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「そうさの、先方の希望は70億じゃて。それには今後、コンレットベルヴューの名を使っても良いという条件じゃ。どうじゃ、悪くない話やろ?」


 およねが悪くないというのも、コンレットベルヴューホテルは客室やサービス、料理などすべてにおいて五ツ星獲得している名実ともに申し分ない高級ホテル。その名前を使えるのだからコロナ渦が終息すれば確実に客は返ってくる。だが、紗綾は金額が金額だっただけに即答できないでいた。


「えっ、ちょっと70億ってそんな簡単に、…」


「まあ、当面の運転資金や税金の問題もあるやろうから、いくらかは銀行で融資してもらったらええんや。そのためにみずお銀行の副頭取を紹介しようと思ってたんじゃて」


「でも、それじゃミケがいいって言ってたあの土地とかゴルフ場を買うお金が足らなくなってしまうかも…」


「あぁ、それも涼平から聞いて折り込み済みじゃ。その寛太の故郷の土地、ちょっと調べさせたんやが、先ずは、あのゴルフ場が競売価格で1億円や、その周りの山々も含めての。それと、寛太の所有する土地と田んぼと山は、みんなのためになるんやったらって無償で提供するって言ってくれとるわい」


「そうなんですね。じゃあざっと計算したら70億と1億やから71億円ですね。ということは残り14億円か…」


  紗綾はこのとき考えていることがあった。14億円もあるんだったら十分にセレブ生活が堪能できると。ところがこの後、それが甘い考えだったと思い知らされることになる。およねが間髪いれず話を続けた。


「そうじゃ、その残りの金で温泉施設やら宿泊宿やらをこさえたらええんじゃて」


(えっ、ェエーー、そんなことしたら私には1円のお金も残らないじゃないの)


「それが、わしと涼平の切なる望みじゃ。紗綾、おまえも一度は失った大金と命じゃ、これからは大事に使わんとな」


(だから、大事って意味わかってます? 私の自由になるお金はどこにいったの!?)


 そう大声で叫びたかった。だが、命の恩人ともいえるおよねと、間違いなく命の恩人のミケを前にして、言いたいことが言えなかった。そのまま、およねとミケに押し切られるような形で、やむ無く返事をだしたのだった。

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