16
「タクさん、別にこいつの意見なんかどうでもええんですわ」
恵介は紗綾の方を振り向きもせずに、タクと呼ぶ男と目を合わせ続けている。
「そりゃ、いくらなんでもあかんやろ恵介。─なっ、お嬢さん? 誰でも強要はされたないわな?」
この男の言葉を聞くなり先程までのざらついた気持ちが少しだけ和らいだ。同時に自然と涙が溢れでた。急に暗雲がたちこめた状況に一寸の光が射し込んだ気がしたのだ。
この男、恵介とは違い少しは優しさがあるのかもしれない。そう思った紗綾は、思いきって本当のことを話そうとした。でも、宝くじのことは口が避けても言えない。お金の怖さは知っている。言えばどうなるかも…。
やっぱり言えない。言葉が喉に引っ掛かった。男の問いかけに、紗綾はすでに涙が溢れ出ている瞳をぎゅっと閉じながら、首を縦に振ることしかできなかった。
その時だった。またしても険のある耳障りな声音が紗綾の耳に突き刺さった。
「おまえ何、泣いとんねん。面倒臭いのぉー。お前は俺にどえらい金額の損害与えたんやぞ。今さら被害者面すんな。ボケが」
「おいおい恵介、どんなことがあったか知らんけど、おまえの言う買い取りは無理やな。本人も嫌がってるし。それにこの娘の親御さんもまだおるんやろ? そんな娘、売り飛ばしたら、即効、捕まるで。──まあせやけどな、こういうケースには、うってつけの店があるんや」
ついさっきまで、目の前の男が近所の優しいお兄ちゃんのように見えた。だが、男のどす黒い顔つきを目の当たりにした紗綾は、それがすぐに杞憂だったとことに気づく。
お読みいただき、ありがとうございます。 少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。 評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。




