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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第1章 巫女見習いと魔王様

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第008話 霊力の覚醒

 私の耳を(つんざ)く爆発音。


「あ……あ……ああ…………」


 その後に聞こえてきたのはルーシーさんのか細い声。絶望に満ちている、そんな声だった。


「ハッハッハ! お前が仲良くしたがっていた人間はお前のせいで死……なにっ!?」


 魔族の一人が驚いたような声を上げた。有り得ない出来事に遭遇した、そんな声を。


(……あれ? どうしてまだ声が聞こえるんだろう?)


 ここで私は気付く。私はまだ()()()()()、と。


 恐る恐る目を開けると、目を見開いている魔族たちの姿が視界に入ってきた。


(痛ッ……!)


 腕や足がヒリヒリする。決して無傷じゃない。だけどルーシーさんを追い詰めていた攻撃を受けたとは思えないほど、私の身体は大した被害を受けていなかった。


「ば、馬鹿な! 人間は脆く、弱い生き物のはずだ!!」


 魔族たちと比較すればその認識は間違っていないと思う。だけど現に私はこうして生きている。極めて軽症で。


「あ、有り得ねぇ! 一体何が起きたって言うんだ!?」


 魔族たちは明らかに動揺しているようだった。私がまだ生きているなんて有り得ない、彼らはそう思っているんだろう。それに関しては私も同じ感想だ。


「……待て。噂に聞いたことがある。人間の中には“霊力”という、我々魔族の持つ“魔力”のような力を持つ者がいる、と」

「ではこの小娘もそうだというのか!? 信じられん……」


(霊力? 私にそんな力があるというの……?)


 魔族たちの言っていることが本当ならば。だけどにわかには信じ難い、私はそう思っていた。


「そういう……ことか……」


 背後から弱々しい声が届く。何かに気付き、納得したような声。


「ルーシーさん……?」

「舞桜……詳しい……話は……後だ…………」


 彼女の声は相変わらず途切れ途切れだった。無理もない。見るからに瀕死の重傷を負っているのだから。だけど弱々しい声のはずなのに、先ほどの絶望の色はもう感じられない。それどころか希望を感じている、そんな声色だった。


「また、邪魔させてもらうぞ…………」

(え、邪魔って……?)


 私の理解が追いつく前に、ルーシーさんの姿が消えた。そして再びあの感覚が蘇る。心の中に彼女を宿した、なんとも形容しがたいあの感覚が。


『ふぅ…………。やはりお前の中は落ち着くな……』

『そ、ソウルダイブ? ルーシーさん、一体何を考えて……』


 私は至って自然に、心の中で彼女と会話していた。彼女を宿す感覚に、少し慣れてきたからかもしれない。


『お前の持つ不思議な力の正体がようやくわかったが……とりあえずその話は後回しだ』

『ええっ!?』


 ルーシーさんだけ納得されても困る。だけど目の前にはまだ恐ろしい魔族たちがいる。彼らをどうするか、そちらの方が重要なのは確かだ。


「おい、ルシフェリアが消えたぞ!?」

「あいつ、このガキにソウルダイブしやがったな!」


 魔族たちもルーシーさんが私の中に入ったと気付いたみたい。


「くそっ! 出てきやがれ!!」


 魔族たちは再度私を狙って攻撃してきた。火の玉が、雷の槍が、氷の塊が私を襲う。

 だけど私の身体には大した傷が付かない。まるで目に見えない緩衝材が私の身体を包んでいるかのように、彼らの攻撃を和らげてしまう。多少の熱さや痺れは感じるけど、大事に至るようなものじゃない。


『やはりな。どうやらお前の持つ霊力が結界のような役割を果たしているようだ。奴らの攻撃がまるで効かん』

『ど、どうして私にそんな力が……!?』


 今までこんな力を実感したことなんてない。巫女の見習いをやっているとは言え、ただの中学生の私にどうしてこんな力があるのか全くわからない。――私の中では謎が深まるばかりだった。


