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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第2章

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第016話 ヒロインたちのバスタイム

 病院から帰り、食事を終えた私はお祖母ちゃんの言いつけ通りゆっくり休むことに。


 歯磨きを終え、この後はお風呂。昨夜は身体を拭くことしかできなかったから、今日はゆっくり湯船に浸かって心身ともにリフレッシュしたいところ。


『初日は気にする余裕がなかったが、これが人間の湯浴(ゆあ)みか。魔族とそう変わらんのだな』


 魔界にもお風呂の文化はあるみたい。別に魔族に対して不潔なイメージがあるわけじゃないけど、ちょっと意外かも。


『魔界にもお風呂ってあるんですね』

『まあな。だが嫌いな者も多くてな。中には年単位で湯浴みせん奴もいて……』

『ね、年単位!?』


 衝撃だった。人間でもお風呂が嫌いな人はいるけど、年単位でシャワーすら浴びない人は少ない……と思う。


『あまりにも不潔で頭に来たのでな。力尽くで熱湯風呂に沈めてやったぞ』

『それはそれで問題がありそうなんですけど!?』


 魔族だから大丈夫なのかもしれないけど、人間基準で考えると中々にバイオレンスに感じる。


『ところで舞桜、お前だけ湯浴みをするのはズルいぞ。私にもさせろ!』

『だ、駄目ですよ! 感覚共有で我慢してください!』

『それだと湯の温もりは感じられても、私の身体は綺麗にならないだろうが!!』


 ルーシーさんが私の外に出て騒げば、お祖母ちゃんが様子を見に来てルーシーさんの存在がバレてしまうかもしれない。それは避けなきゃいけないのに。


『煩い! 裸の付き合いというやつだ!』

『それ、精神的な意味で裸になるということであって、本当に裸にはならないですからね!?』


 なんとかしてルーシーさんの実体化を阻止しようと試みたけど駄目だった。ルーシーさんが目の前に姿を現す。あられもない姿で。


「わーっ! ルーシーさん、前! 前! ちゃんと隠してください!」

「別に良いだろう、女同士なんだし。それにお前も全裸だろうが」

「そ、それはそうですけど……!」


 私はタオルと腕で隠しているのに対し、ルーシーさんは堂々としている。しかもドヤ顔で仁王立ち。全裸なのに。

 改めて見ても彼女のスタイルはすごくいい。同性の私でも目のやり場に困ってしまうほどに。誇らしげにドヤ顔を決めていても許されるかもしれない。


 しかし、そんな身体には無数の擦り傷や切り傷がある。この傷が魔族たちの攻撃の激しさを物語って……


 ……あれ? 思ったより軽傷に見えるような……


「ルーシーさん、ケガが治るの随分早くないですか?」

「ん? まあな。これもお前の霊力のおかげだろう。傷はまだ残っているが、痛みはもうほとんど感じないぞ」


 あんなに血を流していたし、酷い火傷も負っていたのに、もうお風呂に入れるほど回復しているなんて。魔族の身体は本当に不思議だ。


「本当に感謝しているぞ、舞桜。ありがとな」

「い、いえ、どういたしまして。だけど、その……面と向かってお礼を言われると恥ずかしいですね……。それに今、私たち……は、裸ですし……」


 もうどちらが原因で恥ずかしいのかもわからなくなりそうだった。


「と、とりあえずルーシーさんが先に入ってください。私は待っているので」

「ん? 別に一緒に入ればいいだろう。十分広いぞ」

「で、でも、一緒にお風呂なんて恥ずかしいですし……」


 温泉ならまだわかるけど、一般家庭のお風呂に二人一緒に入るのはちょっと恥ずかしい。


「女同士なんだから恥ずかしがる必要などないと言っただろう。それに、別々に入ったらかなりの時間がかかるぞ? そうなるとお前の祖母が心配し、様子を見に来るのではないか?」

