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憧れの世界

「世界を作るって言ってもね、

 アニメみたいに別の誰かになれるわけじゃないの。

 ふゆさんは、どこまで行っても“ふゆさん”なんだから」


「じゃあ……ダンジョンをクリアしてレベルアップとかも、ないの?」


「ないない。そもそも敵いないし。たぶんね」


「たぶん!?」


「冗談よ。いないから安心して」


メリはくすっと笑って続けた。


「人間って、毎日選択しながら生きてるでしょ?

 AかBかって分かれ道があって、ふゆさんがAを選んだとして……

 “もしBを選んでたらどうなってたんだろう?”って考えること、あるよね?」


「あります、あります!」


「その“Bの世界”を見に行く感じ」


「なるほど」


「細かい説明より、実際に行ったほうが覚えるの早いの。

 で、どうする?普通に外に出られる世界作る?」


「えっ、私が考える“普通の世界”?」


「そう。家族はそのまま、ふゆさんだけ外に出られる世界」


「……じゃ、それでお願いします」


「了解」


メリはゆっくり左手を差し出した。


私は黙ってそれを見た、


次の瞬間、あの渦巻きが――また現れた。


空気がねじれるような感覚。


視界が白く揺れて、めまいが走る。


次に目を開けたとき、私は自分のベッドで寝ていた。


手を伸ばす。枕元のいつもの位置に、スマホがある。


画面を見ると、5時30分。いつも起きる時間だった。


私はいつも通りリビングへ向かった。


リビングは、娘の脱いだ洋服が散らかり、どこか臭った。


「なにこれ…」


洋服と修の靴下を拾って洗濯機に放り込み、溢れそうな洗濯物を押し込む。


“9時には家を出なきゃ”――そんな感覚が頭に自然と浮かんだ。


キッチンに行くと、シンクには昨日の皿、コップ、鍋が雑然と積まれている。


私はゴム手袋をはめ、無言で皿を洗い始めた。


しばらくすると修が起きてきて、


何も考えずに窓を閉め、クーラーをつけ、テレビをつけた。


まるで儀式のように。


私は朝食を作り、立ったまま食べ、


修と少し会話して、7時に彼を送り出した。


洗濯を干し、掃除機をかけ、キッチンを片づけ、


クローゼットを開けると――


そこには、見たことのない洋服がずらりと並んでいた。


外に出ない自分は、娘のお下がりしか持っていなかったのに。


洋服を見て“あぁ…こんな服、好きだったな。”


そんな記憶がふとよみがえる。


私はデニムと白シャツに着替えた。


外に出るのに、不安も恐怖も、何ひとつ湧かない。


娘の部屋をノックし、


「ママ、仕事行ってくるね」


憧れていたセリフを口にした。家は片付いた。キッチンも綺麗。


クーラーを消して、私は家を出た。


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