馬鹿な男と無礼な女
「ようこそ。我がステルフィン家が主催の夜会へ…っ!」
「どうしたの?ロベルト様?…あら、マーガレットさんじゃないですか…!お久しぶりですね!で、そちらの方は?」
ユーリス様を見て明らかに表情が固まったロベルトに比べ、マリアは何も知らないのかユーリス様に失礼をしそうな感じ。
「お久しぶりです。マリアさん。こちらは…」
ユーリス様の紹介をしようとするとユーリス様に止められた。
「マーガレット、紹介なんてする必要ないよ。」
「でも…」
「だって、そこの男が知ってるだろうし、ここにいる誰もが俺のことを知っているだろう。なのにこの女性は何も知らないみたいだ…君は…ロベルト王子の婚約者なのだろう?」
「ええ、そうですわ!先ほどから少し失礼ですわ!ロベルト様、何か言ってやってください!」
失礼なのはあなたなのよ、マリア…
強気で失礼なマリアに慌てながらも、マリアの味方をしなければと思ったのか、ここぞとばかりに強くでてくるロベルト。
「…マ、マリアは、私の婚約者です。か、彼女への侮辱は我がス、ステルフィン家への侮辱と同じことです…!」
言葉の途中で詰まってるのは情けない…
そんなロベルトに笑うユーリス様。
…私は笑わないように我慢してるのに…!!
「あははははっ!ロベルト王子。なら言わせていただくが…彼女は礼儀を知らないようだなぁ…ロベルト王子、あなたの婚約者なら、妃教育もきちんとされているだろうに…全くなってないなぁ…それに、一国の王子の婚約者なら、俺の存在ぐらい知っておかないといけないだろう。」
私はそうやって話すユーリス様の姿に少し背筋が凍った。明らかに目が冷たく、かなり怒っている感じに見える。確かに、マリアはすごく失礼だったわ。というか、ステルフィン家の妃教育はすごく厳しく、嫌なくらい礼儀と作法を学ばされる。それなのに、全くと言っていいほど何も出来ていないマリア。一体、今まで何をしていたのか…
「マーガレット。少し向こうに行こうか。」
「ええ、そうですね。」
私は二人に背を向け歩き出した。
すると、ロベルトが私の名前を呼んだ。
「マーガレット…!!」
私は、そんな大声で叫ばれるから思わず振り向いてしまう。そんな私を見て何を勘違いしたのか知らないけど、
「や、やっぱり、お前はまだ私のことが好きなのだな!未練があるからここに来たんだろう!?だが、俺にはマリアがいる。だから、ここでお前にいい話がある。マリアの妃教育をしてくれないか?そうすれば、お前はこの国にいれる!それにここの屋敷で自由にやっていい。どうだ?いい話だろ?なあ、マーガレット!過去の話など忘れて、俺のそばに来い!」
反吐が出る発言をしだした。
どこで未練を感じた?
馬鹿なんじゃないの?
呆れるわ。
「ふふっ!あのね、ロベルト王子殿下。私は…」
大切な人がいると言おうとしたら、ユーリス様に抱き寄せられ唇を奪われた。
周りは悲鳴をあげて驚いていた。
私もキスには驚きそうになったけど、ここで驚いてしまえば本当に婚約したのにも関わらず嘘だと思われるかもしれない。それに、これはユーリス様の考えがあっての行動なのだろう。だから私はユーリス様に身を委ねた。
唇がゆっくり離れるとユーリス様が私の代わりに言ってくれた。
「誰が、お前のような男に未練があると?あははっ!笑わせるな。ロベルト王子、お前には感謝してるよ。なぜならお前がその女と浮気し、婚約破棄をしてくれたおかげで俺は四年もの長い間、片想いで愛し続けたマーガレットがやっと俺だけのものになったのだから…お前たちには本当に感謝だなぁ…ロベルト王子、よく聞けよ。マーガレットはもう、俺のものだ。俺の愛する婚約者だ。俺以外の男なんて…マーガレットには必要ないんだよ。あ、もちろんマーガレットの執事であるレイスやフィーレス家の人間たちは話が別だ…マーガレットが大切な人たちは俺も大切だからなぁ…」
私を抱きしめながらそう話すユーリス様は、本当に独占欲の塊にしか見えない。ロベルトの表情は怯えている。だけど、マリアは少し怯えながらも私を睨んでいる感じ。まあ、なんとも思わないけど…
それは多分、ユーリス様の腕の中だからなのかもだけど…でも、嬉しいなぁ…ユーリス様が俺以外の男はいらないって言った後すぐに、レイスやフィーレス家の人間たちは別だと言ってくれたこと。そう言われた時のレイスの表情がすごく嬉しそうだった。
「ロベルト王子。ここに来たのは、美しく綺麗で愛らしいマーガレットを見せびらかすためだ。俺の愛する婚約者だとね。ロベルト王子、随分と身の程をわきまえた相手選びだな。お前にはそこにいる無礼な女がお似合いだよ。そこの女を選んでくれてありがとう。マーガレットを手放してくれたおかげで俺は幸せだ…これから先、何が待っているのか…楽しみだな?ロベルト王子。」
…なんかユーリス様、この状況を楽しんでない?
