。だから協力しろ”って...」

「あー」


 

 

 刃が、肉を貫いた。


「忘れてた」

 

 ベッチはカートをじっと見ながら倒れこむ。

 ベッチの全身は震えが止まらない。


「はっきり言うがお前は要らない人材だ。無駄に暴力的で...見ろこのビリーを...呆れる」


 カートはゴミを見る目で見下しながら続ける。


「後片付けが大変なだけだ。今後そのようなことがあっては邪魔で仕方がない。アドナスたちの件で警察沙汰にしたのは...警察が来るのも時間の問題だな。何にも言えないよ」


 ベッチの目からは涙が零れ落ちる。

 室内の濁った空気が、目を赤くさせる。

 口をごにょごにょ動かし、苦しそうにカートを必死に睨みつける。


「あ...あぁ...!の...のろ...」

 ベッチは身体が震え、口から血を吐く。

 そして言い放った。


「呪って...やる...」







「...ふぅ」

 カートは肩を回し、血まみれの部屋でただ一人立っている。

 辺りを見回すと死体の山だ。

 ジェイ...

 ビリー...

 アドナス...

 ローレンス...

 ケニー...

 そしてウイスタン...

 ここから外ではボスの死体がベッチの車のトランクにしまってある。

 灰色の壁は、真っ赤に変わっていた。



 カートは一人で空へと手をあげる。

 目を細くし、満面の笑顔で上を向く。

 達成感であふれるその笑顔は、血に濡れて狂気に満ちていた。


「はぁ...!」


 カートの目からは思わず涙が込みあがってくる。

 溢れんばかりの喜びを、これでもかと全身で表す。


「ぼ...僕は」






僕はギャングスターだ(MYGANGSTAR)…!ハハ!」






 出てきた言葉は、重々しく、相当な物だった。

 カートは笑う。

 完全に勝利したから。

 白色の光が、カートを神々しく照らす。

「ギャングスターだ!僕が!」


 そういうとカートは視線を上から横へ変える。

 横には、倒れた仲間...もはや不要員が血を流している。


(カート...お前...)

「ケニー」


(ぎゃあああ!)

「ローレンス」


(ごぼ...!)

「ジェイ」


「協力ありがとう。不要なカスたち共...君たちの行動のおかげで、僕はここまで来た」

 死体を見下すように見る。顔つきは完全に前とは別人だった。

 目を大きくして、ポケットに手を入れて偉そうに突っ立っている。

 顔は黒く塗りつぶされたかのように影が覆い、目の白い部分がシルエットのように映っている。

 そして口を開けて大きい声で叫ぶように言い放った。


「これからは...僕の時代だ!」


 カートは大きい声で高笑いをした。とてつもなく大きい声で。

 悪魔のささやきのような、そんな笑い声。

 手は血で濡れているのに、構わずに顔の涙を拭う。

 達成感溢れる不快な笑い声は、室内に嫌なほど響き渡った。




「この場を離れないとな...血は...トイレで洗えるな...」

 そういうとカートはトイレの方へ歩いていく。

 1人しかいないからか、いつも以上に足音が大きく聞こえる。



 水が冷たい。彼の心のように。

 カートの手に当たると、透明な水は赤い水になり、流れていく。


「...」

 緑色の光がカートの顔を照らしている。

 カートはずっと鏡を見ながら顔についた血をこすって落とす。

 

 濡れた手...ほぼ水がそのままの手を顔に強く当てた。

 手が顔から離れていくたびに恐ろしい顔が浮かび上がってくる。


「よし...」

 いそいそと部屋へ戻る。

 帰りも同じように足音が大きく聞こえた。





「銃...ナイフ...チェンソー...全部持っていくか...」

 カートは1人ずつ死体を確認しに行く。

 そして1人ずつ銃弾の残りを確認し、一番多かったジェイの銃を懐に入れた。


 チェンソーは壁の近くにすぐあった。

 残りはナイフだ。


「ナイフ...どこだ...」

 辺りを見回してもすぐ見つからない。


「ちくしょうこんなことに時間を使いたくはない...!指紋が残ってるんだぞ馬鹿が...!」

 カートはイライラし、歯をギシギシと鳴らす。


「考えろ考えろ...」





(カートはウイスタンから降り、ナイフをポイとウイスタンの近くへ放り投げる...)





「そうだ...!...?」

 カートは閃いた顔で後ろを向こうとした。

 そう。向こうとした。


 なぜか後ろを向けない。


「え?」





 思わず声が出る。

 全身...特に腹に猛烈な痛みが走った。

 刃物が体内に食い込んだような...痛みだ。

 

(なんだ...?)


