新しい世界
「あんなに外で働きたいって願っていたのに、
そこは、私が本当に求めていた場所じゃなかった」
メリは一口ルイボスティーを飲んでから言った。
「今のままでいいのか。なんで働くのか。
なんで生きているのか。なんで学校に行くのか。
こういう迷いが出てくるのは、今の生活に満足していない証拠だよ。
でもね、答えは簡単には見つからない。一生悩み続ける人だっている」
そう言って、扇子を取り出してゆっくり仰いだ。
「当たり前に学校に行って、
就職して、結婚して、子どもを産んで終わる。
そのために、みんな生まれてきたのか?
疑問に思ったこと、ある?」
私は首を横に振った。
「人は、生まれた瞬間から同じベルトコンベアに乗せられる。
疑いもせず、流されるように進んでいく。
途中で降りる人もいるけど、みんなと違う道を進むのは風当たりは強い。
異常者扱いされることもある。
“みんなと同じ”が正解で、個性を優先するのは不正解とされる世界だから」
メリは少し間を置いて、続けた。
「この世界そのものを、一気に変えることはできない。
でも、良い方向に向かわせることはできる」
「良い方向……?」
「もっと自由で、縛られない世界。
ふゆさんみたいに、生きづらさを抱える人が苦しまなくていい世界」
メリの目が、強く光った。
「でも……」
「なに?」
「自由な世界って、難しくない?
みんなの意識を変えるなんて、無理じゃない?」
「だから、新しい世界を作るの」
「え……?」
「小さくてもいい。私たちで世界を作って、
それを少しずつ大きくする。
そして、そっちを“現実”にすればいい」
「そんなこと……できるの?」
「できるよ。
もう作ってある、小さいけどね」
メリは微笑んだ。
「ふゆさんにも見せたい。今から行こう」
「今から?」
そう言って、また左手を差し出す。
「……わかりました」
私は、メリの左手を見つめた。
次に目を開けたとき、
窓からは明るい光が差し込んでいた。
午前中のようだった。子どもたちの部屋をのぞくと、二人ともいない。
状況を整理しようとソファに座った、そのとき。
玄関のドアが開く音がした。玄関に向かうと、そこには
結衣と沙耶、そしてメリが立っていた。




