一歩ずつ
「到着したみたいですね…」
馬車が止まり、扉が開く。
私はユーリス様の手を握り、馬車を降りる。
私たちの前にはステルフィン邸。
(久しぶりね…)
またこの屋敷へ来るなんて、誰が想像していたか…
どうしても憎しみと呆れから力が入ってしまう。
「マーガレット、力を抜いて…」
「あ、はい…」
そうだった…今、ユーリス様に手を握られてるんだった…一度深呼吸をして落ち着かせる。すると、ユーリス様が私の腰に腕を回した。
「…!」
そしてユーリス様は私の耳元で囁いた。
「マーガレット。俺たちは婚約するんだ。これくらい当たり前のことだよ。驚かないで。それに、こうしないと婚約のことが嘘だと思われるよ?」
「…そうですね…」
分かってる…分かってるんだけど…
やっぱり、緊張する…
だって、あなたに触れられるのは慣れないから…
周りには私と同じようにドレスを着て夜会に来た人たち。そんな人たちがみんな私の方を見てコソコソ話、笑っている。だけど、隣にユーリス様がいるのを見た瞬間目の色を変え、何事もなかったかのように通り過ぎていき屋敷の中へ入っていった。
「マーガレット。準備はいい?」
「はい。もちろんです。」
「レイスも大丈夫か。」
「はい。大丈夫です。」
レイスにも気を遣ってくださるユーリス様。
レイスもここに来るのを一度は躊躇っていたからこその気遣いだったんだろう…
「なら行こうか。」
「「はい。」」
私は一歩ずつ踏みだしていく。
一歩また一歩。屋敷へ近づくとどんどん鼓動が速くなり、足取りが重くなる。
そんな私にユーリス様は声をかけてくれる。
「マーガレット。何も心配しなくていい。君は何も悪いこともしていないのだから、何かに怯える必要などない。俺がついている。安心してね。」
「はい…」
ユーリス様の言葉で落ち着きを取り戻した私。
この一歩で屋敷の中に入る。
屋敷の扉が開くと中にいる招待された人たちが一斉にこちらを見る。私たちは時間ギリギリに到着したこともあり、沢山の人の目が私たちに突き刺さる。
「マーガレット。行こうか。」
「はい。」
屋敷の中へ進んでいくと聞こえてくるのは私に対する暴言となぜユーリス様が私なんかと一緒にいるのかという話ばかりだった。
そんな中、前から歩いてくる二人の男女。
その男女は私が最も会いたくなくて、大嫌いな二人だった。