ep4 貴方を放っておけない
伊東萌葉の言う通り、このふ頭は立入禁止区域だ。だからこそ、主人公たちが武器等を隠していた。しかし器物破損? ……いや、ヒューマノイドにはないのか。〝人権〟が。
そこまで踏まえ、三浦は言う。
「その心意気だけは褒めてやるよ。でもな、勝てない相手に挑むのは体の良い自殺だぞ?」
彼女は原作に出てこない、モブキャラクター。であれば、能力・身体改造ともに所持していないはず。それを踏まえた上で、今ギアやデバイスを手に入れた三浦に挑もうとしているのだ。
されど、伊東萌葉は一歩も引かない。よほど正義感が強いのだろう。そして、いくらデバイスとギアの所為で〝正気度〟が弱まっている三浦も、いちいち人殺しなんてしたくない。
「それでも、それでも……!! 私はこの街を守らないといけない!! ピースキーパーになってから、もう命なんて捨ててるようなものだから!!」
「なるほど。犬死にして街を守るってわけだ。そういう馬鹿、嫌いじゃないぜ」
皮肉交じりだが、実際三浦はそう思っていた。『サイバーパンク2021』の世界は腐り果てていて、警察機関は民営化され、実質お偉方のボディーガードに当たっている。この世界を支配する大企業〝創麗グループ〟が立ち上げた治安維持組織〝ピースキーパー〟もまた、自分のためにしか動かない連中ばかり。
そんな腐り果てた世の中に来てしまったからこそ、三浦龍作の目には伊東萌葉の正義感が輝かしく見えた。
「しかし、オマエになにができる? どうせなんの力もないはずだ。女性用のチープピストルでおれを無力化できるなんて、思っちゃいないよな?」
「……っ」
「でもまぁ、その心意気は結構好きだぞ。さっきも言ったけどな。権力に巻かれる卑怯者や、能力とかを使ってなんの罪もない連中を殺しまくる連中より、よほど美しいと思うね」暗闇の中、三浦は手を広げる。「だいたい、おれのやったことは犯罪かもしれんけど、被害は最小限だろう? テロ組織の武器を奪って、それにキレた連中が派遣してきたヒューマノイドを壊した。仮におれを逮捕できたところで、逆に司法取引してシャバに戻って来るんじゃねぇの?」
さぁ、どう出る? 伊東萌葉。三浦の言ったことは事実である以上、必死になって逮捕する理由もない。
「…………。ひとつだけ質問させてください」
「良いよ」
「貴方の目的はなんですか?」
「目的、ねぇ」三浦は苦笑いを浮かべる。「今のところはなにもないさ。この世界を滅ぼしたいとか、絶対的な存在になりたいとか、そういうのは全くない。ベイサイド・シティや日本、果てには世界を滅ぼしたところで、インフラがなくなるだけだしな。絶対的な存在になってみても、おれが病気かなにかで死んだら、また無秩序な世の中がやってくる。だからまぁ、今のところは生き残りたいだけさ」
伊東萌葉は、点灯と消滅を繰り返す電灯が明るくなった際、唇を尖らせて目を細めた。
「ま、分かったらおれはヤサ探しに行くから、きょうはもう帰りな。おれを本気で逮捕したいのなら、ピースキーパーの上澄みに連絡しても良いけども」
結局、伊東萌葉は押し黙ってうつむくしかなかった。三浦は彼女の横を通り過ぎ、ヤサ━━隠れ家を探すべく行く宛のない道を歩くことにしたが、
「待ってください!」
突然、伊東萌葉が三浦を静止した。
「私は貴方を放っておけません。そんな寂しそうな目をしたヒトを無視するなんて〝正義〟が泣きますから」
伊東萌葉は、良く意味の分からないことを言い始めた。




