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父親である善三に頼まれた香織が、女子トイレに入るなり紗綾の声を耳にした。
「こんなにつわりがしんどいって、思わへんかったし。はぁ~、あぁ~しんどっ。これじゃ、せっかく乗馬場を作ったのに、お馬さんに乗れへんやん」
このとき、紗綾はミケと話していた。だが、ミケの声は香織には聞こえていない。香織は、紗綾が独り言をぼやいているのだと思っていた。
『アホにゃんか! 妊婦が乗馬なんてできるわけにゃいやろ、バカも休み休み言えっにゃん。だからゆうたにゃんよ、乗馬場なんか作るにゃんって』
「そんなこと言われても、子供ができるなんて思わなかったんだもん」
『紗綾、ちょっと待て、誰かいてるにゃん!』
紗綾に注意を呼びかけるミケ。
「………」
ただのぼやきだと思っていた香織は、訝しげな面持ちで紗綾に問いかけた。
「紗綾ちゃん、誰かと電話で話してるの?」
「あっ! そう、ちょっと友だちと…」
「そうなのね。それより、大丈夫?」
「うん、ちょっとマシになってきた。もう出るから心配しないで」
「それなら良かった、じゃあ私は席に戻ってるわね」
「はい、ごめんなさい。香織さん、気にせず先に食べててください」
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