ep2 主人公の切り札を奪え
「し、死ぬ。こんなところにいたら確実に死ぬ」
確かに、三浦は退屈な日々を嫌っていた。しかしそれはあくまでも〝同じ生活を繰り返す〟ことへの憂鬱感から来ている。あの生活がゼロだとしたら、10か20くらいに進んでくれれば良かっただけなのに、神様とやらが血迷ったのか、突然ゼロから100まで飛ばされてしまったのだ。平和だが退屈な日々から、刺激的だが死の可能性が非常に高まる日々へと。
「と、と、とりあえず……どうすりゃ良いんだ? 原作の進行は結局、主人公の実力ありきだろ? 今のおれはなんの改造もされていないし、能力も持っていないぞ?」
顔を手で覆いながら、三浦は絶望に浸る。
この『サイバーパンク2021』という小説は、身体改造━━ギアと呼ばれる道具を身体へ取り付けるか、脳を弄くって人智を超えた力━━スキルを手にしないと、始まる前から終わってしまう。そして当然ながら、つい先ほどこの世界で目覚めたばかりの三浦にギアもスキルもない。
「い、い、いや。落ち着け。スロー・ダウンだ、龍作。おれには原作知識がある。この世界がどんな進み方をするか分かる━━わけねぇ!! だってこの作品未完結だもん!!」
更に不幸なのは、『サイバーパンク2021』という作品が完結していないという事実だ。どんな終わり方をするのかは、原作者と編集者、一部のアニメスタッフくらいしか知らないだろう。なので、どの組織についていけば良いか分からない。安全そうなのは主人公サイドだが、いかんせんこの物語は〝曇らせ〟や〝鬱展開〟が多い。下手すれば現主人公とその仲間が全滅して、そのまま別の主役を立てられてもおかしくないのだ。
「どうしよう……。せめて銃と銃の撃ち方くらい教えてくれよ……」
今三浦がいる公園だって、安全だとは限らない。わざわざ発砲禁止だとか能力使用禁止と書かれているということは、過去にそれらを使って闘った連中がいたからだ。というか、この〝ベイサイド・シティ〟に平和な場所なんてない。『サイバーパンク2021』愛読者は、しばしばこの舞台装置を〝世紀末都市〟と呼ぶほどだからだ。
もう途方に暮れるしかない三浦龍作は、せめて近くの道路で行われているギャング同士の抗争が終わるまで、じっと息をひそめる。ベンチの裏側に隠れて、時折チラッと経過を観察し、やがて銃声が鳴り止んだので、恐る恐るベンチ裏より身体を起こす。せめて銃があれば違うかもしれないと、点灯と消灯を繰り返す電灯の下を通り、死体の山から拳銃を抜き取る。
ずっしりと重たい鉄の塊を手に持ち、それをじっくり見つめる。間抜けに口をポカンと開けながら。マガジンの出し方すら知らない三浦は、今何発残っているか分からない〝M2011〟というハンドガンを背中のベルトに隠し、死体の山を見て見ぬふりし走って去っていくのだった。
*
「はぁ、はぁ……」
だいぶ走った。この世界の警察はまるで機能していないが、その代わりに世界一の大企業〝創麗グループ〟隷下の治安維持部隊〝ピースキーパー〟という組織がある。ただ、ソイツらも企業雇われの身が故に腐敗しているため、下手すれば先ほどの抗争を三浦の所為にされて逮捕される可能性がある。なので、護身になるのかも分からない拳銃だけ持って〝ベイサイド・シティ〟の港のほうに走って向かった。
港には、原作通りであれば主人公サイドの隠し武器がある。中にはギアやスキル発現用デバイスもあり、この街で生き残る覚悟を決めるのであればうってつけの場所だ。
「確か、第4倉庫の物置に隠されているんだよな……」
原作通りであれば鍵がかかっているはずだが、それはダイヤル式である。しかも原作でダイヤル番号もご丁寧に記されていたので、もしこの世界が原作通りに進んでいるとするのなら、きっと突破口は見える。
倉庫の奥深くに入っていく。走りまくった所為で肺が痛いものの、死ぬわけではないから問題はない。この世界は死と直結しているので、そうならなければ良いのだ。
「ここか……」
ダイヤルを回し、倉庫を開ける。
中には、溢れんばかりの武器が入っていた。アサルトライフル〝M5A1〟だったり、ライトマシンガン〝XM350〟だったり、手りゅう弾だったり、閃光弾だったり、ロケット・ランチャーだったり……数えると切りがないほどに。
しかし本命は、やはり身体改造道具〝ギア〟と能力発現用デバイスだ。
ギアは腕や脚を覆い隠せる程度の大きさで、見た目は普通の身体のパーツにしか見えない。これをつけることで、身体能力を大幅強化できるのである。
デバイスは首に巻くチョーカーみたいな形だったり、指輪みたいだったり、時計みたいだったりと、アクセサリー感覚でつけることができる。一度つけることで、永久的に能力を使えるようになり、外しても効力を発揮する。
「ギアとデバイスは〝正気度〟を奪うから……つけられるのはせいぜい3つまでだな」
悩んでいる時間はない。三浦は腕型のギアと指輪、時計を身体につけた。
刹那、インフルエンザになったかのような悪寒に襲われる。
「ぐ、はぁ……!?」
三浦はのたうち回り、唾液を垂らしながら悶え苦しむ。
だが、ギアとデバイスのインストールが終わり、三浦は自身が正気なのを知るのだった。




