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またしても香織のスマホが鳴り出した。
「はい芹沢、どうしたの?」
電話をかけてきたのはコンレットベルヴューホテルのマネージャー、見村だった。
「芹沢さん、大変です。社長への誹謗中傷がネット上に広がっています」
「見村さん、ちょっと落ち着こうか。で、ネット上って、どこに書かれてるの?」
「ですから、SNSとかコンレットの口コミとか、関西のホテルの掲示板とかありとあらゆるところに書かれだしています」
「……それで、なんて書かれてあるの?」
「あのぉ、ちょっと言いにくいんですが、『コンレッドの女社長は守銭奴』や、『万引き常習犯』、『元カレと一緒に購入した宝くじを横取りしたがめつい女』だとか、それに、『ホームレスを安くで雇い入れて奴隷のように扱っている』とか、『そのホームレスの男達を何人もまとめてベッドに招き入れている超男好きな色情魔』だとか、他にも…」
「見村さん、もういいわ。とりあえず、見村さんは警察に被害届けをだす準備をしといて」
「了解しました。あのぉ~、オーナーを擁護する書き込みをしときましょうか?」
「それはダメ、炎上したら収集がつかなくなるから。普通に受け流しといて」
「わかりました」
そうこうするうちに紗綾が席に戻ってきた。
「ん? 香織さん、どうかした?」
「あ、いえ、なんでもないわよ。それより紗綾ちゃん、もう大丈夫なの?」
「うん、ちょっと、マシになった」
「じゃあ、それなら早く食べましょう」
香織は、このような事態を紗綾には言えなかった。いや、どう言っていいのかわからなかった。それに、妊婦さんには極度のストレスを与えてはいけない。直感的にそう思ったのだ。
「あれ、善三さんは?」
善三の姿がないことに疑問に思った紗綾が香織に訊ねた。
「あっ、あぁ、なんか正面玄関の方で揉め事があったみたいで、ちょっと見てくるって…」
「そうなんや…」
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