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「善三、めちゃくちゃなんはどっちや。どうせお前らのことや、もうとうに退院せなあかんのに、あっちでのテント生活が嫌やからここで長々と居座っとんねんやろ!?」
図星だった。本来なら善三は2か月前に、アンナは3ヶ月前に退院しなければならなかった。
「だって、おかあさん、ゴリさんのタクシーの保険から全額治療費とかが出るって聞いてたから…だから問題ないでしょ?」
アンナもおよねに意見した。善三は何も言い返せない。
「ったく、わかっとらんのぉ、とことん図に乗るから貧乏人は嫌われるんや。だいたいお前はな…ガミガミ……ガミガミ………」
このあともしばらく、およねの説教が続いた。そんなおよねに不満そうに口を尖らせたアンナの傍らでは、宮前が申し訳なさそうに腰を低くして善三に名刺を差し出した。
「あの~、八雲さん、兼光さまより八雲さんのことは色々と伺っております。どうぞ、これからはよろしくお願いします。それと、後々はお手柔らかに…」
「あっいや、何を聞いてるのかさっぱりわからへんけど、なんかちょっと恥ずかしいな。ハハハハ、まあ、こちらこそよろしくです」
すると、アンナにものの道理を言い聞かせたおよねが、宮前をギュッと見据え強引に話をもっていく。
「ふんっ、とりあえず宮前さん、明日、先方さんも連れて寄してもらうし、応接室は開けといてや。先方さんも日本におるのが明後日までらしいからの。紗綾、善三と一緒に明日の朝イチでわしを迎えに来るんやで」
「あっ、はい。もう今日にでも退院手続きをとってレンタカーを予約しときます」
「ふむ、あと当面の間はコンレットに泊まったらええんとちゃうか? のお! まさる、かまへんわな?」
およねは、まさるの方へと振り返った。
「それは、はい。次期オーナーさんですから」
「せやが、アンナが、あそこのホテルに泊まるんは、紗綾の心持ち次第やな。クックク」
「もうお母さんのイケズゥ~。──ねえ、紗綾ちゃん、大丈夫よね? 私もパラダイスの世界へ招待してくれるわよね?」
「さぁ~、どうしようかな……」
「ぅぅん、もぉ~」
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