わすれもの
美穂「はぁ、吉村先輩今日もかっこいい〜..!」
私は一年学年上の吉村先輩に片思いをしている。そして今日は
琴葉「今日が卒業式だよ?告るなら今日しかないんじゃない?告ってきなよw」
そう。親友である琴葉の言う通り、3年生の吉村先輩の卒業式だ。
琴葉「えぇ、あの人いつも女の人引き連れてんじゃん。ん〜..まぁ私はちょっと理解できないけど美穂がいいんだったら私は応援するよ!」
琴葉は私の背中をドン!と叩いてきた。
美穂「いっったぁ...てかそれが親友の好きな人に言う言葉?」
琴葉「いやいや、なんかあの先輩若干女たらしっぽいじゃん、私は信用ならないわぁ。美穂この前ナンパについてこうとしてたよね?心配してあげるんだよー?」
美穂「もぉ..てかそもそも告るとまでは..」
琴葉「なぁにウジウジしてんの!なんか今朝誰かに呼び出されてたっぽいよ?吉村先輩」
美穂「ウソぉ、、マジでぇ?」
琴葉「そんな気負わなくても、美穂ならいけるって!いつも吉村先輩といい感じよ?」
そんな琴葉の言葉も聞こえないくらい、ライバルがいると言う不安で若干胸が苦しくなった。
琴葉「美穂!吉村センパイいるよ!」
美穂「ウソッ!?」
ガバッと体をあげて琴葉の指差す方を見ると、袴を着た吉村先輩がいた。
袴をきっちりと着こなし、髪もセットした吉村先輩を見て、顔に熱が集まるのが分かる。
琴葉「照れてる場合か!さっさと言ってこい!!」
琴葉に押されて、あっという間に吉村先輩の目の前に居た。
琴葉「吉村センパイ!なんかウチの美穂が話あるらしくて!それじゃ!!」
早口でそう捲し立て、琴葉はどこかへ行ってしまった。
美穂「ちょっ、琴葉ぁ!置いてかないでぇ..!」
吉村「..?」
吉村先輩は私の方を不思議そうに見つめる。その眼差しにまた顔が熱くなるのを感じた。
美穂「ぇ、えっと!西村先輩に話したいことが、あって!」
心臓の鼓動が激しくなる。
美穂「卒業式が終わって、帰る前にっ..3階の、空き教室に来てくださいっ!」
3階の空き教室は、私が琴葉のサボりに付き合わされた時に知った景色のいい隠れスポットだ。
吉村「いいよ!」
たどたどしてくても、ちゃんと優しく答えてくれる。そんな吉村先輩に、私は惚れたのかもしれない。
吉村「ただちょっと後藤さんからも2-2に来てって言われてて..遅くなるかもしれない!ごめんね」
美穂「わ、かりました!ありがとうございます..」
(同じクラスとはいえ、私と後藤さんには大きすぎる差があるんだよなぁ..)
若干もやもやが残ったまま、卒業式が終わった。
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琴葉「じゃあ私校門で待ってるわ!頑張ってね〜!」
美穂「分かった!頑張ってくる!」
そう琴葉と言葉を交わし、カバンを持ったまま空き教室で待つ。
待ち始めて数分しか経っていないはずが、今までの人生の中で1番長く感じる。ここに来ないのではと思うほどに長かった。
美穂「見に行ってみよ..」
あまりにも遅いように感じて不安になり、吉村先輩の教室。3-1まで行くことにした。
廊下を歩いている最中、ふと窓に目を向けると、満開の桜が見えた。
桜は風に吹かれてはらはらと綺麗に舞う。
そうこうしている間に吉村先輩の教室の前に来ていた。
教室の扉は少し開いていて、隙間から中が見えた。
頬を赤らめる後藤さんと、目を見開いた吉村先輩が立っていた。
吉村先輩が微笑んだ後、後藤さんは泣いていた。
(振られた..?)
一瞬でもそう思った自分がバカみたいだ。
後藤さんは吉村先輩の肩に手を置き、背伸びをした。
吉村先輩は、後藤さんにキスをした。
側から見たらだだの口付け。けど私に取っては後藤さんの表情が、吉村先輩の笑みが、何もかもが心に突き刺さる。
見たくない、キスの音なんて聞きたくない。なのに、目を離せない。もう負けているのに。まだ縋っている。
美穂「ッ..!」
瞬きをすると涙が出てしまいそうな気がして、目を閉じないようにしながら教室の扉を開ける。
美穂「ぉ、おめでとうございます!」
2人はギョッとした顔をしていた。
美穂「あぁ、いえいえ!私のことはお気になさらずッ!忘れ物を取りに来ただけなので!」
机を漁り、カバーの下には私と先輩の名前が書かれているはずの消しゴムを取り出し、適当にカバンに突っ込む。
美穂「それじゃあお幸せに!」
にっこりと2人に笑いかけ、廊下を走る。分かっていた。分かっていたはずなのに、目を背けたくなる。
涙をグッと堪え、校門まで走る。
琴葉「お!美穂ぉ!どうだっ..た」
私はカバンを落とし、地面へとへたり込んだ。
琴葉は地面にしゃがみ、優しく私を抱きしめた。
告白をする時はどんな顔をして、何を言おうか。そんなことばかり考えていた。
吉村先輩の横に立てるよう、ダイエットも勉強も、メイクも頑張った。それなのに
美穂「もうッ、分かってたよッ!..私とっ、せんぱいじゃっ、つりあわないッなんて!」
喉がきゅっ、と締め付けられ、若干頬がひんやりとする。
琴葉は何も言わず、ただ頭を撫でてくれていた。
カバンから飛び出た消しゴムは、カバーと消しゴムが外れ、消しゴムに書いていた先輩の名前が見えた。その隣に書いていた私の名前は消えていた。
忘れ物は、もう返ってこない。
あの人たちの恋をドラマティックに飾りつける、ひらひらと舞う桜の花びらが、心底憎たらしかった。




