13
「ほれ、およねさん、捌けたぜ。さっきは、やかましぃしてすまんかったで」
鰡の刺身を皿の上に盛り付けて持ってきたのは寛太だった。寛太は、部屋に入ってくるなり、その皿を丸いちゃぶ台に、とんっと置いた。
寛太の年の頃は60才くらい、元々、京都の老舗料亭の料理長をしていたらしい。
「次は気をつけてくれ。──さあ、久しぶりに鰡の刺身でもいただこうかな。ん? 酢味噌がないのぉ」
「へへへへ。およねさん、すまないが酢と白味噌と味醂と砂糖を少し使わせてくれへんか?」
「そうかい。まあそんなところやと思ったわ。けどな、白味噌はない。誰かひとっ走りして買うて来てくれ」
「じゃあ、およねさん俺が行っくてるわ」
部屋の狭い通路から、皆を押し退けて顔だけ出したのは若くて美丈夫な男の子だった。見た目は17か18才。髪の色は茶髪。なぜか昼間なのに、薄い色のレンズをはめたサングラスをつけている。だが、整った顔立ち、愛嬌のある笑顔を見る限りでは不良ではなさそう。気の良さそうな好青年のようだ。
「おぉ、涼平、いつも使い立ててすまんの」
「いいってことよ。それで刺身が食べれるんならお安いご用やって」
「そしたら、このお金を持っていき」
「オッケー。えっ!?」
涼平がおよねからお金を受け取ろうして居間に入ったとたん、目を丸くしてかたまった。
「なんや涼平? どうしたんや?」
「いやぁ~、いきなり知らん人がいてたからちょっと、びっくりしてもぉーてん」
お読みいただき、ありがとうございます。 少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。 評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。