 カートはゆっくりと腹を見るために下を向く。

 そして、口を開けて固まってしまった。

 開けたままの口から血が思いっきり出る。



「がぼ!」



 本当に刃物が自身の体を貫通していた。

 ついさっき洗ったばっかりの手が、血で汚れていく。

 カートの体が震え始める。

 目には涙が出てき、カートの心の中は真っ白となった。






 思いっきり地面に倒れこむ。

 後ろにはウイスタンが苦しそうに立っていた。

 カートは地面に這いつくばっている。


「はぁ...はぁ...!馬鹿が!...」

 ウイスタンは苦しそうに声を出す。

 身体から大量に血を出しながら傷を手で押さえ、カートを睨む。

 

「あ...あ...?!」

 カートは身体を震わせながら意味が分からないといわんばかりな顔で倒れている。


「お前は...殺した...はずだ...?!」

「ああな...お前は急所っていう概念を知ってるか...!」


 ウイスタンは震えた手でカートを指さす。

 カートは全てを悟ったかのように、目を大きく開ける。

「あ...あぁ!」


「2回刺しても...お前がやった位置は急所じゃねえんだよ!馬鹿が...!」

「あああああああああああ!」


 カートは悔しそうに叫び声をあげる。

 叫び声は外まで聞こえる勢いで響き渡った。


「あああああ!ううううう!」


 カートは叫びながら赤子のように地面を這いながら前へ進み始める。

「自分で自分の気の緩みを恨むんだな...確かにお前は賢い。俺らの何倍もな。だが、俺らと唯一、共通点があったな...!緩みだ!最悪な点を真似しても意味ねえんだよ...!」


 ウイスタンはずっと指を指し、哀れな目でカートを見下している。

 カートは前へ進みながら言った。


「うるせえよ...!」


 そして勢いよくその場にとまり怒鳴った。

 今までに聞いたことない声を出す。


「俺の勝ちなんだ...!俺はギャングスターなんだ...!お前なんかに...阻止されて!!」

「もう少しで!もう少し!俺は!スターに!なれてたんだ!」

「お前!なんかに...!」


 ウイスタンは目を細くし、叫ぶカートをただ、見つめていた。

 悲しそうな表情で、同時に、苦しそうな表情で。

 立っているのが辛くなってきた。

 足のバランスが崩れ、がくんとウイスタンは座り込む。

 そして懐に手を入れ、片手にナイフを持つ。

 ウイスタンはナイフを持ちながらカートの元へ前進し始めた。


「はぁ...う...」

 カートがわめき散らす。


「うううう!俺あああ!俺がああ!」

 

 足元などに死体が触れそうだ。

 ウイスタンはカートに近づくにつれゆっくりと腕を上へあげる


「やめろおおおお!俺はああああああああああ!!!」


 そしてもう片方の手をカートの上に乗せる。

 ずっしりと体重をかけ、動かないように固定させ、カートはその場で死にかけの虫のように足をドタバタさせていた。

 ウイスタンの目は殺意と哀しみでいっぱいだった。



「俺はああ!ギャングスターだああああああああああ!!!!」





 













 

 静かになった。

 ついさっきまで叫んでた男は頭から大量の血を出しながら仰向けになって倒れている。

 仰向けになって倒れている男の上には、ウイスタンが手を置いていた。

 ウイスタンは震える片手を頭からゆっくり離し、背中からも手を離した。

 なぜ震えるのか自分でもわからない。ただ、皆の仇をとった嬉しさか、哀しみか。

 どちらかしか選択肢はない。


「はぁ...はぁ...」

 ウイスタンは血まみれの手を壁にこすりつけ、手についた血を拭う。

 あとはペンキが手についたように染みついてしまっている。

 苦しそうにウイスタンは腕の力で壁へ向かって前進する。


「うぅ...」

 震えを抑えながら、なんとか壁に背中をくっつけれた。

 安心したのかウイスタンはほっと一息をつく。

 しばらく天井を何も考えずに見つめている。


「...」

 何も発さず、じっと天井だけを見つめている。

 静かになった空間が、より一層孤独感を強調させていた。

 何回かため息をつくが、それ以降は黙って目を細くしている。

 さっきよりも動いたからかかなり出血していて、ウイスタンもわかっているのか手を抑えて、血を見ないで苦しそうな表情をする。

 

 ウイスタンはゆっくりと手を身体から離して、光を遮るように自分の前へもっていく。

 かなり動きが遅い。


 手を見たらもう肌色はなくなり、赤色しかない手だった。

 確認したらウイスタンはまた手を傷口へと戻した。

 すべてを悟った目で呟く。


「...死ぬな...もうすぐ...」

 頭を壁に寄りかからせて辺りを見渡す。


「当たり前か...」


 死というのが迫ってくるのを実感し、ゆっくり死ねなかった仲間たちを、なんと思えばいいのか分からなかった。

 それ以前に、死が怖いのだろう。受け止める気が合っても怖いのだろう。


「ハ...」

 微笑んでまた天井を向き始める。

 さっきよりも息を吐くのが多くなってきた。

 汗もかき始めた。

 手は...さっきから同じように震えが止まらない。


 思わず目から涙が零れ落ちた。


 片手を頭にのせる。

 涙は地面に落ち、血の海の中に入っていく。

 半分は飛び跳ねて、半分は混ざりあう。


 涙は止まらない。

 永遠に続くように止まらない。

 泣けばなくほど、虚しさが伝わってくる。

 冷たい壁が、その心を表現していた。


「う...うぅ...!」


 悔しさで心がいっぱいだ。

 皆を助けられなかった。

 ボスの期待に応えられなかった。

 気づいたのに油断した。

 一緒に行動していたのに見抜けなかった。

 カートを止められなかった。

 

