砂の下には死体が埋まっている
気ままに更新していくつもりです。
全てフィクションと思って細かいところは見逃してください。
人生は理不尽だ。
綺麗でもないし、ましてや素晴らしいと思ったことはない。
汚泥の中四つん這いでどれだけ泥をすすりながら居られるかみたいなもんだ。
だから常に口の中は不味い泥の味がする。その口でまた泥を啜るために嘘をつく。
それなのに、いつまで経っても汚泥の中から立ち上がれないのはなんでだろう。
俺達はいつだって立ち上がらないために必死に膝をついている。
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オニキスの砂漠を一つの蛇車が走る。
御者の少年ゾラは鼻歌を歌いながら蛇に鞭を打っていた。
「ゾラ!!機嫌がいいのはいいことだが、気ぃー抜くなよ!!
今運んでんのはただの荷物じゃねぇんだからな!!」
「分かってますって!!今までで一番慎重に運んでますよ。」
ガゴンッッ
「…………オイ。」
先頭の荷車から金髪の男が顔を出した。
御者の少年は顔色が段々と紫へと変わっていき、冷や汗を大量に流している。
「今までで一番、何だって………?」
「すんません!!すぐにぶつかったものを確認してきます!!」
「早くしろ!!!!!!!!!」
ゾラは急いで蛇車を降り、先頭に向かった。
「はぁ……………………………。」
「随分大きなため息だなぁ、スィール。」
後方の荷車からふらふらと酒瓶を持った紫髪の男が歩いてくる。
酒瓶を揺らしながら、真っ赤に染まった顔で男はケラケラと笑った。
「………ナジャ。お前は仕事の時ぐらい酒を控えろ。というかそれどこの酒だ。まさかお前また荷台からから、」
「まぁまぁ、今は俺のことはいいから。
それで?何があったんだ。随分と大きい衝撃だったが。『蟻地獄』が出たってわけでもなさそうだが。」
「なんでも何も、このクソ忙しい時期にゾラがやらかしたんだよ…!!
今運んでんのは大バザール用の商品だぞ!!
なんて団長に説明したものか…。はぁ。というかそもそも説明するまで生きていられるのか俺……………………………」
スィールは頭を抱えてブツブツと呪いのように言葉を唱えている。
「おいおい、マジか。こりゃ、全員の首が危ないな。二つの意味で。ガハハハッ」
「笑ってる場合か!!お前は後方の荷台を確認してこい!!」
「へいへい、下っ端はおとなしく従いますよッと。」
「ギャアあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
突如、砂漠に少年の叫び声が響き渡る。
スィールとナジャは顔を見合わせ、荷台の先頭へと走り出した。
「ゾラ、無事か!!!!!!!」
「あ、スィール!!うわ、ナジャ。お前も来たのか。」
ゾラは心底嫌そうな顔をしてナジャを見る。
「随分な嫌われようだなぁ、オイ~。お前の事を心配して柄にもなく走った酔っ払いに感謝の言葉とかないのか?あまりにショックで吐きそうだぜ。」
ナジャは悲しそうに首を横に振る。
その拍子にコルクの抜かれた酒瓶から、チャポチャポと酒が零れ落ちる。
「頼んでないし、何で酔ってんだよ。吐きそうなのどう考えても酒のせいだろ。オイ何で顔が紫になってきてんだ。おい、ちょっと、近寄ってくんな、」
「もうその酔っ払いのことはいい。何があったんだ。」
「あぁ、そうだった。見てくださいよ、コレ。」
ゾラはナジャを投げ捨て、荷車を引いている砂蛇の足元を指さした。
そこには缶詰大の赤い水たまりが広がっていた。
「何だこれは。狐でも轢き殺したのか?」
スィールは首を傾げた。
言っていてなんだが、狐でないことは何となく分かる。
狐にしては衝撃が大きかったし、この血溜まりは今も広がっている。
凄く嫌な予感がする。スィールはそう思った。
「ホントに分かんないのかよ?スィール。これ、人の首だぜ。」
「ハァ!!!!!!!!!??????????????何だって??????????」
「だから、人の首。俺ら砂に埋まった人間を轢き殺しちまったんだ。」
「成程、成程。人の首……か。……………………………フッ……………………………パタッ。」
「あ、倒れた。」
ナジャは後方から頭を抱えながらのそりのそりと歩いてきた。
「いたた…俺一応お前の上司なんだけど…。」
「上司は仕事中に酒飲まねぇからな。」
ナジャは、はは、と笑った後再度酒をあおった。
そして足元の死体を一瞥した。
「うわなにこれ気持ち悪。人の首?どうすんの?これ。」
「どうすっかなぁ。なんとかしてくれよ上司様よお。」
「都合のいい時だけ上司扱いしねぇでくれるかなぁ……
うーん…………………………………………………………やっぱ、揉み消す?」
「揉み消すって…それができるなら苦労しない。」
ゾラは死体をちらりと見る。
首にばかり目が行きがちだが、よく見ると首の下は中々上等な服を着ている。
肌の色も砂漠で見かける黒い肌ではなく、黄色みがかった白い肌だ。
揉み消すのは不可能ではないがかなり難しいだろう。それに、隠滅可能な者に頼んだ時点で物理的に首が飛ぶのでどちらにしろこの状況は詰んでいる。
「オイ。なんかこの死体変じゃねぇか?」
ゾラは首をかしげる。
ナジャはそんなゾラの様子を見て、血溜まりに残っていた酒をかけた。
そうして酒で血溜まりを洗い流すと、首の切断面が綺麗に現れた。
「ほらな、なーんかおかしいとは思ったんだよ。」
「何が。より気持ち悪さが増しただけのように思うんだけど。」
「血が止まってるんだよ。ほかの箇所ならともかく、首だぜ、首。いくらなんでも早すぎんだろ。」
ナジャはそう言って自身の首をトントン、と指差した。
ゾラは息をのむ。
確かに死体は綺麗な切断面を保ったままだ。血の一滴も出ていない。
「しかもこれ、なんか再生してきてないか?」
「マジかよ。」
ゾラはナジャに言われるがままに砂を覗き込んだ。
確かに、先ほどまで砂に覆いかぶさっていた首の断面が、今では砂の上に飛び出していた。
血を出さないまま、首が、伸びているのだ。
「そんなことあるか?」
「さあな。少なくとも、ニンゲンには、ねぇな。」
「つまり、化け物ってことだよな。じゃあ埋めても問題なくないか?」
「…名案だな!そうしよう、スコップ持ってくる。」
千鳥足のままナジャは荷台の方へ駆けて行った。
ひとまず何とかなりそうだとゾラは胸をなでおろす。
今がどうにかなればそれでいい、後のことは後の奴が考えるだろう。
「とりあえず死ななければなんだっていいや。」
「君死ぬの?」
「死なねぇよ…」
喋った死体にゾラはそう話す。
「………………………あ?」
違和感がゆっくりと脳を通過し、ゾラは目の前の死体だったものを見た。
「………………………………………………」
目の前の斬首死体は太陽色の髪をした蒼眼の青年に代わっていた。
「僕はルイス。君の名前を聞きたいところなんだけど、まず水もらってもいいかな。
三週間何も飲まず食わずでね。」
青年は砂から頭だけを出してそう言って恥ずかしそうにはにかんだ。
「………………………………………………………………………は?」
ゾラは12歳くらいです。
スィールは22歳、ナジャは23歳です。