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「まあ、良いわ。ほな紗綾、当たったくじをこの人に渡しとき。そのために今日はここまで来てもうたんや。なぁ、宮前さん?」


「はい、これから大得意様になられるお方に同じ(てつ)は踏ませたくありませんので」


 それを聞きアンナとまさるは息をついた。もうこれで、襲われる心配も、なくす心配もなくなったと安堵しているようだ。


 その後、行員の2人が当たりくじの番号を念入りにチェックしてから、アタッシュケースの中にその当たりくじを一枚だけ入れ、鍵のダイヤルを回す。次いで後ろで待機していた体格の良い2人の行員にアタッシュケースを手渡した。聞くと、病院の表玄関の駐車場には警備会社の車が待機しているらしい。この1枚の紙切れの重みがよくわかる。


 手際よく領収書のようなものに行員がボールペンを走らせる。書き終えると行員は副頭取である宮前にその紙を渡した。それを受け取った宮前がダブルチェックをしてから話を続けた。


「では、二条様こちらが預り証になります。それとこちらにサインを頂けますか?」


「はい」


 ボールペンを手渡されサインをする書類に目を通した紗綾。


(えっ!? 二千万円!! この紙袋にそんなに!)


 ついつい大声を上げてしまいそうになったが、懸命に心を落ち着かせ前払い金の受け取りにサインする。書き終えると宮前が今後の流れを説明しだした。


「二条様、今回は特例ということで、今日から一週間後にはこちらの2000万を差し引いた残りの84億8000万円すべて換金できる用意をさせていただきます。それまでの間、二条様の身分が証明できるものと連絡先と認印を用意して当銀行まで起こして下さい。心よりお待ちしておりますので。──それと、早くお身体、良くなってくださいね」


 宮前はそう言うと目尻に皺を作り、紗綾に優しげな笑顔を見せた。


「あっせやせや宮前さん、コンレットを購入するにあたって、もうちょっと話を詰めとかなあかんから、明日にでも紗綾と先方さんを連れてそっちに寄せてもらうわの」


 そのしゃがれた声を耳にした善三は、すかさずおよねに意見した。


「それはあかんって。およねさん、紗綾ちゃんはまだ退院できひんのやで」


「ふんっ、そんな柔なこと言うてたらこれから先が思いやられるわ。わしの見立てでは、もう大丈夫や。せや善三、そんなにも紗綾のことが心配なんやったらお前さんも一緒に来たらええ。──宮前さん、このハゲ親父がこの前、話した八雲善三や」


「もうほんま、めちゃくちゃやな…」

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