大欲非道
ほどなくして、涼平が戻ってきた。
「おいみんな! 外が、どえらいことに、なってるで!」
「なんやて、涼平! どう、えらいことになってるんや?」
「みんなのハウスが次々と、荒らされてるんや」
涼平が云うハウスとは、公園に設置してある段ボールハウスのことだ。
「くそっ! またあいつらか!?」
ここ数ヶ月前から、やくざ風の若い男達がホームレスの僅かな金品を強奪する事件が相次いでいた。中には、地方の建設現場へ出稼ぎにいったときの収入を、根こそぎ持っていかれた人もいたとか。
「いや、それがどうもいつもの奴等とは、ちゃうみたいや」
「じゃあ、誰がそんなことしよるんや?」
「なんや、今回は金目当てやなくて、この娘みたいなんや。あちこちのハウスの中をしらみ潰しに探してる奴らは、この娘の写真を他の奴等に見せて、どこにおるか聞きまわってるみたいなんや」
それを聞いた紗綾は頬を引き吊らせ、体をこわばらせた。その怯えた紗綾を気遣うように寛太が声をかける。
「紗綾ちゃんと呼んでよかったかな?」
紗綾はこくりと頷いた。
「じゃあ、紗綾ちゃん、安心したらええで。おじさん達があんたを守ったるさかいな」
「そうや、ぜんぜん怖がることないで。わしらが紗綾ちゃんを絶対に守ったるからな」
次いで何事にも鷹揚な善三が言い添えた。そのおおらかな善三の物言いに、紗綾はほっと胸を撫で下ろすことができた。
「あ、ありがとうございます」
「寛太、はよう、酢味噌作ってや。せやないと、せっかく刺身の鮮度が落ちてしまうやろう」
およねが寛太に催促する。紗綾に早く鰡の刺身を食べさせたかったようだ。
「よっしゃ、よっしゃ、ちょっと待ってや。すぐに作るさかいな」
苦労が滲み出ているような深く刻み込まれた皺。まったく慌てることなく、ゆったりとした態度。ここにいるメンバーは、幾度も修羅場を乗り越えてきたのだろう。揉め事には慣れていそうだ。
およねや善三達は紗綾を自分達の子供や孫のように想い、なんとしてでも悪い奴等から守ってあげようという心持ちになっていた。
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