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正義のヒロインは魔王様!?〜巫女見習いと元魔王が紡ぐ絆物語  作者: 石島マコト
第2章

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第014話 動き出す人間たち

『……舞桜』


 声が聞こえる。


 とても懐かしい声。


 低いけど、優しい声だ。


『舞桜』


 また声が聞こえた。


 この声も懐かしい。


 今度の声は柔らかく、優しい声だ。


「お父さん……お母さん……?」


『舞桜、よく聞くんだ。世界に……人間界に危機が迫っている』


 人間界に危機? お父さんは一体何を言っているの……?


『ルシ……リア……、ルー……シー…………を…………信…………』


 あれ? なんだか急に声が遠くなって…………


 ま、待ってよお父さん! お母さん! 人間界の危機って…………!




『…………おい、おい! 起きろ舞桜!』


 先ほどまで両親の声が聞こえていたはずなのに、気付けば声の主は変わっていた。


「あ、あれ……? ルーシー……さん……?」


 目を開けたけど、そこに両親の姿はなかった。あったのは見慣れない白い天井。そして聞こえる声は両親ではなく、あの(元)魔王様。


『気が付いたか。まったく、この私に心配をかけるとは良い度胸だ』

「ご、ごめんなさい…………」


 ぼんやりとした意識のまま謝ると、ルーシーさんの方がなんだか申し訳なさそうな声色になった。


『む……。そんなに悲しそうな顔をするな。別に怒っているわけではないのだから』

「そ、そうなんですか?」

『うむ。それに私のせいでもあるしな……』


 ルーシーさんのせい? そもそも私って一体どうなったんだろう? ひょっとしてルーシーさんは全部知っているのかな……


「あの、一体何がどうなって今ここにいるのか、イマイチわかっていないんですけど……」

『ふむ。どこから説明すべきか……。なぁ舞桜、お前はどこまで覚えている?』


 どこまで覚えている……か。朝、いつもなら目覚まし時計が鳴る前に起きられるのに、今日は起きられなかった。その後、遅刻しないように学校までダッシュしたけど身体が重く、すぐに息が上がってしまっていた。


 学校に着いてからも身体が怠く、授業中も頭が働かなかった。苦手な数学だったからいつもと大差ないと言われてしまいそうだけど……


 その後は体育でバスケ。確かトモちゃんのプレーを観ていたらなぜかトモちゃんが分身しているように見えて……


 ……あれ? その後はどうしたんだっけ? ここから先の記憶がないかもしれない。


『……そうか。ならばその先は私が教えてやろう』


 そう言うとルーシーさんは私の身に何か起きたのか説明してくれた。


 トモちゃんのプレーを観た後、今度は私の番に。コートに入って試合をしていたけど思うように動けず、味方のパスを顔面で受けてしまった。

 そのまま倒れ込み、動かなくなった私。そして心配した先生とトモちゃんが保健室へ駆け込んだ。


 保健室の先生は即座に救急車を呼び、私は病院に運び込まれ、点滴などの処置を受けて今に至る……とのこと。つまりこの見慣れない白い天井は病室のものだ。


「そ、そうだったんですね。……あれ? でもルーシーさん、私が気絶していたのに外のことがわかるんですね?」

『ああ。お前が認識できていないだけで身体には情報が伝わって来ているからな』


 ソウルダイブって本当に便利! どうやら刺激として私の身体に届いていればOK、ということらしい。


『それよりも……確か友華と言ったか? あいつは特に心配していたようだぞ』

「トモちゃんが……」


 トモちゃんの名前を聞く度に、そして彼女が心配してくれていると知る度に、胸の奥がズキズキと痛む。

 こんな私を心配してくれている彼女に隠し事をしている。その後ろめたさが私の胸をキュッと締めつける。


「今度ちゃんとお礼を言わないと、ですよね……」

『うむ。そうするが良い』


 秘密を打ち明けることはできない。だけど心配してくれたお礼はきちんと伝えたい。それが今の、私の本心だ。


 ――ガラッ。


 ルーシーさんと話していると、病室の扉が開くような音が。すぐに音がした方へ視線を向けたけど、私の視線は白いカーテンによって遮られた。どうやら個室ではなく相部屋みたい。


 足音がゆっくりと近づき、私のベッドの前で止まった。そして静かにカーテンが開かれる。

 カーテンが開かれ、私の視界に入ってきたのはよく知る顔だった。


「舞桜! 目が覚めたんだね」

「お祖母ちゃん……」


 私が病院に運ばれたと聞き、駆けつけてくれたのかな?


