第11話
第十一話:螺旋の試練、重なる波導
第一階層を突破した二人の前に現れたのは、天を突くような果てなき螺旋階段だった。 この『断罪の塔』は全二十階層。上へ行くほどに世界の「淀み」は濃くなり、現れる守護者たちの格も上がっていく。
「……ふぅ、ふぅ……っ。次は、三体……右奥に、魔力反応!」
第五階層。ライラの声に、アルティガの体が弾かれたように反応した。 現れたのは、影のような姿をした魔獣『虚無の猟犬』。実体を持たず物理攻撃を透過させる厄介な敵だが、アルティガは惑わない。
(アルティガさん、意識を『蒼』に寄せて。私の魔力で、あなたの拳に実体化の定義を上書きします……今!)
ライラがアルティガの肩越しに手をかざすと、彼の右腕の鱗が鮮烈な蒼光を放った。 本来、龍人の力は破壊に特化しているが、ライラの精神操作——正確には「事象への干渉」に近い精緻な魔力制御が加わることで、それはあらゆる属性を貫く万能の矛へと変貌する。
「おおおおおっ!!」
空を切るはずだったアルティガの拳が、影の魔獣を確実に捉え、その核を粉砕した。 一撃。一撃ごとに、二人の呼吸はより深く、より密接に重なっていく。
一階、また一階と登るにつれ、塔の構造も複雑さを増していった。 第七階層では、踏むと爆発する魔力地雷が床を埋め尽くしていたが、ライラがアルティガの脳内に直接「安全なルート」を映像として投影することで、最短距離で駆け抜けた。 第九階層では、精神を蝕む毒霧が充満していたが、アルティガが放つ圧倒的な龍のオーラを、ライラがドーム状に「成形」して防壁とすることで、傷一つ負わずに突破した。
そして。 塔の中間地点、第十階層への扉が開かれた。
「……これは、酷いな」
アルティガが思わず呟く。 第十階層は、広大な円形闘技場のような空間だった。 中心に鎮座していたのは、これまでの魔像とは明らかに一線を画す威圧感を放つ、巨大な『双頭の石像竜』。 塔が吸い上げた「世界の淀み」が凝固し、守護者として形を成した、十階層の門番だ。
「ライラ、下がっていろと言いたいが……」
「……言わないでください。今の私たちなら、勝てます」
ライラは汗を拭い、力強くアルティガの隣に並んだ。 石像竜が二つの口を開き、それぞれから「灼熱」と「極寒」のブレスを同時に放つ。 回避不能な熱波と冷気の奔流。だが、アルティガは逃げなかった。
「ライラ……俺の魔力のすべてを、君に預ける!」
「はい! ……制御、最大出力!!」
アルティガの全身から、爆発的な蒼い魔力が噴き出す。 通常なら周囲を更地にするだけの暴虐なエネルギー。しかし、ライラがその両手をアルティガの背に向けて掲げると、その魔力は瞬時にして一枚の「薄く、鋭い円盤状の刃」へと圧縮された。
――龍導・円月。
アルティガが腕を横一文字に振るう。 放たれた蒼き断層は、石像竜が放った二色のブレスを真っ向から切り裂き、そのまま巨像の胴体を一刀両断した。
轟音と共に、上半身が滑り落ちる。 崩壊していく石像竜の残骸の中から、これまでよりも一際大きな、深い蒼色をした「記憶の結晶」が浮かび上がった。
「やった……。私たち、やりましたよ、アルティガさん!」
ライラが膝をつき、激しい息を吐きながらも笑顔を見せる。 アルティガは彼女を抱き留め、その温もりを確かめるように肩に手を置いた。
ふと、自分の手を見る。 第十階層を突破した影響か、右腕の禍々しかった鱗は、より滑らかで、どこか神秘的な輝きを持つ「龍の甲殻」へと進化していた。破壊衝動に振り回される感覚が、確実に弱まっている。
だが、安堵したのも束の間。 結晶に触れたアルティガの脳裏に、不吉なヴィジョンが流れ込んだ。
それは、自分を追って塔の入り口に辿り着いた、かつての仲間たちの姿。 聖銀の轍のメンバーたちが、驚愕の表情で塔を見上げている光景だった。
「……追いつかれたか。……いや、呼び寄せてしまったのかもしれんな。俺たちがこの塔を動かしたことで」
アルティガの黄金の瞳に、再び緊張が走る。 ここから上は、さらに過酷な戦いになる。塔の魔物だけでなく、自分を「討伐」しに来るかつての友とも、向き合わなければならない時が近づいていた。




