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「まあまあ寛太、今はゆっくり休んどけや。向こうに行ったら嫌っちゅうほど料理せなあかんのやから」
善三が寛太に頬を緩めながら語りかけた。その善三にニッと笑みを返した寛太は、どこか満足気にしたり顔を浮かべた。
「それと、幸治さんと奥さんの真理子さんには、あちらで農業をしてもらってもいいですか?」
「ええんか?」「いいん?」
二人は明らかに喜んでいるようだった。その理由とは二人とも元は百姓だったから。十数年前、幸治の親のしでかしたことで四国の家や田畑を失い大阪へ逃げてきのが始まりだった。その後も不幸が続き勤めた会社が次々に倒産。挙げ句の果てには困窮してしまい、最終的にあいりん地区に流れついたという訳だ。ずっと土いじりをしたかった幸治夫妻は水を得た魚のように胸を高鳴らせた。
「もちろんいいです。ってか、こちらからお願いしてます。あそこでの料理は地産地消を売りにしたいと思ってますので、美味しい京野菜なんかをたくさん作ってもらえたら助かります。あと、農作業で使う耕運機などは、すべてこちらで用意しますからね」
「ありがとうな紗綾ちゃん、俺らのことも考えてくれてたんやな」「紗綾ちゃん、ありがとう」
うっすら涙を浮かべる幸治夫妻。良かったと安堵した紗綾。だがその刹那、はっと思い出したようにもう一度、寛太の方を振り向いた。
「あっそうだ! 寛太さん、もうひとつあの辺は鹿とか猪に畑を荒らされて困ってるって近くに住むお爺ちゃんが言ってましたんで、なんとかしてもらえないですか?」
「よっしゃ、まかしとき。昔はよー罠を張ってあいつらを捕まえたんや。んでな、それを捌いて食べてたんやで。今はジビエとかゆうてお洒落な呼び名がついとるけど、猪鍋とか、もみじ(鹿の刺身)なんかは、そらぁーめっちゃ上手いんやでー」
「へぇ~一度食べてみたいわ~」
舌をペロッとだしたアンナは、待ち遠しそうだった。そんなアンナを横目に紗綾がてきぱきと話を続けた。
「それと、高槻さん」
「へいへい、わしにも何かすることがあるんで?」
「はい、高槻さんにはタクシー会社とバス会社を立ち上げてもらいたいと思ってます」
「えっ!? ほんまかいな? どういうことや紗綾ちゃん?」
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