元の世界
考えているうちに、
だんだん過去の記憶が浮かんで来た。
――なんで生きているのか?
――私はどこに向かっているのか?
体が、重くなっていく。
不安、心配、恐怖を感じた。
そのとき――
「ガチャン!」
大きな音が店内に響いた。
「すみません!」
店員の女性が、コップを落として割ってしまった。
水がカウンターに座っていたおじさんにかかったようだ。
「ふざけるな! 水がかかっただろ!」
おじさんは立ち上がり、
店員が差し出したタオルでズボンを拭きながら、こちらを見た。
黒目が大きく、
光のない、真っ黒な目。
――私を、見ている?
私は周りを見た。
私しかいない!おじさんは私を見ている。
「お前は、いつもそうやってネガティブになる。
それがお前の悪い癖だ。
その癖は一生治らない。
そのまま生きていけ!!!!!」
次の瞬間、
メリが私の腕を掴んで立ち上がった。
「ふゆさん! 出て!」
「え? なんで?」
私は引きずられるように、店を出た。
メリは走ってマンションへ向かう。
――地面が揺れている。
地震?違う。
地面が柔らかく、波打っている。
顔を上げると、
メリの姿は消えていた。
不安が一気に込み上げてきた、私は家へ向かった。
エレベーターに乗り、
七階のボタンを何度も押す。息が苦しい。
エレベーターが、異様に長く感じる。
ふらふらになりながら部屋に戻ると、
リビングから娘の声がした。
「ママ、どうしたの? 顔色悪いよ」
「……メリは? メリはどこ?」
「メリって、だれ?」
「え……? さっき一緒だったでしょ?」
「今日は、誰に会ってないよ」
「……なんで……」
「ママ?」
「……なんでもない。少し休むね」
寝室に入り、ドアを閉めた。
――ここは、元いた世界だ。
少し休み、
いつも通り家事をこなし、
みんなを寝かせて、メリを待った。
でも、来ない。
一週間が過ぎても、
メリが現れる気配はなかった。
もうこのままメリは現れないのかもしれない。
そんな考えが脳裏を過るようになった。




