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「あんた、よくもまあ、ぬけぬけと私に電話をしてこれたわね。覚えときなさいよ! 絶対に訴えてやるから!!」


「紗綾、違うんや。色々と誤解があるかもしれへんけど、今はほんまに緊急事態なんや。それで、前に預けたラト10の宝くじ、いま手元に持ってるか? もし、持ってたらすぐに見て欲しいんや。俺と紗綾の誕生日と好きな数字をいくつか入れてから…で、最後に紗綾が好きな数字を入れたやろ! その数字を覚えてるか?」


 恵介は、紗綾が恨み節を言う()を与えないよう、とても早口でまくし立てるように喋った。


「なんで、いきなり宝くじの話なんか…それより、絶対にあんなみたいなクズ、ゆるさないから。ほんまに覚えとけよ!!」


 そう(いきどお)った紗綾は、これ以上恵介の声を聞きたくなかった。だから、すぐに電話を切った。


 しかし数秒後、またしても恵介からの電話が鳴る。


「しつこいわね。あんたと次、話すのは裁判所。わかった!? 二度と電話してくるな!」


「ちゃうんや紗綾、ちょっと聞いてくれ! ご、五十億のラト10の宝くじが当たってるかもしれへんのんや! 今、ネット見てて、番号を照らし合わせてたら、俺と紗綾が選んだ(ここの)つ数字が全部選ばれたんや。せやから、あとひとつ当たってれば、50億が当選するんや。だから、何の数字を書いたか教えてくれ? なっ、たのむ、この通りや」


 電話口で拝みだす恵介。


「あんたね! いい加減にしなさいよ! 仮に当たってたとしても、あの宝くじは、あんたが私に手切れ金としてくれたんでしょ。それを、当選してるかもしれないからって。マジでムカつく──おい! 恵介、お前大概(たいがい)にせぇーよ! ふざけんな、このボケが!!」


 紗綾はそう言うと、すぐにスマホの電源を落とした。とたん、すぶ濡れになっている足元から急に冷えが伝わってきた。


(冷たっ、あれ!? でもどうして私、川の中に入ってるの? あっ、そうだ、ずっと前から、ふらふら歩いてたんやった。でもほんまムカつく、あいつだけは絶対ゆるさへんし! けど恵介の奴、おかしなことを言ってきたな。ラト10の数字が九つも当たってるって。──まさかっ!)


 すぐに河岸に上がった紗綾は、急いでカバンの中をゴソゴソとかき回し、長財布を取り出した。


「あった! これだわ」


◇ ◇ ◇ ◇


 この少し前、ラト10の宝くじの抽選会場では、番号を抽出する機械を製作した技術者である大槻がポケットの中のリモコンを握りしめていた。そうして、ガラス越しに青ざめた表情を浮かばせて、この会社に天下(あまく)だった尾崎に申し訳なさそうな顔を向けていた。


 そのような顔を向けられた尾崎は、苦虫を百匹以上、噛み潰したような面持ちで無言でその場を立ち去った。


 お互い、周りにさとられないよう言葉には出さない。だが、この二人の表情は番号抽出が失敗に終わったことを告げていた。尾崎のそばにいた、この会社の社長である菅沼(すがぬま)も心の内とは裏腹に涼しい顔をして退出していった。

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