10
表向きは料亭。けれど実際のところは売春宿。そんな町屋風の建物が並ぶ飛田新地を駆け抜けると、先程、紗綾がカルチャーショックを受けた、あいりん地区へと入っていく。
目つきの悪い男達の視線が気にかかる。紗綾は気にせす、ただただ駆け抜ける。絶対に恵介に捕まる訳にはいかない。しかし、こんなとき紗綾の足首から悲鳴があがる。
(いたたっ、痛っ! めっちゃ痛くなってきた。ヤバい、もうちょっと私の足、頑張って)
足を引きづりだした紗綾は、捻挫した右足首をかばうように、けんけんするような状態で飛び跳ねて走りだす。
明らかにスピードが落ちた。恵介が間近に迫ってきている。後ろからは、革の靴底がアスファルトを叩く硬そうな音が近づいてくる。
──コツ、コツ、コツ、コツ、コツ──
後ろを振り返る余裕などない。足を引きづって走るのが精一杯。けれど、その足音が容赦なく近づいてくる。
次の瞬間、後ろから肩を引っ張られるようにしてつかまれた。
「はあ~、はあ~」と、息を切らす男の嫌な声が聞こえてくる。
「おまえ、ええ加減にさらせよ! はあ~はあ~はあ~」
息を整えようとする恵介は、後ろから紗綾の肩を強くつかんだままグイッと自分の方へと手繰り寄せた。
そのはずみで、バランスを失い地面に倒れ込んだ紗綾。悔し涙を浮かべ、顔をしかめて足首を押さえた。
お読みいただき、ありがとうございます。 少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。 評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。




