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「なあ香織、悪いけど見にいたってくれへんか?」


 紗綾を心配するが、善三は女子トイレには入れない。


「うん、そのつもりよ。──でも、ほんと信じられへんし。なんで、こんなことになったんよ?」


「いやぁ~、せやけど、男と女ってわからんもんやな。ハッハハ」


「笑って誤魔化すな! 私、これから紗綾ちゃんのことをお義母さんって呼ばなあかんやん。それに子供ができたら、私の妹になるわけでしょ。マジで、ありえへんし」


「まあまあ、家族が増えるってええもんやって。ところで香織、智明とは上手くやってるんか?」


「まあそれなりね。彼も今、すごい忙しいから」


「そうみたいやな、なんか内容は知らんけど、かなり大きなプロジェクトを任されてるんやってな」


「そう、絶対に他者には口外したらあかん仕事なんだって。だから、私もあまり踏みいったことは聞かないようにしてるの。じゃあ、ちょっと紗綾ちゃんの様子をみてくるわね」


 現在、香織とお付き合いしているのは、あいりん地区でテント生活していた智明という男性だ。以前に善三が、削除された紗綾と恵介のやりとりを残した録音データの復元を頼もうとしていた人物だ。


 本名、明石智明(あかしともあき)。40ばかりの元システムエンジニア。彼もアンナと同様、アメリカの大手民間企業で何年も修行してきた凄腕プログラマーだ。帰国後、大手IT企業で勤めるも数年後、海外からの大規模なウィルス攻撃により、彼が構築していたセキュリティシステムが破られ責任をとってあえなく辞職。その後はPCの画面上の英数字の配列を見るのが辛くなり、職を転々としたあげく最終的にたどり着いたのが、あいりん地区だったというわけだ。その頃の智明は善三と同じで、なにもやる気が起こらなかった。だが、飯を喰うために時折、建設現場に出て最低限の仕事だけはしていたようだ。

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