 これらの出来事が、走馬灯のように集まり、心を攻撃してくる。

 1人で、ウイスタンは悔し泣きをしていた。

 今はもう遅い。

 もうすぐ死ぬから遅い。

 過去を見ても死ぬのは確定している。

 こんな悲惨な事、あるだろうか。


「う...う...」

「ふぅ...」

 ため息をついた。

 

「...ふっ...」

 何かを決心したかのように笑う。

 ゆっくりと顔を上げ、泣き疲れた顔を片手でこすった。

 そうして、後ろを向き、壁に血まみれの指をあてた。

 灰色の壁に、赤色の一個の丸い指の跡がつく。


 ウイスタンは壁に何かを書くように指を動かしている。

 まるで文字を書いているようだった。


 虎視眈々と書く。

 勿論とてもゆっくりに。

 静かな空間で、1人ゆっくりと。



 なぞり終わったのか指...手をまた傷口へ当てた。

「...」


 ウイスタンはなぞった文字を自分で見る。


「...悪ふざけにもほどがあるかな...ハハ...」


 微笑んでまた前を向きなおし、上を見始めた。

 天井の光が、さっきよりも暗く見える。

 視点がブレブレにもなってきた。

 ウイスタンは上を向きながら考え事に浸っていた...








「...あの映画...あれ...そうだシンドバット...七回目の冒険...?いや航海か?」


「航海だビリー。俺も見た。あれポルノ映画だろ」


「馬鹿が。本当に見た?!最高だよな?!あの古臭い感じとシンドバットの色気が凄いよな!」


「まじか?俺はクソだと思ったよあの映画」


「なんだって...もう一回言ってみろ...」


「はっきり言ってゴミの中のゴミだ。怪物は魅力的だったがな。お前と女がくっついているくらいの気持ち悪かった」


 周りからクスクスと笑い声が聞こえる。


「クソ野郎が。映画の良さが分からねえ奴は人間じゃねえぜ...いいかよく聞け。あの映画は凄いんだぞ」


 ビリーは手をあげてジェスチャーしながら言い始めた。


「あの映画にはな、壮大なカタルシスが込められているんだ。勿論普通のじゃない。」

「冒険・ドキドキ・ハラハラ。エロはないが十分楽しめるんだ。完璧だ。マジでパーフェクト。」


(パーフェクトって完璧って意味だよな...)

 カートが眉をひそめる。


「パリサ姫をもとの姿に戻すために冒険に出るんだが、これがとてつもなく危険な旅路」

「シンドバットは他人のためにそんなに頑張れるんだ。」

「まあセックス目的かもしれねえけどな。助けてヤるつもりだったのかもしれねえ。朝昼夜、一時間に一回くらいヤる気だったのかもな。」

「だが、それでも助けることには変わりない。シンドバッドは凄いんだ」


「ヤるのか?だったら見るぜ」

 横からジェイが割り込む。


「エロはないって言っただろ話聞いてるのか?」


「話は聞いていたがただ単に気になっただけだ。カッカするな子供みたいでダサいぜ」


「黙れ!」


 周りからはクスクスとずっと笑い声が聞こえる。





 周りは静かだ。

 誰も何もしゃべってない。

 皆死体になって倒れているだけだ。


「...」

 ウイスタンはまぶしい光に照らされながら、目を更に細める。

 少し口を開けた表情から、微笑んで上を見つめる。


「...ハハ...」

 優しい目つきで上を見上げている。














 そしてゆっくりと、眠るように目を閉じた...





 

 


 



















 壁側から脱力し、すり落ちる。

 背中から落ち、後ろの壁側がくっきり見えた。

 そこには血で文字が書いてあった。



 MY GANG STAR



 落ちた勢いで下にあった血の海が飛び跳ねる。

 あたりに血が飛び跳ねて、シャワーのようになる。


 壁側にも飛んで、血があちこちについた。

 そしてちょうどGとSの間に血が飛び跳ねた。

 まるで・のように。



 外は暗闇で覆われている

 アジトの倉庫には冷たい空気が駆け回る。

 倉庫の外では、コンビニのライトの光や、車の音でにぎやかな雰囲気だ。

 灰色の壁は、どこか哀愁漂う雰囲気を作り、血に濡れている。

 にぎやかで明るそうな組織は静かになっていた。




 そして、もう誰も喋らなかった。
























=MY GANG・STAR=

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