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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
序章 二人の出会い

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第002話 追放されし魔王

「ハァ……ハァ……」


 どうしてこうなった? どうして私は味方だったはずの者たちに追われている?


 ――私は一体、どこで間違えたというのだ……?


 1()0()0()()()。私は一度だけ人間界へ降り立ち、そこで一人の少女と出会った。そして一時(いっとき)ではあるが彼女の心に取り憑き、不思議な温かさと優しさを味わった。


 ()()()()()が私に、魔界を統一して平和にしたいという想いを抱かせてくれた。魔界と人間界の架け橋になりたい。そう思うキッカケを与えてくれた。だから私はこの100年、力を磨き、理想に賛同してくれる仲間を集めた。


 集めたと信じていたのだが――


 私は走っていた。行き先は決まっていない。目的はただ一つ、追っ手から逃げ切ることだけ。そのために私はただひたすら走り続けた。


「待ちやがれ、ルシフェリア!」

「魔族の恥晒しめ!」

「この裏切り者!!」


 背後から怒号や罵声が飛んでくる。だがそんな声などいちいち気にしない。気にしている余裕などない。


「待てって……言ってんだろうがッ!!」


 直後、背後で魔力が膨らみ、こちらへ向かってくる感覚が身体を走った。


(来る……!!)


 魔力の気配だけで回避を試みたが、巨大な火の玉を完全には(かわ)しきれず、右上腕を掠めた。掠めただけなのだが、皮膚が焼かれ、痛みが走る。

 万全の状態ならば回避など造作もなかったはずだ。それだけ今の私は消耗しているということか。


「ッ……!」


 思わず顔を歪め、火の玉が掠った箇所をもう一方の手で押さえる。状態を目視する余裕はない。たとえ酷く(ただ)れていようとも、今は腕の火傷程度でこの足を止めるわけには行かないのだ。


 しかし、そんな私の覚悟とは裏腹に、足を止めざるを得なくなってしまった。私の進行方向に着弾した火の玉は木々を焼き払い、行く手を阻む。


(くそっ、別の道は……)


 すぐに思考を切り替えようと試みたが、追っ手は一体ではない。他の者の追撃も続く。私の思考よりも早く、槍のように鋭い電撃が襲う。


「ぐあああっ!?」


 全身を強力な電流が流れる。まるで雷に打たれたように。全身が痺れる。全身が痛む。


 ――だが、ここで止まるわけにはいかない。


「ハァ…………ハァ…………」


 息が切れる。だが止まれない。私はこの100年、ずっと走り続けてきたのだ。――理想に向かって。それが今は命からがら逃げるだけの現実に変わっているのだから皮肉なものだが。


(……私は、間違っていない。間違ってなど、いないんだ……!)


 そう自分に言い聞かせながら、ひたすら走り続ける。この追撃が続く限り、確信は持てないのだが。




 ――100年前。私がまだ4歳ほどの頃。私は魔王になるべく、幼い頃から教育を受けていた。魔法の鍛錬だけでなく、帝王学などの勉学もその一つ。


 だが私は座学が嫌いだった。こっそりと抜け出し、冒険と称してあちこちへ出歩く。それはもはや日課となっていた。私はこの冒険の時間が堪らなく好きだったのだが……恐らく皆には心配や迷惑をかけていたことだろう。その点は素直に反省しよう。


