ep5 不良の道とは虚無である
「おれが寂しそうな目をしている、ねぇ」
三浦龍作は怪訝な面持ちになる。伊東萌葉のすぐ隣を通ったから、彼女にも三浦の目が見えたのであろう。しかし、寂しそうな目つきとはなんぞや? 三浦は不思議に思い、伊東萌葉へ語りかける。
「アンタはなにをもって、おれが寂しそうだと感じたんだい? それは少し気になるね」
「直感です」即答した。「貴方はまるで、この世界へ急に放り込まれた子どものように寂しさがある。だから、貴方を放っておけないんです」
「へぇ。悲しそうな目をしていて、しかも寂しそうだと」
「そうです。確かに貴方が言うように、仮にここで貴方を逮捕できても司法取引かなにかですぐ外の世界に出られるでしょうけど、それでは寂しさが解消されない。創麗に良いように扱われて、悲しみから逃れることもできないと思います」
三浦は鼻でフッと笑い、萌葉の目を見据えた。
「おもしれぇこと言うじゃねぇか。気に入ったよ。だけど、アンタはどうやっておれを寂しさから解放するんだい? ノープランってことはないよな?」
伊東萌葉はしばし黙り込んだ後、その小さな唇からしっかり言った。
「まず、更生しましょう。不良の道は虚無です。貴方の持つ力を、正しいことのために使えば、きっと楽しく生きられるはずです」
傍から見れば三浦は悪党に見えるかもしれないが、それもこれもこの小説世界で生き残るために選んだ道だ。別に無法者というわけではない。
ただ、伊東萌葉の目からはそう見えるのであろう。望んで無法の道に入ったか、図らずとも犯罪者になったか。そんなことはさして重要でなく、世の中は行った結果がすべてなのだから。
「あぁ、分かった。そこまで説得してくれるなら、おれも悪党の道は捨て去るよ」
「……意外と物わかりが良いですね」
「人間、他のヒトから全力で説得されれば案外響くものさ」三浦は第4倉庫を指差す。「あそこに〝ビースト・ファミリー〟という組織の武器が隠されている。アンタが正義の味方だっていうのなら、まず武器等を接収したらどうだ?」
「……、分かりました。応援を呼びます」
伊東萌葉は筒みたいなスマホを取り出し、それを丸めたまま〝ピースキーパー〟の応援を呼び出し始めた。三浦はあくびしながら、ポケットに手を入れて応援を待つ。
その刹那、
パシュンと、なにかが頬を掠めた。
「おいおい、もう〝スターリング・ファミリー〟がやってきたのかよ」
飛んできたものは、銃弾ではなかった。おそらくデバイス経由で発現された能力による攻撃だ。
「伊東、下がっていろ。おれの見立てが正しければ、結構面倒なヤツを連中は派遣してきやがったぞ」
「で、でも、私もピースキーパーですし━━」
「良いから下がっていろ。悪いけど、アンタじゃ敵わねぇよ」
この世界が小説世界であることを知っている三浦は、当然主人公サイドにいる能力者たちも知り尽くしている。順当に進めば勝てる相手だ。
しかし、三浦にも懸念材料がある。それは〝正気度〟だ。正気度というのは、要するに魔力のようなもの。デバイスやギアを装着することで正気度は減り、それを行使してもやはり目減りしていく。
そして正気度を完全に失うと、その人間は〝サイコ・キラー〟と呼ばれる殺人鬼になってしまう。こうなってしまうと、近くにいる者を敵・味方問わずに攻撃し、やがて死に至るのだ。
「さて、遠くで見ていねぇでかかってこいよ。スターリング・ファミリーのソルジャーさん」
それを知った上で、自分を鼓舞するように三浦は敵性を煽る。
されどこんな安い煽りに乗っかってくれるわけもないため、三浦は先ほど手に入れた硬さを指定できる糸を操る〝マリオネット〟を使って、敵性因子かつ主人公の仲間、田沼狼鬼を自身の近くまでたぐり寄せた。




