なぜ?
──トン、トン、トン
「誰だ?」
「マーガレットです。」
扉が開くと中から出てきたのはガウンを着てもうすぐ休もうとしているユーリス様。
「入って。」
「はい。」
部屋の中へ入れば、白と黒で統一された寝室。
私が好きそうなシンプルな部屋だった。
「マーガレットが来てくれるなんて驚いたよ。どうしたんだ?」
そうだ…私は聞かないといけないことがある。
「ユーリス様。先程、剣の相手をなさったとき、手を抜きましたよね?」
「なんのことだか。」
「とぼけても無駄です。私には分かります。私を助けたあの森でのあなたは一瞬にして大人数の盗賊たちを倒しました。そんな方が私一人に手こずるはずがありません。」
「君が強かった。ただそれだけだよ。」
手を抜いていたのは確か。
私が分からないとでも思っているのかしら…
「いえ。ユーリス様は確実に手を抜きましたよ。あれほどスピードも速く、力強い剣は確かに手を抜いていないと思えるかもしれません。でも、一つだけそう思わざるを得ないことがあったのです。」
「???」
「目線ですよ。」
「目線…?」
「はい。ユーリス様なら分かると思います。相手の目を見れば次はどこを攻撃してくるのかを。目線を攻撃する方へ向ければ確実に防御はそっちに向かう。でも、ユーリス様はそれを分かっているにも関わらず、私に目線で次の攻撃を伝えていた。これこそ、手を抜いた証拠だと思います。」
私は手を抜かれることは好きじゃない。
剣を交えるのに手を抜くなどあってはならない。
例えその相手が想い人であったとしてもしてはならない。もし、それが戦場ならどうなっているか。
そんなことは考えたら分かること。
それはユーリス様も分かっているはずなのに。
「あははっ!流石だね、マーガレット。確かに手は抜いたよ。君が長い間剣を振ってないって言ってたからね。だって、もし本気でやってしまえば長い間剣を振っていなかった君は確実に怪我をすることになる。そんなことはしたくないからね。君には傷ひとつつけたくなかったから。」
ユーリス様は私が怪我をしないように考えたうえで手を抜いたんだ…
「私のことを考えての行動だったのですね…申し訳ありません。そうとは知らず問い詰めるような真似をしてしまい…」
「いいんだよ、マーガレット。」
「ユーリス様…でも、次する時は手を抜かないでくださいね…?手を抜きすぎるといざ、戦いの場に立ったときに癖で出てしまいますので。それに、私は手を抜かれることは好きではありません…剣を交えるなら真剣勝負でないと…」
「分かったよ、マーガレット。それなら、俺と稽古をしてみないか?」
「ユーリス様とですか?」
「ああ。剣を振っているマーガレットはすごく楽しそうだったよ。それに俺がマーガレットに惹かれたところの一つはその剣を振る姿だ。剣を一緒に交えるのも楽しかったしね。どうかな、マーガレット。」
確かに、剣を振るのはすごく楽しかった。
だけど、今の私の体力でユーリス様のスピードについていけるのはせいぜい10分程度が限界。でも、この国にいる以上お父様に習うことが出来ない今、お父様と近い強さを持つユーリス様に習うのは私にとってすごくいいこと。
「ユーリス様がよろしいのであれば、ぜひ。」
「もちろんだよ…!でも、まずは体力からだね。体力まで落ちてるから最初のうちは短い時間でしよう。体力が元に戻れば長く剣を振ろうか。」
「はい。」
ユーリス様と剣を交える日がこれから何度もあると思うと楽しみでワクワクする。
そろそろ部屋に戻らないとレイスが心配するわね…
「ユーリス様、私は部屋に戻ります。」
「…え?何を言ってるんだ?」
「いや…部屋に戻るって…」
ユーリス様は私に近づくと腰を引き寄せる。
「せっかくここに来てくれたのに、部屋に返すわけないでしょ?いくら手を抜いたとはいえ相当剣を振って疲れたよ…だからさ…」
言葉の途中で私をベッドまで連れて行き押し倒して私の上に覆いかぶさってきたユーリス様。そしてさっきの言葉の続きを言われる。
「マーガレット。俺を癒してよ…」
そう言うとユーリス様は私の唇に一つ口づけをした。
「ユーリス様…部屋に帰らないと…レイスが心配するので…」
そんな私を見てユーリス様は笑い出す。
「あははははっ!」
「???」
「ごめんね。マーガレット、部屋に帰りな。また明日ね。おやすみ。」
「…?おやすみなさい…」
そして私はユーリス様の部屋を出て、用意していただいた部屋に戻った。
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マーガレットが部屋を出たすぐ後のユーリス様。
「はあ…マーガレットはかわいいなぁ…そのまま襲いそうになったよ…キスが出来ただけでも良かったけどさ…早く君を俺のものにして、俺以外考えられないようにしないとね…マーガレット、早く俺に堕ちてね。」