読書
机の照明をパチンと点けると、どこからか妖精たちが集まってきて、机上を舞台に踊り出します。そのチラチラとした淡い光の下で、人間は本を開いて読みました。
チラチラ、チラチラ。妖精たちは充分踊って満足したのか、柔らかく机の上に飛び降ります。
本をぱらりぱらりとするだけの人間に、妖精たちはお互いに顔を見合わせました。自分たちがいかに美しく、可愛らしく踊っていても、この人間は全く興味が無いのです。なんとも不思議。不思議な人の子。
ある妖精は、人間の小指にキスをしました。ちらりと人間の顔を伺うと、本に夢中になっている人間は視線ひとつも寄越さないので、可笑しそうな顔をして、人間の小指にもうひとつキスを落としました。
ある妖精は、人間が読んでいる本を覗き込みました。妖精の使う言語と、人間の使う言語は異なります。それでも、じっと本の字を目で追いました。人間がぺらりと捲った次のページに、美しい挿絵が出てくると微笑みを浮かべ、またじっと眺めておりました。
ご存知の通り、基本的に、妖精というものは、いたずら好きです。いたずらの為に本を傷めてしまわないかしらと、不安に思っている方もいるでしょう。この妖精たちも、やらかしたことがあるのですよ。
随分と昔のお話……でも、妖精たちにとっては、わりかし最近のお話。この人間のほおが、まだ柔らかく膨らんでいたあの頃。
ある妖精が本のページを齧ったことがあります。この人間は、本から顔を上げ、ムッとして妖精たちを睨みました。その目の怖いこと。その怖い目から、ぽろぽろ涙が溢れました。その目の哀しいこと。妖精たちはとってもビックリして、みんなで本のページを直してあげました。
妖精たちは、この人間を怒らせたいとも悲しませたいとも思っていません。だから妖精たちは、本を傷つけるようないたずらは二度としていません。
チカチカと電球が瞬きました。
妖精たちは、静かに人間の様子を伺います。読書に夢中で、電球の寿命が短いことに気づいていないみたい。
妖精たちは静かにフワフワ飛び上がりました。手を繋いで目を瞑りますと、チカチカしていた電球が、ふぅっと息を吹き返したように元気に光を灯しました。きっと、人間が本を読み終わるまでは、頑張って照らしてくれることでしょう。
妖精たちは、ぱらぱらと力なく机の上に飛び降りました。ゴロンと寝転び、見上げた先には人間の顔。その、なんとも幸福そうなこと。妖精たちもニッコリして、静かに目を閉じました。