「今先生と話してきたんだけどね、だいぶ疲れが溜まっていたんじゃないかって」

「そ、そう……」

「舞桜は頑張り屋さんだからねぇ……。だけど、無理をして皆に心配をかけてはいけないよ?」

「はい……」


 お祖母ちゃんの声は優しい。だからこそ胸に刺さる。


 ……そうだ。トモちゃんだけじゃない。お祖母ちゃんたちにも心配をかけてしまっているんだ……


 また胸が苦しくなり、思わず胸を押さえてしまう。


「どうしたんだい? もしかして胸が痛むのかい?」

「えっ!? あっ、これは大丈夫だよ! 心配しないで!」


 胸を押さえたせいでますます心配させてしまったみたい。これ以上心配をかけるのは辛い。だから私は話を逸らすことにした。


「そ、そうだお祖母ちゃん。こういう時って目が覚めたら看護師さんとか呼んだ方がいいんじゃない?」

「おっと、そうだったねぇ。先生にも知らせないといけないしねぇ」


 先生や看護師さんを呼ぶため、ナースコールを押す。何気に初めてのことなのでちょっとだけ手が震えた。本当にちょっとだけね。


 その後、やって来た先生たちから症状の説明を受け、頭を打っているかもしれないとのことで念のため一晩だけ入院することに。

 私は大丈夫だと伝えたんだけど、「頭は怖いから」と先生やお祖母ちゃんに押し切られてしまった。


 自分で言うのもなんだけど、私はあまり成績が良い方じゃない。できれば明日には普通に学校に行きたかった。

 でも、残念ながらそれは許されないみたい。勉強が遅れてしまうのは正直困るけど、無理をしてまた倒れたら余計にみんなを心配させちゃう。だから仕方がないよね……


 そう自分に言い聞かせ、大人しく入院することに。




『病院食とやらはお前の祖母が作ってくれた朝食と比べると少々物足りないな』


 一晩入院することになった私の夕飯はいわゆる病院食だった。私と感覚を共有し、病院食を味わったルーシーさんの感想が脳内に響く。


『お腹や心を満たすためのものじゃないですからね。栄養のバランスや消化しやすいものが中心だと聞きます』

『なるほどな。見た目や味は質素だが、きちんと理由があるわけか』


 ルーシーさんの言う通り、見た目はちょっと地味だし、塩味も薄め。病院食は不味いと聞いていたけど、その理由に納得。

 だけど私自身はそこまで気にならなかった。濃い目の味付けより繊細な味付けの方が好みだし、脂っこいものも苦手。これくらい質素な方が口に合うのかもしれない。


『ところで舞桜、婆さんが帰る前に何か置いていったようだが……』

『えーっと、これはテレビカードですね。病院でテレビを観る時はこれを使わないといけないんです。まあお金の代わりですね』

『そんな物もあるのか。人間界のシステムは複雑なのだな……』


 魔界のシステムはもっとシンプルなのかな? そもそもテレビみたいなものはなさそうだけど……


『では早速、そのテレビカードとやらを使ってみようではないか』

『えっ? もしかしてテレビ、観たいんですか?』

『うむ。人間界の文明には興味があるからな』


 私たちにとってテレビはあって当たり前の物。だから文明というとちょっと大袈裟に感じてしまう。でも……そうだよね。魔族のルーシーさんにとっては異世界の文明なんだよね。


 テレビを点けると夕方のニュースがやっていた。アナウンサーの声が耳に届く。


『――それでは現場の法堂(ほうどう)さん、お願いします』


 どうやら生中継のようだ。スタジオからどこかの現場にいるリポーターにバトンが渡される。


『法堂です。私は今、“美多摩市(みたまし)”にある白峰神社にやって来ています』


 ……え? 今、白峰神社って言った……?


 うちの神社には長い歴史がある。だから毎年、年末年始や受験シーズンにローカルのテレビ局が取材に訪れる。年によっては桜や梅の花が咲く頃にも。だけど今はそんな季節じゃない。もうすぐ梅雨入りという時期だ。


 それなのに今、取材が来ている。ならば考えられる理由は一つ。――そう。昨日の魔族の一件しかない。もちろん、魔族の話までは出てこないとは思うけどね……


『昨日の夕方頃、霊山に黒い雷が落ちたんですよ。そしたら神社にも物凄い衝撃波が来て、あちこちで窓ガラスが割れて! もう、とにかく大変だったんです!』


 うちの神社で働いてくれている神主の一人がインタビューに答えていた。霊山に落ちた黒い雷に、神社を襲った衝撃波。実際に私も体験した出来事が語られている。


『雷の落ちた山は地元では白峰霊山とも呼ばれており、昔から超常現象と思われる事象が度々観測されていた、との情報もあります。番組では引き続き取材を――』


 番組ではうちの神社だけでなく、白峰霊山も取り上げられていた。実際に雷が落ちた場所。当然のことだろう。


 映像には警察や自衛隊、それに白衣を来た人たちが霊山へ向かう姿が映されている。白衣の人たちは医者というよりは何かの学者みたいだった。


 だけど、私が気になったのはその人たちじゃない。彼らの中に、明らかに浮いた格好の人物が紛れていた。


「え……?」


 目を疑った。大人たちに囲まれながら歩く一人の少女の姿。濃紺のブレザーに青いチェック柄のミニスカート――私と同じ、神楽女学院の制服。


 腰の辺りまで伸びる青いストレートヘアーが風に(なび)く。その優美な姿は示す。彼女がただの同じ学校の生徒じゃない、ということを。


「か、神代(かみしろ)先輩……?」

『……?』


 大人たちに紛れていた少女・“神代(かみしろ)優咲(ゆうさ)”。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群。それでいて人当たりも良い。どこをとっても隙がなく、完璧超人と評されている、神楽女学院の生徒会長。


 そして――私の憧れの先輩だ。


 どうして神代先輩が大人たちと一緒に霊山へ向かっているのかはわからない。

 だけど、憧れの先輩の思わぬ登場に、私の胸は不安感でざわついていた――

お読みいただきありがとうございました。

続く第15話も投稿しております。よろしければお読みください。

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― 新着の感想 ―
とても読みやすくて、面白かったです! 舞桜とルシフェリアの描き方が丁寧で、二人の絆が少しずつ育まれていく様子が印象的で良かったです。 ソウルダイブやデビライズといった魔族的な能力も魅力的に感じました。…
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