ep8 自己紹介
田沼狼鬼の死亡判定から6時間後、三浦龍作は病院で目を覚ました。ベッドで寝転がりながら、彼は横を向いた。
傍らには伊東萌葉がいた。先ほどは暗闇の所為であまり顔立ちが見えなかったが、明るい病院内であれば姿はしっかり見える。
黒髪でやや癖のあるショートヘア、黒縁メガネ、小さい口、薄い唇、抱きしめようものならへし折れてしまいそうな身体、薄めの化粧。そんな女だった。
「……水がほしい」
伊東が心配そうな顔でこちらを伺う中、三浦は真っ先に水を求めた。伊東はどうぞ、と言ってペットボトルのミネラルウォーターを隣接する冷蔵庫から取り出す。
「ありがとう」
身体改造されてある腕以外がメキメキ……と痛む中、上半身だけを起き上がらせて、水を一気に飲み干す。
「あの、そういえばお名前を聞いてないんですけど」
「名前? あぁ、三浦龍作だ。三浦半島の三浦に、東洋龍の龍、作品の作だな」
「三浦龍作さんですか。良いお名前ですね」
「割と気に入っているよ」
「それに比べて、私なんて萌葉ですよ? アニメとかで使われる〝萌〟に葉っぱの葉。ちょっと自分の名前が好きじゃないです」
「良い名前だと思うけどな。それに、特段珍しい名前でもないし」
「私は見た目が地味なんで、名前負けしてる感が否めないんですよ」
「なら、きょうから萌葉って呼ぶよ」
「えっ?」
「せっかく親からもらった名前だし、大切にしていこうぜ」
〝親〟という単語が出た途端、萌葉は口を尖らせ、目を細めた。なにやら親との関係が良くないようだ。
「……、そうですね」
されど萌葉も(おそらく)大人。嫌な気分を押し殺すこともできるのであろう。
「つか、おれら知らないことばかりだな。名前以外なにも知らないし、名前すら今知った。自己紹介でもしておこうか」
「そうですね」
「なら、おれからいかせてもらうぞ」三浦は席払いした。「おれは21歳の大学……じゃねぇわ。流れ者ってところだな。能力と身体改造は……そうだな、ついさっき奪った。能力発現のデバイスはサイコキネシスとマリオネット。コイツらを端的に言うと、サイコキネシスは〝魂〟のこもっていないものを自在に操作できて、マリオネットは硬さを自在に決められる糸を操れる。んで、身体改造ことギアは腕にのみ適用されているってところだね」
いかんせん、この世界に突如として転生? してしまったので、前世? の設定は全く活かせない。ただ、主人公たちが隠し持っていた能力は知り尽くしているため、能力説明には困らなかった。
「ついさっき奪った? その割には、随分使いこなしてるみたいでしたけど」
「デバイスのインストールも、すぐ馴染むときがあるってことさ。それに、元々あの倉庫に隠されていたデバイスの内容は知っていたんだよ」
「え、なんで?」
「情報通なのだよ、おれは」
まぁ、原作知識を持っているので情報通と言ってもおかしくはないだろう。現に伊東が疑っている様子はない。しっかり目を見据えたからか、それともあれだけ使いこなしているのを見たからか。
「んじゃ、萌葉。アンタの番だ」
「あ、はい。私は三浦さんと同い年の21歳です。知っての通りピースキーパー所属で、身体改造はないんですけど、能力は持ってます。結構ピーキーな能力ですけどね」
「どういう能力? 田沼との戦闘で助けてもらったけどさ」
「えーと、超簡単に言うと〝相手の動きを3秒間程度止める〟ものです。デバイス名は〝タイム・グリッチ〟ですね。それだけ聞くと強そうに思えるかもですけど、3秒誰かを拘束するのに10分間集中しなくちゃならないし、連続使用はできないんですよ」
「なるほど。でも、さっきは助かったよ。ありがとう」
伊東は顔をやや赤くして、
「とんでもないです……」
と照れているようにうつむき言った。




