ep12 逃がすかよ!!
「ターゲット・ダウンです。家森さん」
どこか棒読み気味に、クセ毛の長い金髪を持つ鈴江は家森へ無線を使って連絡した。
『ご苦労。ズラがるぞ。ピースキーパーのクソどもの増援が、更にやってきそうだしな』
「はい」
鈴江の持っている巨大ライフルの弾は一発のみ。もちろん他にもハンドガン等を所持しているが、彼女からすればそんなものはおまけにしか過ぎない。
鈴江猟虎。彼女は〝オート・エイム〟という能力を持っている。オート・エイムは読んで字のごとく、どんなところから射撃しても標的に銃弾をくらわせる……というものだ。それに加えて、対戦車ライフルを超えた銃を扱うため、彼女は腕も改造してあった。
しかし、鈴江はスコープ越しから視認した。ターゲットの三浦龍作がまだ息をしていると。
「家森さん、マトはまだ生きているようです」
『そうか。まぁ、放っておけ。どうせ撤退するときに同志たちが始末していくさ』
「御意」
*
病院前は、もはや戦場だった。ありとあらゆる武器と能力、身体改造を用いて、ピースキーパーとスターリング・ファミリーが闘っている。野良猫やネズミたちですら逃げ出し、人間だけが必死に殺し合う。病院内にいる者は、ガタガタと震えながら息を潜める。
ここは地獄なのか? 治安維持組織と反社会的勢力が対峙しただけで、地獄が生まれてしまうのか?
いや、地獄で終わらせて良いわけがない。いくら死傷者が出ようとも、ピースキーパーにとってはスターリング・ファミリーの戦力を削げる最大のチャンス。なにか目的を果たしたように撤退していくスターリング・ファミリー構成員に向け、ピースキーパーは次々と迫撃を仕掛けていく。
そんな中、無法者が去っていく道の中で意識を失っていた三浦龍作は、一瞬立ち止まった構成員に撃ち殺されそうになっていた。
「テメェが田沼さんを殺ったんだよな!? 上等だ! 敵討ちさせてもらうぞ!!」
拳銃が三浦の頭に向けられる。それでも三浦龍作は動くことができない。指ひとつ、動かせなかった。
そして、
パァンッ、と破裂音が響いた。
「……ッたく、手間取らせやがって」
頭を撃ち抜かれた男を見て、ある青年は深い溜め息をつく。
それから数秒後、伊東萌葉がやってきた。涙を流しながら。
「御島さん!! 三浦さんは、三浦さんは……!!」
「死んでねぇよ。ギリギリ息がある」
御島義隆は、伊東にそう伝えて三浦の首筋に注射器を打った。その注射は、ピースキーパー製の興奮剤『シア・ハート・アタック』という産物である。10分から30分の間、寿命を前借りする代わりにサイコ・キラー化することもなく、能力の限界を突破することができるものだ。
「━━ハッ!?」
三浦は意識を取り戻し、あたりを見渡す。先ほど狙撃された位置は分からないものの、建ち並ぶ摩天楼の上部を見渡し、巨大ライフルを置いたまま逃走したのであろう鈴江猟虎のだいたいの居場所を掴んだ。
「ど、どうしたんですか? 三浦さん」
「いや……狙撃手に撃たれた。サイコキネシスのバリアをも破っちまう威力だった。でも、まだ遠くへ逃げられていないはずだ。おれの推測が正しければ、相手は鈴江猟虎だからな……」
「なるほど。脚を改造してないから速攻で逃げることができないと」
「そういうことだよ……って、オマエ誰だ?」
「御島だ。ここに派遣されたピースキーパーの部隊長だよ」御島は三浦に手を貸し、彼を起き上がらせる。「さて、これだけドンパチして家森の首を獲れなきゃ始末書モンだし、せめて鈴江だけでも捕まえるぞ」
御島……。聞いたことのない名前だが、有力な戦力なのは間違いない。三浦はあぁ、と頷きサイコキネシスを自身の身体にかけて空を再び舞うのだった。




