防御から攻撃へ
──キィン!
「マーガレット、集中してね。俺に。」
そう言ってどんどん仕掛けてくるユーリス様。
(速い…)
ユーリス様の動きは速い。気を抜けば確実に負けてしまう。今の私には防ぐのがやっとで攻撃が出来ない。
(何か、攻撃が出来るきっかけを作らないと…)
──カン、カン、キィンッ!
こういう時どうすれば攻撃に回れるか。
(考えろ、私…思い出せ…)
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「マーガレット。相手が連続攻撃を続けてきた場合、防御をすることしかできないが、それでは相手にダメージを与えることはできない。なら、どうすれば自分が攻撃する状況になると思う?」
「んー…機会を待つとかですか…?相手は攻撃ばかりだといずれ疲れてきます。そうすれば、必ず隙がでてくる。そして、隙ができたところで攻撃をする。どうですか…?」
「うん。それも間違いではない。ただ、相手が攻撃で疲れるときは、防御をしている自分も疲れるんだ。相手の力を止めるんだからな。そしたら、相手だけでなく、自分にも隙が出来る。必ずしも、相手の隙ができるのを待つのが正解ではないということだ。」
「…それならどうすればいいのですか…?」
「相手と間を取るんだ。一度間を取れば必ず攻撃ができる。もし間が取れないのなら、相手のバランスを崩すんだ。例えば、ひたすら動いて、石のあるところに誘導し、バランスを崩すようにする。そうすれば、相手の構えも、姿勢も全てが崩れていく。そこが攻撃のチャンスだ。」
「なるほど…!」
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(間を取る…もしくはバランスを崩す…)
──キィン!
(速いし、何より力も強い…なかなか剣が跳ね返らない…それなら…)
──カン、カン、キィンッ!
「あっ…と」
(来た…バランスを崩した。攻撃開始。)
──カン、カン、キィンッ!
「マーガレット。速いね、動きが。」
「ユーリス様も速いですね。お父様と近しい速さですよ。」
まだまだ剣は止まらない。
静かな夜に鳴り響く私とユーリス様の剣と剣が交わる音。アリオス国王陛下たちがどんな表情でこの光景を見ているかは分からない。でも、どう思われたとしても構わない。私は、このままの私を受け入れてくれる人がいると信じてる。
そう…こうやって今、私の相手をしてくれている人を…
この時間はそう長くは続かない。
対決というものにはいつか終わりが来る。
──キィンッ――カラン、カラン……カランッ…
ユーリス様の最後の攻撃で私は力が尽きた。
そのせいで自分の手から剣が弾き飛ばされ地面に落ちた。これが、本当の戦いなら私はここで死んでいた。
(ほんと…ただ者じゃないわ…)
「終了だ。二人とも、いいものを見せてもらった。良かったぞ。特にマーガレット嬢の腕には驚いた。まさかユーリスの動きについていけるとは…さすがだ。」
「ありがとうございます。」
「今日はもう夜遅い。ここに泊まってゆっくり休みなさい。部屋は準備させる。」
「…よろしいのですか…?」
「ああ。構わないよ。好きに使ってくれ…!」
「ありがとうございます。」
私は今晩、ここに泊まることになった。
さすがに久しぶりに剣を振ったから疲れた。
(明日は確実に筋肉痛だなぁ…)
「マーガレット様!剣を握られるのは久しいのに素晴らしかったです!」
「ありがとう、レイス…」
「…?どうかなさいましたか…?」
「ユーリス様の剣捌き…あれは、ただ者じゃないって初めて見たときに分かっていたけど、交えて改めて思ったの…ユーリス様はお父様と実力があまり変わらないと思う。いくら、私が久しぶりに剣を握ったとはいえ、この場が戦場なら確実に私は怪我をしていた…いや、死んでいたかもしれない…戦場に言い訳は通用しないから…」
「…マーガレット様…」
久しぶりに剣を握った。そんな言い訳は通用しない。
だから、私はそんなのを言い訳にできないほど、稽古を積むべきだと思った。もちろん、私が戦場に立つことはないかもしれない。それでも、誰かがいないとき、自分を守れるのは自分だけだから…
そう。私は努力するしかないんだ…
「レイス。先に部屋に行っていてちょうだい。」
「えっ!?マーガレット様はどこに!?」
「ユーリス様のところよ。さっき部屋を教えてもらったから。」
「どうして…僕も行った方が…」
「大丈夫よ。レイスも疲れてるでしょ?ずっとしっかり休めていなかっただろうし…今日は先に休んでて。」
「かしこまりました…」
私はユーリス様に聞きたいことがあった。
それを聞くために私はユーリス様の部屋へ向かった。