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キーボードの上で、しなやかに指を動かす智明は、最後に「ほらよっ」と言ってenterキーを勢いよく叩いた。
数秒後、異変が起こりだす。
バイクに跨がった2人乗りの男達が、突如、急ブレーキをかけライダースーツを脱ぎながら叫びだす。
「熱っ、熱っ、なんやこれ!」「ヤバッ! 熱っ!」
次いで、男達はライダースーツの内ポケットからスマホを矢継ぎ早に取り出した。
アンナが目を凝らすと、スマホが発火し白い煙が出ている。男達は、胸にひどい火傷を負ったのか、かなり痛そうにしゃがみこんでいる。
ゴルフカートの車内では、不思議に思ったアンナが智明に尋ねた。
「あんた、何をしたの?」
「書き込みした奴の電子機器に特別なウィルスを流しただけや。攻撃は最大の防御なりってな」
本来なら警察か裁判所を通してプロバイダーに開示してもらはなければ、誹謗中傷した犯人を特定できないのだが、智明はそれをいとも簡単にやってのけた。それだけではなく、犯人が書き込みに使用した電子機器のリチウムバッテリーに強烈なウィルスを流し込み発火するようにしたのだ。
そうこうするうちにアンナ達を乗せたゴルフカートと、息を切らした善三が駆けつけた。
「さあ、あんたたち、観念しなさいよ!」
アンナに続き善三が激しい息づかいで語気を強める。
「はあ~はあ~、このボケが! こんなことしくさって、ただで済むとは思うなよ!」
このとき、2人の男達を取り囲んでいたのは、アンナと善三、寛太、幸治、智明と、高槻ことゴリ男だ。
「さあ、とりあえず、ヘルメットを脱ぎなさい。どんな顔か、しっかり拝ましてもらうわよ」
腕組みをし、勝ち誇ったアンナが言った。
「……」
明らかに怯えている2人はなかなかヘルメットを脱ごとはしない。なぜならば、ネット上で紗綾を叩いていたのは惠介と惠介のスカウト仲間だったから。他のメンバーは闇バイトで集めたようだ。このスカウト仲間の男もあの時、爆発現場にいてたメンバー。2人とも数日前に仮出所したばかり。もしも、警察に捕まれば次の刑期は、かなり長くなるだろう。
そのことを知っている2人は、顔を知られたくないのと同時に逃げるタイミングを見計らっていた。
この場から逃げるには、女の格好をした男女に殴りかかって逃げるのが一番、突破口を開くには、それしかない。そう考えた惠介はアンナに突進する。
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