『なぜお前にこんな力があるかはわからん。だが奴らの攻撃が効かんのならこの状況、なんとかなるかもしれん』

『ほ、本当ですか!?』


 まだイマイチ実感が湧かないけど、私には霊力という不思議な力があるらしい。その力のおかげでこのピンチを乗り越えられるかもしれない。そんな希望が湧いてきた。


「オラオラルシフェリア! “魔王”を名乗るなら、そんなガキの中に隠れてないで出てきやがれぇ!!」

「それともまたボロ雑巾のようにされるのが怖いのか?」


 私たちが見出した一筋の希望。その希望を叩き潰すためか、魔族たちはルーシーさんを挑発しながら猛攻を仕掛けてきた。その度に皮膚に軽い痛みや痺れが走る。


『ところで舞桜、お前の防御力は大したものだが、何か攻撃はできないのか?』

『こ、攻撃? そんなの、やったことがないからわからないです……』


 私にできるのは相手の攻撃から身を守ることだけ。しかも無意識に。それでさえ今日初めてできるとわかったこと。攻撃ができるかなんてわかるはずもない。


『そうか……。このまま攻撃を受けるばかりではジリ貧になるが、何か良い打開策はないものか……』

『うーん…………』


 ルーシーさんが戦えるならそれが一番早いはず。魔王というくらいなんだから、本来の力を発揮できれば今敵対している魔族より強いと思うし。だけど今のルーシーさんは大ケガを負っていて、魔力(?)も全然無い状態みたい。つまりルーシーさんが戦うのは無理。


(……じゃあ他に利用できそうなものは?)


 私には霊力という不思議な力があるらしい。その力を攻撃に使うことができれば話は早いんだけど、それもできない。


(本当に、どうしたらいいんだろう……)


 瀕死の魔族と防御しかできない人間。そんな二人が揃ったところでできることなんて……


 そこで私は気付いた。今戦っている相手が何者なのか、ということに。


(“魔族”がソウルダイブしている“人間”……)


 ……そうだ! よく考えたら今の私も“魔族”がソウルダイブしている“人間”だ。それなら……


『ルーシーさん! 私たちも……えっと、確か……そうだ、デビライズ! デビライズというのはできないんですか!?』

『……そうか、その手があったな! でかしたぞ舞桜!!』


 “人間”と“魔族”の合体、デビライズ。私たちはついに打開策を見つけた。




『それで、デビライズって具体的にはどうやるんですか?』

『私も実際にやったことはないから教わった知識しかないが、確かまずは人間にソウルダイブし、洗脳して…………あ』


 洗脳というちょっと穏やかじゃないワードが飛び出したけど、今はそれよりも気になることが。


『ルーシーさん、今「あ」って言いませんでした?』

『………………』

『ルーシーさん?』


 黙り込んてしまった。一体どうしたんだろう?


『…………舞桜、確かお前……私の洗脳、効かなかったよな……?』

『あ……』


 そう言えば昔、ルーシーさんが私にソウルダイブした時、私のことを操れないとか言っていたような……?