 その日もいつもと同じく、冒険のつもりだった。森の中を歩いていると明らかに自然物とは思えないものが。

 綺麗に切り揃えられた石が無数に積み上げられ、中央には扉があった。


「こ、これはもしや、“ちてーいせき”というやつなのではないか!?」


 この時の私はかつてないほど胸が躍っていた。未知の地底遺跡の探検。好奇心旺盛だった私はウキウキで調査を開始。早速この遺跡と思しき建物の中に入ってみることに。


 小さな両手で扉に触れ、目一杯押してみる。だが扉は開かない。開く気配がない。


「あ、あかない……。けど、ここであきらめるルシフェリアさまじゃないぞ!!」


 今度は手だけでなく、全身を使って扉を押し込もうとしたのだが……やはり動かない。


「お、おもい……! このトビラ、びくともしないぞ……!」


 その後も助走をつけて体当たりをしてみたり、押して駄目なら引いてみたりもしたがやはり駄目。開く気配はない。扉は厳重に封鎖されていた。


「くそー! ルシフェリアさまのチカラにたえるなんて、なんてこんじょーのあるトビラなんだ!」


 今思うと意味不明な考えだが、子どもの頃なんてそんなものだろう。そしてそう簡単に諦めないのもまた子どもだ。


「ぜったいになかにはいってやる! ……ん?」


 ここで気が付いた。扉をよく見ると薄っすらと刻印が。どうやら封印が施されているようだった。


 普通ならさすがにここで諦めるのだろう。私も普段ならそうしていたかもしれない。

 だが、その日の私は違った。どこかに中に入れそうな場所はないかと探る。そして、何者かに破壊されてできたような穴を発見。決して大きくはないが、少なくとも子どもの私が通るには十分だった。


「ヘヘッ、ラッキー♪ ここからはいれるぞ!」


 私は何の躊躇もなく、穴から遺跡の中へ。石の階段を下り、奥へ奥へと進んでいく。


 入口が厳重に封印されていたため、中には誰の気配もなかったのだが、ところどころ荒らされたような形跡が。盗掘というやつか。恐らく私が通ってきた穴はその盗掘犯が開けたものだろう。


 さらに遺跡の奥へと歩みを進めると、大きな装置があった。何の装置かは全くわからないが、恐らく盗掘犯のやつも大きすぎてこれは持ち出せなかったのだろう。


「ヘンなキカイだなー」


 幼い私は無邪気にその機械を触った。今ならそんな浅慮(せんりょ)なことは絶対にしないのだが。子どもの好奇心の恐ろしいところだ。


 私があちこち触っていると、突然謎の装置が動き出してしまった。何がキッカケだったのかは今でもわからない。わかっているのは装置が作動したという事実だけだ。


 装置にエネルギーが収束していく。黒い電撃が(ほとばし)る。そして、空間に歪みが生じた。


 歪みはみるみるうちに広がり、宙に黒い穴が。幼い私ならば簡単に通り抜けられそうな大きさだ。


 今ならその穴について慎重に調査しただろう。しかし子供の好奇心とは本当に恐ろしいもの。幼かった私はその穴へ飛び込んだ。全く躊躇することもなく。




 穴を通り抜けた私は空から地面へと放られた。咄嗟のことで自分が飛べるということも失念し、勢いよく地面へダイブ。


「い、いてて……」


 我ながら頑丈な身体だ。自分の背丈の何十倍、いや何百倍もありそうな高さから落下したというのに、大きな怪我もない。痛いことは痛かったが。


「……ど、どこなのだ、ここは……?」


 見たことのない場所だ。青々とした葉をつけ、高くそびえる木々たち。魔界の、紫や黒ではない、青く澄んだ空。そして何より、周囲に充満しているのは瘴気のような禍々しいものではなく、どこか神聖さを感じさせる、不思議な力。


 ――何もかもが私の暮らす“魔界”とは異なっていた。


 魔界にこんな場所があるなんて話は聞いたことがない。ならばここは一体どこなのか。私には一つだけ心当たりがあった。


 人間界――我々魔族とは異なる、“人間”という種族が暮らす異世界。噂には聞いていたが、本当に実在するなんて思わなかった。先程の地面に叩きつけられた痛みがなければ、これは夢だと思い込んだかもしれない。


「ニンゲン、か。ワタシたち“マゾク”とちがってすごくよわっちいシュゾクで、たしかカンタンにココロにはいりこんであやつれるってきいたぞ」


 実際に人間界に降り立つまでは与太話だと思っていた。だが実際に異世界としか思えない光景を目の当たりにすると噂が現実味を帯びてくる。“人間”という存在もきっと噂通りのものなのだろう。当時の私はそう思った。――思っていた。