「うっ……。た、確かにそうですね……」

「ということで一緒に入るぞ!」

「う、うぅ…………」


 強引に押し切られ、結局ルーシーさんと一緒にお風呂に入ることになってしまった。




「この白い()れ物は何だ? 何が入っている?」

「これはボディソープですね。身体を洗う時に使うものです。あとこっちはシャンプーとリンスと……」


 浴室にあるものを一通り説明していく。その度にルーシーさんは相槌を打ったり、感嘆の声を上げたりしている。


「魔界にはないんですか?」

「似たようなものならあるぞ。匂いはともかく、見た目はこんなに良くないがな」


 一体どんなものを使って身体を洗っているというのか。少し興味があるような、やっぱり怖いから知りたくないような……


「とりあえずこいつで身体を洗っ……ぐ、ぐぉぉぉ……!!」

「る、ルーシーさん!? どうしたんですか!? もしかして魔族の肌には合わないとか……」


 有り得ない話じゃないと思う。魔族と人間は全く別の存在。人間には無害でも魔族には有害な可能性もある。


「き、傷口に……し、()みる……!!」

「あっ、なるほど……。もう、あまりビックリさせないでくださいよぉ……」


 人間と似たような反応をする辺り、どうやら魔族も人間と同じボディソープやシャンプーを使っても問題ないみたい。


「うぅ……。お、おのれ人間め、魔族に対し、こんな手を用意していたとは……!」

「いやいや、これ対魔族用じゃないですから! 人間もケガをしていたら滲みますし……」

「そ、それもそうか……」


 少し涙目になりながら拳を握っていた彼女をなんとか宥め、拳を引っ込めさせる。


「だがどちらにせよ、この苦痛に耐えねば身体を清潔にすることはできな……ぐぁぁぁッッッ!!」

「もう! いちいち叫ばないでください!!」


 先ほど、お祖母ちゃんが心配して様子を見に来ると言っていたのは何だったのか。思わずそうツッコミたくなってしまう。


「舞桜ー、何かあったのかい?」


 脱衣所の方からお祖母ちゃんの声が。どうやら騒ぎすぎて、本当に心配して様子を見に来てしまったみたい。


「だ、大丈夫! 傷口にボディソープが滲みて声を出しちゃっただけだから!」

「そ、そうかい? それならいいけど、あまり長湯して逆上せるんじゃないよ」

「う、うん! 心配してくれてありがとうお祖母ちゃん」


 お祖母ちゃんの気配が去ったのを確認し、ルーシーさんと話す。今度はお祖母ちゃんに聞こえないよう、できる限り小声で。


(ルーシーさん! 本当に静かにしてください!)

(す、すまんつい……。だがお前の声もだいぶ大きかったぞ)

(し、仕方がないじゃないですか! ルーシーさんがひたすらツッコミたくなるようなことをするんですから……)


 その後もルーシーさんは痛みに悶え、声を上げようとしていたけど、それを必死に阻止し、なんとか身体を洗い終えた。


「ハァ……ハァ……。なんとか耐えきったぞ……」

「残念ながらまだ髪が残っていますよ」

「うぐっ……。そ、そうだったな……」


 そう。身体を洗うだけで一苦労だったんだ。この後の洗髪も大変に違いない。


「ところでルーシーさんってすごく髪が長いですよね。お手入れ、大変なんじゃないですか?」

「まあな。だが、こちらの方が魔王としての威厳があるだろう?」

「うーん、そういうものですかねぇ……?」


 私は肩より下まで伸ばしたことがないのであまりピンとこない。だけど、確かにロングヘアーが風に(なび)く姿には優雅さがあるかもしれない。そういう優雅さが魔王には必要なのかな?


「そうだ。大変そうなので私が洗いましょうか?」

「…………」


 何気なく発した提案。だけどルーシーさんは黙り込んでしまった。もしかして気軽に髪の毛を触られるのは嫌だったのかな……


 後ろからじゃルーシーさんの表情がわからない。もしかしたらルーシーさんを不快にさせてしまったかも。そう思い、すぐに謝った。だけど、ルーシーさんから返ってきたのは思わぬ言葉だった。


「……いや、よろしく頼むよ舞桜」

「いいんですか? 気軽に髪を触られるのは嫌とかだったら私は全然……」

「違うんだ。少し思い出してしまってな……」


 そう言うとルーシーさんは語り始めた。


「以前は配下の中に手入れをしてくれる者がいたんだ。だがそいつは……今敵対している魔族たちから私を逃がすために…………」


 ルーシーさんが信頼し、傍に置いていた人。そして文字通り命懸けでルーシーさんを逃がしてくれた人。そんな大切な人が担っていた役割を私なんかが軽々しく務めようなんて、ルーシーさんからしたら不快だったかもしれない。


「……大切な人だったんですね。ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですけど、私なんかがその人の代わりを務めようだなんて……」

「気にするな。大切な存在だというのは否定はせんが……。どうせあいつのことだ。しぶとく生き残っているだろうしな」

「え……?」


 ごめんなさい! 話のトーン的にてっきり亡くなっているものだと勝手に思い込んでいました!


