第9話
第九話:弔いの礫、虚無への侵攻
燃え盛る炎が消え、静まり返った村の跡地には、ただ焦げた匂いと絶望だけが漂っていた。 アルティガは、自らの暴走によって変わり果てた景色を、その黄金の瞳に焼き付けるように見つめていた。
「……アルティガさん」
ライラの静かな呼びかけに、彼は黙って頷いた。 アルティガは、かつて聖剣を振るったその手で、土を掘り始めた。爪が剥がれ、鱗の隙間から血が滲んでも、彼は魔法を使うことさえ拒み、素手で穴を掘り続けた。 村人の数と同じだけの墓標を、道端の石を積み上げて作る。 数時間後、立ち並ぶ無数の石積みの前で、アルティガは深く、深く頭を下げた。
「……済まない」
その一言に、彼のすべての悔恨が込められていた。 弔いを終えたアルティガの横顔からは、迷いが消えていた。それは、罪を許されたからではない。この消えない罪を背負ったまま、ライラのために生き、世界の呪いを断つという「呪い」を、自らに課したからだ。
「行くぞ、ライラ」
アルティガはライラを抱き寄せると、再び地平線を蹴った。 もはや躊躇はない。風を裂き、音を置き去りにして、二人は平原を駆け抜けた。
数時間後。 目前にそびえ立つ『断罪の塔』は、もはや風景の一部ではなく、威圧的な現実として二人の前に立ち塞がった。
「……なんて、冷たい気配なの」
麓にたどり着いたライラが、思わず身震いした。 塔の壁面は、数千年の年月を経てなお漆黒の輝きを失わず、周囲の光を吸い込んでいるかのようだった。入り口となる巨大な石扉には、苦悶する龍の姿が刻まれており、それはまるで、今のアルティガの姿を嘲笑っているかのようでもある。
アルティガが扉に手をかける。 瞬間、塔全体が共鳴するように低い振動を上げた。彼の右腕の鱗が、塔から放たれる呪いの魔力に反応して蒼白く明滅する。
「……適合、か。やはり俺を呼んでいるな、この場所が」
アルティガが力を込めると、数トンはあるはずの石扉が、轟音と共にゆっくりと内側へ開かれた。 中から溢れ出してきたのは、濃厚な死の臭いと、身を切るような凍てついた魔力。
普通の冒険者であれば、足を踏み入れた瞬間に精神を病むほどの重圧。だが、アルティガは一歩も引かなかった。 彼はライラの手を強く握り、闇の奥へと足を踏み出す。
「ここからは、俺が前だ。ライラ、俺の背中から離れるな」
「はい……! 信じています、アルティガさん」
第一の塔、内部。 そこは、外観からは想像もつかないほど広大な、異質の空間が広がっていた。 天井は見えず、ただ上へと続く螺旋階段が、闇の中に溶け込んでいる。
沈黙を破ったのは、闇の奥から響く、硬質な足音だった。 カチ、カチ、と規則正しく刻まれるその音と共に、塔の守護者――魔力を帯びた鋼の巨像たちが、瞳を紅く輝かせながら姿を現した。
「……来るか」
アルティガが静かに構える。 村を滅ぼしたあの暴力。それを、今は目の前の「理」を砕くための力へと変える。 最強の龍人と、彼を導く少女。 二人の本当の攻略が、ここから始まった。




