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「寛太さんの実家の土地を無償で提供してくれるって話ですが、代々受け継がれた土地を無償ではちょっと気が引けますんで…どうでしょう? ズバリ1800万円で譲ってもらえないでしょうか? 相続税がかからないのは二千万円までと聞いています。でも、あまりちょっきりの数字だと色々と税務署に詮索されても面倒ですし、その金額が妥当かと思ったんですが…」
「えっ!? いや、それはあかんって紗綾ちゃん、みんなの終の棲家になるんかもしれんねんし、それにあんな土地、誰も買い手なんか現れへんしよ。せやから、わしはそれでええんやって。それよりわしは何をしたらええんや?」
「いや、それだけは絶対に譲れません、もしも寛太さんが受け取らないと言うんでしたらこの話はなかったことにします」
きっぱりと言い切った紗綾。それを聞いた善三が寛太に諦めろといった風に口を挟んだ。
「寛太、このオーナーは結構、頑固なとこあるさかいな、一回口に出したことは絶対に引かへんで」
紗綾の真剣な眼差しを見た寛太は観念したように口を開いた。
「……そうか、せやったらその金、紗綾ちゃんが預かっといてくれへんか。わしがそんな身の丈にあわへん金、いきなり持ってしもうたら又、悪い虫が走りだすかもしれへんしな。──わしは先月、慎太郎にタクに乗してもうて実家に連れて行ってもろたんや。善三らも知っとると思うけど、わしがアホなことしてもうたから、おかんの死に目に会うことできんかった。ほんま親不孝なことしてもーたで。だからこれからは、紗綾ちゃんがチャンスくれるんやったら皆のためになることをしたいと思ってたんやて」
寛太が言う悪い虫とはギャンブルのこと。生前の母親に苦労をかけ悔やんでも悔やみきれない寛太はもう一度人生をやり直したいと切に願っていたようだ。
「わかりました。じゃあこちらでそのお金は預かっときますね。でも、いつでも入り用な時は声をかけてください。で、寛太さんにはその施設での料理を全般に担当してもらってもいいですか? まあ、当面は施設やらが出来上がるまでの数年は、みんなの食事を作ってもらえればありがたいんですが…」
「あいあい、待ってました。やるで、やらしてもらいますがな。あっそうや、さっそくやけど紗綾ちゃん、それやったらその金から100万円だけ出してもらえへんか? その金で包丁とかを一式、揃えたいんや」
「それなら包丁も調理器具などの必要経費ですので、こちらから出しますよ」
「いや、それはあかんって、包丁は料理人の魂や。人に買うてもらうわけにはいかんのやて」
「そうなんですね。わかりました、じゃあ換金できしだい渡しますね」
「あっそれと、今わし、手ぇあいてるし、なんやったらコンレットの和食レストランで料理人したってもかまへんで」
「いやそれは……、あのホテルで鰡の刺身なんかを出されたら、ちょっと…」
紗綾の、その言葉を聞くなり皆が一斉に笑いだした。
「そりゃないって! 紗綾ちゃんも冗談きついわー。あのときはあの魚しか釣れへんかったんやって」
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