ep21 この世界の理
苦しい告白をしたことで身体を震わせる萌葉は、しかしハッキリした口調で、
「はい……!!」
と、三浦に身体を委ねるのだった。
*
「副総長、波留相談役がお呼びです」
スターリング・ファミリーのナンバー2、そしてこの物語の本来の主人公〝近藤アキラ〟は、自身の事務所で目を開けながら昼寝していたが、その一声とともに目を覚ます。
「おぉ。チカさんがおれになんの用だ?」
「分かりかねますが、急ぎの用事だと」
「分かった。車出しておけ」
「承知しました」
近藤は寝起き早々葉巻をくわえ、即座に子分に火をつけられると、首を横に軽く振った。
「ッたく、総長のやり方にも困っちまうぜ。三下どもに三浦龍作が殺れると思うか? 宝くじ当てるよりよほど難しいよ」
「それほどまでに、伊東総長は三浦龍作を脅威に思ってるんじゃねぇんですか? 幹部級がふたり殺られてるわけだし」
「なら余計に、カネ目当てのガキどもには無理だろ。チカさんにはなにか案があるのかね」
「それは分からないですが、あの波留相談役ですからね。なにか言いたいことがあるんでしょう」
「だろぉな……」
アメリカ大統領が乗っていそうなリムジンが用意され、近藤は波留親広のいる事務所へと向かっていく。波留はなにかを知っている、という確信を抱きながら。
波留は、スターリング・ファミリー内でも特殊な立ち位置にいる男だ。ドンである伊東若葉の決定を補佐し、この組織の最古参でもある。
だというのに、随分古臭い事務所……というか、バラック小屋群のひとつに彼は暮らしている。なんとも形容し難い、懐かしい匂いに包まれた事務所へ近藤とボディーガードは入っていった。
「チカさん、いい加減新しい事務所構えたらどうですか? なんならおれがカネ用意しますよ?」
畳の上で日本酒片手にノート・パソコンをいじくる、メガネをかけた辛気臭い30代後半くらいの男性波留は、そんな後輩の意見を鼻で笑った。
「良いんだよ。ここにいたほうが目立たねぇ」
「つか、昼間から日本酒ですか。肝臓ぶっ壊しますよ?」
「それで死ぬのなら本望だろ。おれらは所詮裏社会の人間だ。まともに死ねるなんて甘い幻想、描くことぁない」
畳の上に近藤は座る。「で、きょうはなんの用で?」
「あぁ。そこのボディーガード、席を外してもらえるか? 余計な耳はいらねぇんだ」
護衛たちは目を合わせるが、近藤が退くようにジェスチャーしたことで下がった。
「なぁ、アキラ。オマエ、若葉についてどう思う?」
「どう、って……。そりゃ、おれらのドンですよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「隠し事はなしだ」
「……気に入らねぇところもありますよ。確かに、おれらを悩ませ続けた関東七王会と兄弟分になったし、おれの子分どものカネ周りも良くなった。だけど、貫目で言ったらチカさんのほうが上でしょ? 20歳のガキに顎で使われるのを良く思ってねぇヤツらも多いし」
「アキラ、オメェはまだ甘いな」
「は?」
波留は一升瓶を一気飲みした。「もうスターリング・ファミリーや七王会の話じゃなくなってる、と思わねぇか? あの三浦龍作ってガキが現れてからよ」
「確かにアイツの所為で幹部や若いのが殺られましたが、それとなんか関係あるんですか?」
「オメェはどこか抜けてるな。考えてもみろ。あのガキは数日で幹部ふたりをバラしたんだぞ? それに、オメェが隠し持ってた兵器も奪われた。まるでこの絵を知ってるかのように」波留はノート・パソコンの画面を近藤へ見せた。「今しがた、創麗グループの最機密にアクセスしたんだが、おもしれぇ話があってさ。アキラ、オメェは『時空間の歪み』と『漂流者』を知ってるか?」
「知らないッスよ。漫画かなんかの話ですか?」
「なら、もう少し詳しく言ってやろう。創麗グループは、異世界からヒトを呼び寄せる研究を行ってる。その実験が半分うまく行った結果、三浦龍作がやってきたのさ。この世界に」
「……!!」近藤の顔がこわばる。
「それと同時に、創麗は意図的に主人公を作ってる。まるで物語みてぇに。その主役に選ばれてれたのが……オメェだ、アキラ」




