「全部夢だったのか?」
この物語は、普通の高校生カイトと、謎めいた白髪の少女サカリの奇妙な日々を描く。
突然現れた日記が、彼らの運命を少しずつ変えていく――。
今日もまた、予想もしない出来事が二人を待ち受けていた。
第2章 – 落ちた日記
カイトは自分の部屋で目を覚ました。
「……何が起こったんだ? 寝ていたのか? サカリはどうした?」とカイトは混乱して思った。
スマホを確認すると、
「いない……。サカリの番号が? どうしてないんだ?
全部夢だったのか……?」と絶望しながら自問した。
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二日後。
カイトは学校へ向かっていた。公園での出来事、サカリとの会話がまだ頭を離れない。
校門をくぐると、心臓が早鐘を打った。そこに、彼女の姿があったからだ。
白い髪の、高くて細い少女。友達のグループと一緒に歩いていた。
カイトの体は反射的に動いた。彼女へと走り出していた。
「サカリ!」と叫び、手を振った。
しかし少女は振り返り、驚いたように、そして警戒した目で見た。
「ごめんなさい、あなたは誰?」と彼女は答えた。
カイトは硬直した。
「どういうことだ? 僕を知らない? 本当に夢だったのか……?」
少女は立ち去り、ある男子生徒にぶつかった。
「あっ、ごめん!」石川ナオキだった。
その拍子に黒いノートがリュックから落ちた。
カイトは無意識にそれを拾い上げた。
「サカリ!」息を切らして近づくカイト。
サカリは目を大きく見開き、怯えた表情を浮かべた。
「離れて! 誰なの? ストーカー?」
友達たちはカイトを取り囲み、非難の視線を向けた。
「彼女に近づくな、変態!」と一人が叫ぶ。
カイトは唾を飲み込んだ。
「違う、僕はただ……!」と必死に説明しようとしたが、遅かった。
サカリたちは立ち去り、カイトは一人、手にしたノートの重みを感じていた。
「何が起こったんだ……?」とナオキが尋ねた。
「……夢でも見てたんだと思う」とカイトは答えた。
「それで済むことじゃないだろ」とナオキ。
「……ごめん、今日は帰るよ」とカイトは俯いた。
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その夜。
部屋でカイトは黒い日記を開いた。読んではいけないと分かっていながら、好奇心に負けた。
最初のページには名前があった。サカリ。
最初は普通の日記だった。
1月2日
ユナにアイスを買ってもらった。
1月3日
テストがよくできた。ナナミが勉強を手伝ってくれたおかげ。
「ただの日常の記録か……返した方がいいな」とカイトは思った。
しかし、ページをめくるごとに日記の内容は暗くなっていった。
1月7日
また髪のことでからかわれた。色が抜けてきてる。
1月8日
リュックを川に捨てられた。ユナとナナミがかばってくれたけど、迷惑をかけたくない。
1月9日
もう生きていたくない。消えてしまいたい……。
「……これは……?」カイトは凍りついた。
さらに読み進める。
1月9日
またいじめられた。運動中に押されて、ある男子はみんなの前で裸にされた。最低な人たち……。
もう耐えられない。死んで楽になりたい。誰にも迷惑かけたくない。
「そんな……。でも今日は1月8日だ……? 書き間違えたのか? これは……遺書……?」
「どうすれば……? 先生に? 学校に? いや……僕には何もできない。とりあえず明日返そう……」
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翌日、1月9日。
数学の授業中、窓から外を見たカイトは目を疑った。
サカリがまた女子たちにいじめられていた。
「……昨日のことじゃないのか……? やっぱり日付を間違えたのか……?」
その後、校庭では人だかりができていた。
「何が起きてる?」とカイト。
「一年の子が裸にされたんだ。最悪だ」とナオキ。
「……これは……日記に書いてあったことだ……!」
カイトの脳裏に嫌な予感がよぎる。
「もしこのままなら……サカリは……!」
全力で校舎を駆け回るカイト。
そして屋上へ。
そこに、柵の上に立つ白髪の少女の姿があった。
彼女は――飛び降りた。
カイトは迷わず駆け出し、その腕を掴んだ。
全身の力を込め、引き上げる。
二人は屋上に倒れ込み、命は繋がった。
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「大丈夫か!」と叫ぶカイト。
返ってきたのは嗚咽だけだった。
「サカリ……怪我は……?」
「……どうして?」とサカリ。
「え……?」
サカリは泣きながら胸に顔を埋めた。
「どうして助けたの……? 私は生きてる意味なんてないのに……。答えてよ! 私が生きている理由、一つでいいから教えて!」
カイトは言葉を失った。
「家族のため? 友達のため? 『大丈夫』なんて嘘を言うのか? ……いや、それじゃ届かない……」
「僕は……君をもっと知りたいから、生きてほしい……」と絞り出すように言った。
サカリは信じられないという顔をした。
「……それだけ? 私が苦しみ続ける理由が、それ?」
「……好きかどうかなんて分からない。けど、一緒に小説の話をしたり、公園を歩いたり……そんな時間をもう一度過ごしたい」
「もう一度……?」
「夢で見たんだ……どうでもいい。とにかく……生きてほしい。今は何も見えなくても、いつか生きる意味を見つけられる。僕でよければ、君を支える。だから……もう少しだけ生きてみてくれ」
サカリは涙を拭き、苦笑した。
「あなた、変だね。全然意味分からない」
「はは……何を言えばいいか分からなくて……」とカイトは赤面した。
「……じゃあ、一つお願いしてもいい?」
「もちろん」
「今はただ……アイスが食べたい」
カイトは驚き、笑った。
「やっぱり……そういうことか。よし、奢るよ」
サカリは少し笑ったが、その瞳はまだ赤かった。
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カイトは屋上で日記を開いた。
1月9日
今日、飛び降りようとした。なのに、あるバカな男に邪魔された。ストーカーかと思った。
「……ひどいな」とカイトは苦笑した。
さらに読み進めると、文字が浮かび上がってきた。
彼は悪い人じゃない。むしろ優しい。不思議な人だけど……あの言葉には救われた。本当に彼がどんな人なのか知りたい。
カイトは信じられなかった。
「この日記は……?」
ページは自動的に増え、未来の日付が並んだ。
1月10日
1月11日
1月12日 …… 2月16日
「……なぜ……2月16日まで……? まさか……その日が……?」
カイトは震える声で呟いた。
「サカリ……これは一体、どんな日記なんだ……?」
彼には何も分からなかった。
カイトは屋上で日記を握りしめ、目の前の少女の存在を再確認した。
「未来が見える日記――でも、まだ分からないことだらけだ」
サカリの涙は少し乾き、彼女の瞳には微かな希望が灯った。
二人の奇妙な日常は、まだ始まったばかりだった。