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「おまっとうさんです、天ざる二つに、ざる蕎麦を一つお持ちしましたポンポン」


「ありがとう、この調子で頑張ってね」


「はい、ありがとうございますのポンポコリン」


 社長達の前だと、緊張と照れ臭さが混じりあったような顔を見せる分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)に仮装したスタッフ。すぐにテーブルに料理を置くと、(せわ)しなく奥へと早足で駆けていった。


「ほんと、アンナさんのアイディアって、おもしろいわね。──でも紗綾ちゃん、天ざるだけでいいの?」


 香織がタヌキに仮装したスタッフの後ろ姿を見ながら紗綾に尋ねた。


「うん、これがいいの。あとコーラがあればいいんだけどね」


 チラッと善三を見る紗綾。


「よっしゃよしゃ、わしが()うてきたるわ」


「ありがとう」


 妊娠していると、普段好まないものも食べたくなるらしい。蕎麦とコーラは合わないと思いつつも善三は快くコーラを探しに行った。


「なんか変な組み合わせね。今日の紗綾ちゃんちょっと変よ」


「そう…ア、ハッハハ」


「うん、やっぱりなんかおかしい。どうかした? 心配事があるなら、おねぇさんが聞くわよ」


 紗綾よりも五つも年上の香織がとても気がかりそうな顔を浮かべ紗綾を見つめた。


「いえ、心配事と言うわけでもないんですけど、ちょっと香織さんに報告がありまして…とりあえず、先にいただきましょう」


 そうこうするうちに、善三が息を切らして戻ってきた。


「あら、おとうさん、えらい早かったわね」


「うん、隣のパン屋さんに売ってたんやわ。──はい、どうぞ」


 ペットボトルに入ったコーラの蓋を開け紗綾の前にトンと置いた善三は、目の前に置かれた天ざるを見るなり早く食べたそうだった。

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