夜の病院はカオス
次に目が覚めたとき、私は担架に乗せられていた。
玄関から外に出された瞬間、
2月の澄んだ、刺すように冷たい空気を感じた。
目を開けると、星が見えた。
きれいな星空。
これは、私が見る最後の光景なのか?
隣には母がいた。
「大丈夫?」
心配そうに覗き込んでくる。
「だめ、かも…」
それが、人生で初めての救急車だった。
私はグレーの着古したトレーナーと黒いスウェットパンツ姿だった、
もっと違う格好に着替えたほうが良かったのか?
普段からかわいいパジャマを着ようとその時に思った。
いつ、何があるかわからないから・・・
そんなことを考えていた。
すぐに受け入れてくれる病院が見つからず、
少し遠い病院まで行くことになった。
夜道を走る救急車。
なぜか頭には、猫バスが森の中を走る光景が浮かんだ。
現実逃避。
病院に着くと、思った以上に人でいっぱいだった。
病院独特の匂い、消毒薬やシップ、病気の人の匂いがこもった空間。
私は細くて硬いベッドに寝かされ、
隣のベッドとの仕切りのカーテンを看護師が勢いよく閉めた。
私は白い天井だけを見つめていた。
看護師たちの会話が聞こえてくる。
「昨日は急患ほとんど来なかったのに、今日は昨日の3倍は来てる…」
「波があるのよね…」
看護師たちの疲れた声が響く。
血液検査とMRIを受け、
今度は少し奥の細いベッドに寝かされた。
また白い天井を見上げていると、警察官が来た。
私の前のベッドのおじいさんのところだ。
「おじいちゃん、また来たの?」
「具合が悪いからしょうがないだろう!」
警察官は慣れた様子で言う。
「それで、どうしたの?」
「そこらへんの看護師が俺の金を盗んだんだ!
ポケットに入ってた700円が無い!」
「おじいちゃん、看護師さん忙しいの。
看護師さんはおじいちゃんの700円は取らないよ…」
世の中にはいろんな人がいる。
夜の病院は、まさにカオスだ。
また勢いよくカーテンが開き、
「先生が来ました。ゆっくりでいいのでこちらへどうぞ。」
と呼ばれた。
ゆっくり立ち上がり、診察室に入る。
結果は“異常なし”だった。
「めまいが続いたら、めまい外来に行ってください」
そう言われ、私は帰ってよいと言われた。
診察室の横では、おばあちゃんが
「家まで救急車で送ってほしい」と看護師にお願いしていた。
夜の病院は、やっぱりカオスだ。