すごく、楽しそうなんですけど…
「マ、マーガレット…」
「マーガレットだと?気安く呼ぶな。」
「マ…」
「ちょっと!さっきから聞いていれば失礼ですわ!ロベルト様よりもあなたは偉いの?見たことのない顔だわ!どうせそこら辺にある公爵なのでしょ?」
あ…失礼な発言を…
他の人もマリアの発言に慌てている。
そして、ロベルトも。
「へえ…君はやっぱり、無礼なんだな。なら、教えてあげるよ。俺が誰なのか。」
「ええ、教えなさいよ。まあ、どうせすぐに忘れるでしょうし!」
いえ、あなたは忘れられなくなるわ。
だって、あなたが失礼をしているのは隣国の王子なのだから。
「俺は、隣国であるシュタレスティア王国の第一王子、ユーリスだ。以後、お見知りおきを。」
「シュ、シュタレスティア…王国の第一…王子…」
明らかに動揺してる。
さあ、今度はどう出てくる?マリア。
「あ、あの。先程までの失礼をお許しください。」
ユーリス様を見れば笑いを堪えている。
「平民だったのだよな?」
「はい、そうです…」
「なら、許してやろう。」
その言葉にパァッと明るい表情になったマリア。
そんなマリアはお得意のぶりっ子演技を始めた。
「あの、ユーリス様…実は私…ずっと、マーガレットさんに…いじめられていたんですっ…殴られたり、大事な物を壊されたり…酷いことを…沢山、されたんですっ…だから、ユーリス様…マーガレットさんは、危険です…っ…だから、騙されないでくださいっ…!」
泣きながら話すマリアだけど、ユーリス様にそんな演技は通用しない。でも、ユーリス様は楽しんでいるからなぁ…なんて言うんだろう…
それにしても、周りがうるさい。
マリアの言葉に同調するように言葉を発している。
ここにいる人は何も知らないから言えるんだ。
マリアの本性を知らないからね。
でも、ユーリス様にそんなものは通用しない。
「うるさいなぁ…静かにしろ。」
その一言で一気に周りが静かになる。
「マーガレットがそんなことをする女性だと?あははっ!本当にお前たちは何も知らないのだな。可哀想だ…マーガレットのおかげでこの国の経済は安定しつつあったというのに…君は、礼儀、作法も知らないし、先程からマーガレットに対する侮辱ばかりだ…ああ。ロベルト王子の言葉を借りようか…マーガレットに対する侮辱は我がトルーレン家への侮辱と同じだ!覚えておけ。そして、この先の未来に幸せが訪れることを祈っているがいい…まあ、お前たちにこの先待っているのは地獄だがな。あははははっ!」
ほんと、楽しそう…
私もスッキリした…
だって、私の代わりにユーリス様が全て話してくださるもの…
マリアの方を見れば私を睨みつけながら唇を噛んでいる。悔しいのかな?でも、いいじゃない。ロベルトがいるのだから。あなたにはその男がお似合いよ?言わないけどね。
「マーガレット。この屋敷で夜景を見渡せるところはどこにある?」
「それならいい場所があります…!」
「案内してくれるかな?俺の愛するマーガレット。」
「ええ、もちろんです…!ユーリス様!」
私はユーリス様に腰を抱かれながら、この屋敷で一番夜景が綺麗に見渡せる場所へ、レイスと共に案内した。