「そういうわけだからお前が気に病む必要は全くないぞ。それよりも髪、洗ってくれるのだろう? よろしく頼む」

「な、なんだか釈然としないような……。まあ生きているみたいなら良かったですけど……」


 少し不服だったけど、自分から言い出した以上ちゃんとやらないとね。

 ポンプを3回ほどプッシュしてシャンプーを手に取り、泡立てていく。そしてルーシーさんの髪の毛全体に馴染ませ、優しく、撫でるように洗っていく。


「ほう。中々上手いではないか」

「そうですか? 実は昔、トモちゃんにレクチャーされたことがあって……」


 以前、適当に濡らして、適当にシャンプーをつけて、適当にゴシゴシして、適当に洗い流しているという話をトモちゃんにしたら怒られちゃって。そしてそのまま髪の洗い方をレクチャーされたんだよね。オシャレはわからなくても、こういう普段からできる努力はしなさい、って。


「良い友なのだな」

「……はい。そうですね……」


 自分からトモちゃんの名前を出したのに、私たちの関係を「親友」とか「良い友達」と言われると胸がチクリと痛む。全ては嘘をつき、隠し事をして、心配をかけてしまっている私自身のせいだけど。


「そ、それじゃあ、そろそろ洗い流しますね!」


 強引に話を逸らし、ルーシーさんの髪を洗い流していく。その後はコンディショナーを馴染ませ、また洗い流す。


 身体と髪を洗い終えたルーシーさんが一足先に湯船に浸かる。


「ふぅ……。人間界の湯浴みも良いものだな。この木の匂いも心が落ち着く……」


 ルーシーさんは本当に気持ち良さそうな表情をしている。すごくリラックスしているのが伝わってくる。


「木の匂い? ああ、これは檜の香りですね」


 うちのお風呂はたぶん一般家庭では珍しい檜風呂。これは我が家のちょっとした自慢だったりする。


 私も身体と髪を洗い終え、湯船に浸かろうとしたところで気付く。ルーシーさんと一緒に浸かるのか、と。


 別にルーシーさんが嫌なわけじゃない。浴槽の大きさ的にも二人で入っても全然問題はない。ただ誰かと一緒に浸かるのがやっぱり恥ずかしい。それだけだけど、私にとっては割と重要だ。


「え、えっと、ルーシーさんはあとどれくらいで上がります……?」

「ゆっくり入浴するのは久々だからな。できればもう少し浸かっていたいが……。どうしたのだ?」

「い、いえ……。やっぱり一緒に入るのはなんだか恥ずかしくて……」

「まだそんなことを言ってるのか。いいからお前も入れ!」


 ――バシャーンッ!


 腕を掴まれ、強引に湯船に引き摺り込まれてしまった。


「もう! 強引すぎますって!」

「すまんすまん。だがどうだ、気持ちいいだろう?」


 確かに気持ちいい。なんならいつもより気持ちいいくらい。昨夜は病院に泊まりで入浴できなかったから余計にそう感じるのかもしれない。


「それは……まあ……そうですね……」

「まったく、素直じゃない奴め」


 修学旅行でさえ、こんなに賑やかなお風呂タイムには中々ならない。それくらい賑やかなひと時を過ごす私たち。


 私たちが人間と魔族で、今人間界に魔族たちの魔の手が忍び寄っているなんて嘘――そう感じるほど、平和な時間が流れていた。


 だけど、魔族たちの闇は少しずつ、確実に迫っている。私たちはその事実を思い知らされることになるんだ――

お読みいただきありがとうございました。

次回、第17話は3/19(木)投稿予定です。よろしければまたお読みください。

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