表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
289/312

35

 分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)に扮したスタッフからおしぼりを受け取った香織は、口元を拭きながら父親である善三を睨み付けた。


「おい親父(おやじ)! 冗談は、お前の人生とその頭だけしとけや!! なんで親子ほど年の離れた紗綾ちゃんを《《てごめ》》にしとんねん! ──ちょっと、《《ハゲ増し》》がたらんかったみたいやな! そこへ、もう一回、土下座せぇーや!」


「いやいや、それだけは勘弁してくれ。──香織、そんな怒らんでも…。これは自然な成り行きやったんやて」


「自然な訳ないやろ! ねぇ、紗綾ちゃん、ほんまのこと言うてや、このハゲ親父に無理矢理されたんやろ?」


「香織さん、それは誤解です。元々、私は早くに父親を亡くしてて…善三さんを父親のように慕うようになってたんです。善三さんは、今まで付き合ったどの男性よりも遥かに優しいですし、それに一緒にいると落ち着くっていうか、頼りがいがあるというか…、香織さんも知ってると思うけど、今回のこの計画がここまでこれたんも善三さんあってのことですし。善三さんが、いつも私に的確なアドバイスをくれたり、あいりん地区の人達をまとめあげて、ここで勤めるようにしてもらったりで…、他にも色々と知ってることが多いから、メッチャ助かってるんです。──だから、善三さんには、私から付き合って欲しいって頼んだんです」


 香織は、その話を聞くなり般若のように吊り上げていた目尻をいったん下げた。


「なんや、そうやったんや。私は、てっきりこの親父が無理あくたに紗綾ちゃんを襲ったんやと思ってしまったわ」


「まあでも、なんの計画も無しに子供を作ったんは、ちょっと軽率でした。あの日は、2人共お酒を飲み過ぎてて、善三さんの理性のタガが緩んだというか…」


「やっぱり、このオッサンが悪いんやな、おいハゲ親父、いくら酒が入ってたからゆうて、若い娘を襲うってどういう了見や!?」


「いや、それはちゃうんやって。あのときは紗綾ちゃんがよっぱらった勢いで積極的に、わしに覆い被さってき…」


 その言葉を聞いた瞬間、紗綾は素早い手さばきで善三に氷水をぶっかけた。


「うわぁー! 冷たっ! 紗綾ちゃん、それはないで~」


「はいこれ」と、冷淡に言った紗綾が善三におしぼりを渡す。善三も半分泣きそうな顔で、濡れたシャツを拭きだした。その善三の情けない表情を見た紗綾は多少の罪悪感を覚えたのか、善三の服を別のおしぼりで拭きだした。


 がしかし、善三の胸に顔を近づけたとたん、善三の汗と親父臭を()ぎとり、またしてもつわりを起こす。


 すかさず、おしぼりを口元にあてた紗綾は、そのままトイレへと駆け込んだ。

お読みいただき、ありがとうございます。 少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。 評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