恋愛小説は好きですか?
ツナキ・カイトは図書館で運命の少女、サカリ・キヨミに出会う。恋愛小説を通して二人の距離は少しずつ縮まっていく――青春と恋の物語。
ツナキ・カイト(海翔)はカジュアルな服装で図書館へ向かっていた。
肩からかけたリュックは、先週借りたマンガで少し傾いている。
目的地は――ライトノベルのコーナーだ。
「はぁ……どれにしようかな」カイトは小声でつぶやいた。
「探してたやつが貸し出し中か……。どれを選ぶべきだろう。恋愛ものはいつも決めるのに時間がかかるんだよな」
カイトは本棚にもたれかかり、ドンッと小さな音を立てた。
近くにいた学生たちが好奇心で彼を見た。
そこへ、数人の女子がコーナーを通りかかった。
その中で、一人の背が高く美しい少女が足を止め、カイトの前に立った。
「どんな小説を探してるの?」と彼女が尋ねた。
カイトは驚いた。まさか女子から声をかけられるとは思っていなかったのだ。
少し目を見開き、彼女を観察する。
「えっと……恋愛小説を探してるんだ」やっとのことで答えた。
「まだ決めてなくて、ジャンルさえ合えば何でもいいんだけど」
少女は少し意外そうに彼を見つめた。
(この子、恋愛ものが好きなの……?)と心の中でつぶやく。
「じゃあ、これがおすすめだよ」彼女は棚の一冊を指さした。
「とても面白いし、主人公たちの関係がすごく深いんだ」
サカリ・キヨミ(咲里清美)は語り始めた。
「主人公たちの絆は特別で、彼はとても優しく、彼女はすごく強い……。時々全然違うように見えるけど、ぴったりなんだよ! しかも展開が本当に予想外で――」
カイトはその熱心な語りに惹き込まれ、自然と笑顔が広がっていった。
しかし突然、サカリは自分が話しすぎていることに気づき、顔を赤らめた。
「は、はぁぁ……ごめん! 私、もう行かなきゃ!」
彼女は慌てて走り去ってしまった。
カイトは呆然と見送った。その時、床に何かが落ちているのに気づく。
小さなネックレスだった。
「これ……彼女のかな?」
拾い上げたカイトは、一瞬落とし物として届けるべきか迷ったが、結局ポケットにしまった。
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二日後。
カイトは学校へ向かって歩いていた。
校門の前で、黒髪の背の高い少女が友達と話しているのを見つけ、心臓が跳ねた。
「彼女だ!」
意を決して近づき、声をかける。
「や、やぁ……」
サカリは驚いて振り向いた。
「き、君……どうしてここに?」
「よかった。同じ学校だったんだね」カイトは落ち着いた声で答えた。
ポケットからあのネックレスを取り出す。
「これ、君の?」
サカリの目が見開かれる。
友達たちは警戒したように叫んだ。
「サカリに何したの!? このデブ!」
だがカイトは気にせず、静かに差し出す。
「……ありがとう」サカリは震える声で言った。
ネックレスを受け取り、深く見つめる。
「本当にありがとう!」
カイトは小さく笑った。
「い、いや……誰でもできることをしただけだよ」
「それでも……あなたがやってくれたから」サカリは涙ぐみながら言った。
「どうお礼をすればいいの?」
カイトは冗談っぽく笑った。
「はは、アイスでも奢ってくれれば……なんて、冗談だよ」
だがサカリは目を輝かせて答えた。
「じゃあ決まり! 放課後、一緒に行こう!」
周りはざわめき、カイトは何度も瞬きをした。
授業中も彼の頭にはその約束のことが離れなかった。
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公園での初めての約束
放課後。
カイトが公園に着くと、サカリはすでにベンチに座って待っていた。
少し恥ずかしそうに微笑む。
「や、やあ!」
「……こんにちは」カイトも答える。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったよね。
私の名前はサカリ・キヨミ。よろしくね」
「俺はツナキ・カイト。よろしく」
「ツナキ……素敵な名前だね」サカリは頬を染めた。
「え、ありがとう。君の名前も可愛いよ、サカリ」
「そ、そんなこと言われるなんて……」サカリは赤くなった。
二人はベンチに並んで座り、ぎこちなくも楽しげな時間が流れる。
「ところで、小説が好きなんだろ?」カイトが尋ねる。
「えっ!? ち、違うの! ……って、あの時はつい熱くなっちゃっただけで……」
「いや、すごく楽しそうに話してたからさ。ライトノベルとか好きなのかなって」
サカリは一瞬黙ったが、すぐに笑顔を浮かべた。
「……大好き! キャラの心が成長していくところとか、全然違う二人が理解し合える瞬間とか……。ロマンスは本当に胸が熱くなるの!」
カイトは静かに耳を傾け、優しく微笑む。
「そうやって話す君を見てると……本当に小説が好きなんだって伝わるよ」
サカリはさらに赤くなった。
「わ、私も……君の好きな小説の話を聞いてみたい」
「いいよ。いつでも語り合おう」カイトは穏やかに答えた。
その後、ふと彼は尋ねた。
「そういえば、髪……染めてるの?」
サカリの顔が固まり、手が震えた。
「……いや、別に言わなくてもいいんだ。ただ、ちょっと色が抜けてきてるみたいだったから」
カイトは携帯を見て、慌てて立ち上がる。
「しまった! もうこんな時間か……ごめん、サカリ。帰らなきゃ」
「そ、そうね! 私も親が心配するし」
二人は立ち上がり、別れの挨拶を交わした。
「じゃあ、また明日学校で!」
「うん……またね、カイト!」
カイトが去っていく背中を、サカリはしばらく見つめた。
そして勇気を振り絞って叫んだ。
「ま、待って! 連絡先、交換しない!?」
カイトは驚き、一瞬迷ったが、やがて頷いた。
「……いいよ」
スマホを交換し、互いの連絡先を登録する。
二人はしばらく黙って見つめ合った。
「じ、じゃあ……本当にもう帰らなきゃ」サカリは慌てて言った。
「俺も。じゃあ、また明日」
二人は別々の道を歩き出す。
サカリは電車に乗り込み、カイトは家へ向かう。
それぞれの手には――
サカリはネックレスを、カイトはサカリの連絡先を。
そして、どちらも思わず微笑んでしまった。
――第1章 完。
第1章はカイトとサカリの初めての出会いと、心が少しずつ近づく様子を描いた。