砂の下には死体が埋まっているとかなんとか。その2
結局気まま投稿になってしまっていますが、気が向いたときに読んでいただければ幸いです。
「もう一回埋めよう。」
「そんな人でなしなことある…………?」
スコップを荷台から待って戻ってきたナジャはルイスに向かってそう言った。
「流石に俺でもしねーぞんなこと。」
「あの、水を…………」
「だってよぉ、死体を埋めようと思ってたら生き返ってましたって、そんなのもう一回殺して埋めるしかないだろ。人間だろうが化け物だろうが俺らの手にゃ余る。スィールだってこんなもの見たら今度こそ本当に天国に旅立っちまう。それともお前が面倒みるのか?」
「それは…………」
(確かに手当てしたところでどうすんだとは思うけど…………)
ゾラはもう一度埋まっているルイスの方を見る。
ルイスは生きてこそいるが顔は痩せこけ、唇は割れている。
「…………」
「水…………」
「…俺が面倒みるよ。だから連れて行こう、ナジャ。」
「……そーかい。言っとくけど俺は団長が見えたら逃げるからな。」
ナジャは手に持っていた酒瓶をゆらゆらと揺らし、荷台に戻っていった。
「うん、ありがとう。」
「あの、水は……………………?」
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ガタン ガタン
「ぷはぁ!!ありがとう!!死ぬかと思った!!」
ルイスは水筒に入った水を一気に飲み干すと、満面の笑みをゾラに向けた。
「それは化け物ジョークかなんかか?」
ゾラは呆れた顔で蛇車の蛇を叩く。
慣れというものは恐ろしいもので、ルイスと出会ったから数分しかたっていないのに出会った当初の恐怖はすっかり消え、普通に話せるくらいにはなっていた。それどころかどこかホッとするような安心感すら覚えている。
(水を飲んだだけで肌が潤ってきているし、コイツが化け物なのは間違いないはずなんだが。
なんなんだろうな、警戒心が削がれる。)
「こんな御者の席に居なくても、荷台でのんびりしていればいいのによ。揺れるし酔うし楽しくないだろこんなとこ。」
「いやそんなことないよ。俺にとっては珍しいものばっかりだ。流石に砂はもう見飽きたけど、はは。」
「はは、だろうな。本当に何で生きてんだお前。結局水と食料与えたら元気になってるし。」
「………………」
ピタリとルイスの動きが止まる。
「………………え?そこで何も言わねーの?」
ゾラが前に注意しながらルイスを見ると、ルイスの後頭部しか見えなかった。
「おい、」
「いや違うんだ。やましいことはない、断じて。」
ルイスは顔を明後日の方に向けながら早口でそう言った。
「なんだそりゃ。まぁ、言いたくねーなら聞かねーけど。」
なんてことない様な顔をしてゾラはそう言った。
ルイスは明後日に向けていた顔をゾラに向けた。
「………………僕が言うのもなんだけど、いいんだ?」
「お前がしゃべったところで別に信用しないしな。どっちでもいい。」
「そっかぁ、」
ルイスはあからさまにしょんぼりとした。
(まぁどうせ直ぐに洗いざらい喋ることになるしな。)
ゾラはこの先のことを思い、小さくため息をついた。
「俺、生きてっかなぁ……………」
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「何とか時間には間に合ったな。」
街の入り口である大きな門を抜けると、巨大なオアシスを中心に何百、何千という数の出店が立ち並んでいた。町全体が宝石で彩られており、太陽の光を受けキラキラと輝いている。
あまりの非現実すぎる光景にルイスが呆けていると、ゾラはハハ、と笑った。
「お上りの坊ちゃんかおめーは。」
「あ、あぁ、うん。恥ずかしい話、この年になるまで外に出たことが無くて。
師匠が旅に出ろって言った意味が分かったよ。ここは、なんていうかその、凄いね。」
「……『黄金都市』の話を知ってるか?」
「あぁ。たしか遥か東の島国に黄金が山のように取れる全てが黄金で出来ている都市があるっていうおとぎ話だよね。」
「そう。ここオニキスは別名『宝石都市』っていうんだ。
『黄金都市はないが宝石都市はオニキスに。』ってのが売り文句。
その名前の通り宝石が名産で、ここ以外では一切取れない。
煌びやかな宝石を求めて人が集まり、物が集まり、出来上がったのがこの巨大都市オニキスだ。」
ルイスは改めて都市全体をぐるりと見渡す。
四方八方から聞こえる止まない喧騒に、多種多様な人種が行き交っている。
意識していないとすぐ飲み込まれてしまいそうな雰囲気にブンブンと首を振った。
「さて、田舎の坊ちゃんに案内してやりてぇのは山々だが、まず本店に行かないとな。」
ゾラは荷車を牽いている大蛇を人撫でし、先導するように蛇の前を歩いて行った。
ルイスも慌てて後に付いていく。
「本店って、君たちの商団の?」
「あぁ、そうだ。」
「本店ってどこにあるの?」
「驚け、うちの本店はとんでもなく見つけやすい。」
そう言ってゾラは不敵な笑みを浮かべ、最奥の、オニキスで最も背の高い建物を指差した。
「………………っえ、あの城!?」
ゾラが指を指したのはもはや店、というには烏滸がましさすら感じられるほどの立派な城であった。
黒を基調とした装丁に、輝く宝石が星のように飾られている。
一等目を引くのは何といっても入り口の人の顔程もある大きなオニキスのレリーフだった。
真っ黒な大蛇が彫られており、目の部分にはラピスラズリが埋め込まれている。入り口の飾りとしては些か迫力がありすぎる気もするが、貧乏人避けにはいいのかもしれない。
全体的に趣味の悪そうな建物にしかならなさそうなチョイスなのに、不思議と上品にまとまっているのは腕の良い職人のなせる業なのだろう。
「…………こんな城が本店って、もしかしてゾラの所属してる商団ってとんでもなく有名だったりする?」
「とんでもなく?馬鹿言え。『夜明けの星』商団はオニキスで一番の商団だ。
資産も、商品も、地位も、名声もな。」
そういってゾラは自慢げに笑った。