『えっ? じゃあもしかして私たち……』

『…………』

『デビライズできない!?』

『…………うむ』


 二人の間にしばしの沈黙が流れる。沈黙に耐えきれず、先に言葉を発したのは私。


「ええっ!? じゃ、じゃあどうするんですか!? 他にデビライズする方法は……」

『知らん! あとお前、外に声が漏れてしまっているぞ!!』

「あっ、やばっ……」


 しまった! デビライズできないことに驚いてついうっかり声を上げてしまった。


「デビライズ……だと?」

「まさか貴様ら、デビライズする気だったのか?」

「マズいぞ、(しち)(ざい)()にデビライズなんてされたら俺たちに勝ち目は……」


 デビライズという単語を聞いた途端、魔族たちが今までにないくらい動揺し始めた。やっぱりそれほどまでに絶大な威力を誇るんだね。……まあ、できないんだけど。


「貴様らにデビライズさせるわけにはいかん!!」

「今すぐ死ねやぁ!!」


 デビライズを警戒する魔族たち。彼らの攻撃が更に激しくなる。


『よくわからんが、連中がデビライズを警戒し始めたぞ』

『痛ッ! ……ど、どうするんですか? このままじゃ……』

『うーむ…………』


 今のところ致命傷にはなりそうにないけど、徐々に傷や火傷の範囲は広がっている。巫女装束もあちこち傷み始めている。


『……勝つだけなら向こうのエネルギー切れを待てばいいのだが、それはなぁ……』

『どうしたんですか?』


 このまま耐え続けても一応は勝ち目があるみたいな言い草だけど、その戦法を取りたくない理由があるみたいだった。


『私たちがデビライズするために、奴らと私たちの違いを考えていて気付いた、というか思い出したのだが……』


 ルーシーさんらしくない煮え切らない態度と声色が深刻さを感じさせる。


『奴らのデビライズのエネルギー源は恐らく依代となっている人間の生命力だ』

『え……?』


 人間の生命力がエネルギー源? それってつまり……


『エネルギー切れを待てば勝てるというのは……』

『奴らの依代となっている人間の死と引き換え……ということになるな』

『ッ……!!』


 魔族が取り憑くのは悪い心を持った人間らしい。だからといって死んでしまっても構わない? ……ううん、私にはそんな風には思えない。


『じゃあ早くなんとかしないと……!!』

『ああ。だからなんとかしてお前とデビライズできないかと考えているのだが……』


 こうして心の中でルーシーさんと会話している間も、魔族たちの猛攻は続いている。その度に依代となっている人たちの生命力はじわじわと削られていく。その事実が私たちの焦りを生む。


『操れないのは舞桜の霊力のせいか? それとも舞桜自身に悪の心がないからなのか……?』

『ルーシー……さん……?』

『いや……そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()のか……?』


 ルーシーさん曰く、デビライズは魔族が人間を洗脳して行うもの。だけど私にはその洗脳が効かないみたい。そしてそれは私に霊力なんてものがあるせいかもしれない。


 霊力なんて力がなければ良かったの……?


『私たちと連中の違いはなんだ? せっかく舞桜が作ってくれた反撃のチャンスを無駄にしたくはないぞ……!』

『!!』


 ……そうだ。違うんだ。私に霊力なんてなければ、じゃないんだ。この力がなければそもそも、私たちはもう終わっていたんだから。……ううん、始まりすらしていないんだから。


 ――活かすんだ、この力を。私には無理でも、ルーシーさんならきっと活かしてくれる。だから……!


『ルーシーさん!! 私の霊力と、身体を使ってください!!』

『なに? だが私にはお前を操ることは……』

『操られるんじゃありません……。あなたを信じて、託すんです……!!』


 信じて託す。私の力や身体を利用するという点では敵と同じかもしれない。だけど私には意思がある。それだけで全然違うはずだ。


『信じて託す……か。私にはお前を操ることはできないが……お前の力を、想いを受け取ることならできるのか……?』

『できます、きっと。だから……』


 心の中での彼女との会話。それはただの、声だけのやり取りのはずだ。だけど私と彼女の姿が脳裏に浮かぶ。脳裏に浮かぶ彼女の瞳をまっすぐ見つめ、告げる。


『ルーシーさんも、私を信じてください』


 私の言葉に、ルーシーさんは「フッ……」と笑った。嘲笑ではなく感心している、そんな笑みだった。


『人間を……いや、舞桜を信じる、か。確かに、その気持ちは足りなかったかもしれんな……』


 そして彼女はまっすぐ私を見つめ、言い放つ。


『……いいだろう。ならば私もお前を信じ、お前に賭けよう。この力を……この想いを……!!』


 その言葉が放たれた瞬間、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じた。


 ルーシーさんの想いと私の想いが溶け合い、一つになる――


 ――その直後、私たちの世界は眩い輝きに包まれた。

お読みいただきありがとうございました。

続く第9話も投稿しております。よろしければお読みください。

※第11話までは毎日更新予定、その後は週2回更新を予定しております。

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