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「紗綾、一週間旅行、行くぐらいの服とか諸々(もろもろ)を用意しろや」


「………」


 紗綾は歯を食いしばったまま、だんまりを決め込んだ。そんな紗綾に圭介はイラつき覚え声をあらげた。


「早よ、せぇや! おまえ、何回も言うけど、おまえが犯した罪は万引きだけやないんやで。それを俺が警察と元請けの会社に言うたらどうなるかわかってるやろうな! それに俺に損害を与えた責任をきっちりとってもらうからな!」


 紗綾は恵介を無言で睨みつけてから旅支度のような用意ををしだす。


 耐えがたい屈辱。今なら、世の中に怨恨(えんこん)による殺人事件が後を絶たないのも理解できる。

(こんな奴、絶対に生かしておいたら世の中のためにならない)


 そう思った紗綾はキッチンにある包丁を取りに行こうとする。引き出しから包丁を取り出すと刃先を上に向けてから柄の部分を力強くぎゅっと握り締めた。


(殺してやる!)

 

 そんなとき、風呂の洗い場から勢いよく水が流れる音がした。


 はっと我に返った紗綾は、包丁を引き出しに戻し風呂場へと向かった。


(あれぇ? なんで蛇口が開いているんだろう…)


 紗綾は蛇口を閉め直すと、生前に父親が使用していた椅子の方に目をやった。


(そうだ、私にはこの50億の当たりくじがあったんや。換金するまでもうちょっとの辛抱。あんな奴、殺してもなんの得にもならんし。──でもなんでこのタイミングで水が……あっそうかっ! これはきっとパパが教えてくれたのね」


 不思議と、そのような気がしたのだ。

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