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日帰り入浴もできる温泉施設の宴会場から和み宿まで徒歩2分。蕎麦屋がある石畳の通りには、ハロウィンということもあり仮装している人達で溢れかえっていた。
すべてのスタッフ達はアンナとその助手達が施した特殊メイクで、多種多様な妖怪に変化していた。それも、バラエティーに富んだインターナショナルなあやかしなどだ。ハロウィンではお馴染みのドラキュラやフランケンシュタイン、ユニコーンにセクシーな美女と野獣に狼男、それにアンデルセン童話にでてくるお姫様達まで。中華では、孫悟空や沙悟浄、猪八戒や牛魔王、チャイナドレスを纏った美しい女性など。日本の妖怪では、塗り壁や猫娘、ネズミ男、ぬらりひょん、豆腐小僧に九尾の狐や様々な鬼達など。そのような人ならざる者に仮装したスタッフ達が、来客者の目を大いに楽しませている。
その上、来客者達にも仮装ができる衣装が用意されており、おもいおもいの姿に変身できるのと、京都の観光地同様、昔の情緒をより味わってもらうために着物のレンタルも行われている。もちろんメイクアップアーチストや着付けができるスタッフも常時多数配備している。
色とりどりの仮装姿の人々で賑わった通りをゆっくりと歩く紗綾達。3人は、仮装したスタッフ達やお客さん達を見て頬を綻ばせた。
町屋に並ぶ小綺麗なお漬け物屋さんや洒落た土産物屋さん、美味しそうな鯖寿司や焼き鯖寿司、もくず蟹などを販売している店を通りすぎ、ポン栗や栗饅頭、栗餅、大学栗に柿や黒枝豆、松茸、あけび、その他とれたて新鮮野菜など、この辺りで採れた旬の食材を販売しているお店に差し掛かると、日本昔話からでてきたような格好をしたお爺さんが紗綾に話しかけてきた。このお店の店主のようだ。
「よお! 我が当主のお姫様、見物に来たのかい?」
「あっ! おとうさん、こんにちは。どうです、売れ行きは?」
「まあまあや、幸先はなかなかええわ。移住組の人らも畑仕事をきばって手伝ってくれとるしの。──それより、ちょっと聞きたいんやが、今日はハエがようけ発生しとるんかいの?」
「ハエですか? あのブンブン飛ぶ蝿ですか?」
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