「あ、あなたは……? ここでなにをしているの……?」


 不意に声をかけられ、正直跳び上がりそうなほど驚いた。しかし私は将来魔王になる者。毅然とした態度で応じなければならない。


「な、なんだオマエ!? きゅうにこえをかけるなよ! ビックリするじゃないか!」


 ……今思えばあまり毅然とした態度ではなかったかもしれない。だが悲鳴を上げなかっただけ良しとしよう。当時はまだまだ幼子だったのだから。


 この後私は、声をかけてきた人間の少女“まお”と奇妙な出会いを果たした。

 取り憑いても操ることができない。それどころか温かさや優しさに包まれ、心が穏やかになっていく感覚さえ覚えた。魔界で生きる中では一度も感じたことのない感覚。そんな感覚に満たされた。

 

 今思えば、操られていたのはむしろ私の方だったのかも。……というのはさすがに考えすぎか。


 彼女の温かさや優しさに触れ、穏やかになっていった私の心。その心が私に決意をさせた。

 いつの日か魔王となり、魔界を争いのない平和な世界にすること。そして人間界と良好な関係を築くための架け橋になることを。


 そう決意した私はこの100年、尽力してきた。魔界の者たちに、反旗を(ひるがえ)される時までは。




「くっ……!」


 宛もなく走り続けたが、ついに私は追い詰められた。かつて同じ理想を掲げていたはずの者たちに取り囲まれている。


「魔界で戦争を禁じる? 人間界とも友好的な関係を築く? そんなこと、到底受け入れられるわけがない」

「まあ魔族同士仲良くってところまではまだ理解できるがよぉ、人間と仲良くってのは無理だよなぁ。人間界を侵略するって話なら乗ったんだけどよ」


 これが私以外の魔族たちの本音……か。やはり私の理想はただの絵空事なのか? 現実を知らない若者の戯言なのか?


 ――いいや、違う。あの時感じた温かさや優しさ。あれは素晴らしく、尊いもの。魔族だってそんな心を持っていいはずだ。


「そういや“サタナス”様からもらったこいつを、まだ使っていなかったな」

「さ、サタナスだと……!? まさか、お前たちは……!」


 サタナス。私の理想に最も共感してくれていた魔族。同志というやつだ。そのサタナスが、私の追っ手に何かを与えたらしい。それはつまり――サタナスの裏切りを意味していた。


「サタナスが……私を裏切った……?」


 その言葉を口にするだけでも、胸が締めつけられるような痛みが走った。

 信じていたのだ、他の誰よりも。彼だけは絶対に味方だと、同じ理想を共有していると、そう信じていた。


「ショックか? けどなぁ……サタナス様は最初から、そんな気なんてなかったみたいだぜ?」

「そん……な……」


 心が折れそうだった。信じていた同志の裏切り。理想を叶えるのが困難なこの状況。何もかもが私を阻んで……いや、拒んでいるようだった。


「じゃあな、裏切り者(・・・・)のルシフェリアさんよ!」


 追っ手の一体がサタナスから与えられたという力を解放すると、時空が歪み、あの時のように空間に穴が空いた。

 穴は凄まじい勢いで辺りのものを吸い込み始める。私の身体も例外ではない。サタナスに裏切られた衝撃が私の身体から力を奪っており、私は抵抗することなく穴へと吸い込まれていく。


(すまない、まお。魔界を平和にして、胸を張ってお前に会いに行きたかったのだが……どうやらそれは叶いそうにない)


 あの日出会った人間の少女との約束。私には守ることができなかった。


(いや……そもそもあれからもう100年も経つ。どの道まおはもう……)


 人間の寿命は我々魔族よりずっと短いと聞く。だから私の理想が成し遂げられたとしても、いの一番に報告したい彼女は恐らくもう亡くなっている。今までそのことは考えないようにしていたのだが、心が折れたことでネガティブなことも考えるようになってしまったのかもしれない。


 何もかもが無駄だった。そんな想いに支配された私は、抗うのをやめ、異世界へと通ずる穴へと吸い込まれていった――

お読みいただきありがとうございました。

続く第3話も投稿しております。よろしければお読みください。

※第11話までは毎日更新予定、その後は週2回更新を予定しております。

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