ep7 〝サイコ・キラー〟
ベキィッ!! と、田沼はアスファルトに叩きつけられる。地面は割れ、彼の頬には拳の跡が生々しく残った。
「す、すごい……」
一連の光景を見ていた伊東は、思わず驚嘆の声を漏して口を手で覆う。なにせ相手は〝スターリング・ファミリー〟という、最強最悪の犯罪組織の幹部級。そんな相手を、いとも簡単に三浦は圧倒したからだ。
「……、」
だが、三浦は目を細めて、倒れ込む田沼を見据えていた。まだ終わっていない、と言わんばかりに。
そんな中、地べたに這いつくばる田沼は、もう動けないはずの田沼狼鬼は、指をピクリと動かす。彼はえぐれたアスファルトに指をねじ込ませ、目を充血させながら立ち上がった。
「おおぉ……、うぉおおおお!!」
立ち上がった田沼は、まるで狼のように三浦へ襲いかかった。いくら身体改造をしているとはいえ、それでもあり得ない速度であった。
三浦はガードするために腕をクロスさせるが、同時にそれが間に合っていないことを知る。三浦龍作は田沼の両指による攻撃をモロにくらい、「ぐぁッ!!」と情けない悲鳴を張り上げた。
「な、なにが……!?」
すでに三白眼の青年が勝っていたと思っていた伊東は、田沼の思いもよらぬ攻撃に驚きを隠せずにいた。
「ぶち殺す!!」
そうして、田沼の怒涛の反撃が始まった。
彼は宙を舞い、三浦へ迫撃を仕掛ける。もはや能力もなにも関係ない。ただただ、目の前にいる三浦を仕留めるために彼へ拳をくらわせまくる。
(〝サイコ・キラー〟になったか……!!)
三浦は田沼の攻撃を受け、防戦一方の中、彼がサイコ・キラーになったのを悟る。もって3分の命を使って、田沼は三浦を道連れにしようと迫撃を続ける。
「死なば諸共、ってか……!」
正気度を完全に失い、どのみち田沼は死ぬ。もう正気でない田沼には、道連れにするという考えすら浮かんでいないだろうが、なおもゴリラのような腕力で三浦へ攻撃し続ける。
三浦は身体改造済みの腕でなんとか交わすが、所詮喧嘩慣れしていない身分だ。
「しま……ッ!!」
気がついたときには、ふ頭の倉庫のひとつに跳ねることなく吹き飛ばされた。
「ぐはぁああああ!!」
細い身体を抑え、三浦は悲鳴を張り上げる。肋骨が折れて、内蔵にダメージをくらい、もはやその場から動くことができない。
「ヒッヒッヒ……!!」
なにか有効な手立てはないか。三浦は激痛に悶えながらも、港を見渡す。
そして、
クレーンボールを見つけた。これをサイコキネシスで動かせば、さしものサイコ・キラーも当分動けなくなるはずだ。
しかし、それを動かすにはそれなりの時間稼ぎが必要。マリオネットで田沼を縛っても良いが、おそらく数秒と保たないだろう。
その最中、
伊東萌葉が、両手を高く上げた。なぜかは分からなかったが、ひとまずサイコ・キラーになった田沼の動きが止まる。これはチャンスだ、と三浦はサイコキネシスを使ってクレーンのボールを動かす。
「さぁ、審判の時間だ。田沼狼鬼!!」
もう人語も話せず、目を真っ赤に染めて肉食動物のように唸り声を上げる田沼に向けて、三浦はクレーンボールをぶつけた。バキバキッ!! と恐ろしい音が響き、田沼は動かなくなった。
「はぁ、はぁ……。後は頼んだぞ、伊東」
「は、はい!」
田沼のサイコ・キラー状態は切れて、すでにただの屍と化していた。しかし三浦もすでに限界。彼は気絶した。
三浦はなんとか勝ったが、大きな深手を負う羽目になったのだった。
場に残された伊東萌葉は、企業雇われ治安維持組織ピースキーパーの同僚に連絡を取り〝スターリング・ファミリー〟幹部、田沼狼鬼の死亡を伝えたのだった。




